101話 無能なリーダー
「倒せば……いい?」
俺の言葉に金騎士のオーリックが反応する。
しかしその表情は険しい。あまり肯定的な感じではなさそうだ。
次の瞬間、俺の勘は当たることになる。
「君如きが簡単に言うな!ずっと金級に落ち続けていた癖に」
「ちょっと、オーリック!」
「この私が、こんなにもあっさりと捕らえられ地獄を見せられ、それが夢だということにさえ今まで気づかなかったんだぞ……!」
成程。そんな理由で俺の発言を否定しているのか。
しかしあまりにも打たれ弱すぎる。
彼の人生を把握している訳ではないが今までが順風満帆過ぎた反動なのかもしれない。
金級冒険者ならそれだけ強敵と戦う機会も多い筈だが。
俺はオーリックたちがキルケーに捕まった経緯が気になった。
「そもそも金級冒険者様ともあろう人がなんで無様に捕まったんだ?」
つい言葉に毒が混じる。悪夢の中での恨みと目の前の彼への悪感情が入り混じっているのかもしれない。
灰村タクミとしての記憶と人格を有した今でも俺はこのオーリックという男が好きじゃないことに気づいた。
「それは……」
「仲間に騙されてはめられたのよ。新しく団に入れたテイマーが魔族を崇拝する邪教団の人間だったの」
口ごもるオーリックの代わりにエウレアが答える。
半年間大人しかったからすっかり油断していたわ。
そう愚痴る彼女は傍らの騎士程精神が乱れていないようだった。
「……それって献身の灰教団か?」
ノアに以聞かされた情報を思い出し尋ねる。
エウレアは苦々しげに頷いた。
「そうよ、魔族と組んでいたなら魔物の扱いが上手いのも当然よね」
「つまりそいつがこの洞窟まで二人を連れてきたってことか」
俺の発言にオーリックとエウレアの背後から異論が上がる。
「ちょっと、このサリアちゃんもいるんですけど」
弓を背負った小柄な女性が口を尖らせて言う。
その名前と勝気そうな顔にうっすら覚えが有った。
先程の台詞を考えれば黄金の獅子団のメンバーの一人だろう。
女性二人に男性一人。
俺は何となく思いついたことを口に出してみる。
「裏切ったテイマーも女で、オーリック好みだったりしたのか?」
「なっ、貴様」
「そうよ。だからあっさり騙されちゃったのこの人」
私たちまで巻き込んでね。そう微笑むエウレアから確かに怒りを感じる。
しかし元気とまではいえないが気丈そうでよかった。
俺の作戦に必要なのはオーリックより彼女の方なのだから。
「この洞窟の底に封じられている邪竜を倒せば伝説の剣が手に入るって騙されたんだよ、馬鹿だよねー」
「じゃ、邪竜?」
「そう、確かエレクなんとかっていうの。魔王のペットだとかいう……きゃあ?!」
急に空間が揺れサリアが悲鳴を上げた。
彼女だけでなく他の冒険者たちも怯えた様子になる。
「な、なによ。ここもあの魔族に気づかれたっていうの?」
それはきっと違う。
神竜エレクトラの仕業だろう。
しかしこんな風に介入できるならいっそ姿を現して場を仕切って欲しい。
だが以後一度大きく揺れた以降アクションは無い。
そんな他力本願な願いは叶わないらしかった。
「今のは女魔族キルケーの仕業ではありませんが、何れ気づかれるのは確実ですね」
「アナタは……」
「クロノです、サリアさん」
「クロノって、アルヴァに虐められてる見習いの子よね?でも確かもっと小さくて女の子みたいだった気が……」
会話に割って入ってきた青年クロノの外見にサリアが戸惑いを見せる。
「待って。その坊やならそもそもアルヴァの横にいるじゃない」
「あっ、本当だ!でもどういうこと?」
エウレアの発言は益々サリアを混乱させたようだった。
「僕は現実のクロノが想像し生み出した理想の存在です」
ここは夢の世界ですからね。
にっこりと彼が笑うとサリアは頬を染めた。
「成程、大人になった自分の姿ってことね」
「そうです」
青年姿のクロノが肯定する姿を見て俺は何故彼が姿を変えたのか気づいた。
現実のクロノの性別に言及させたくないからだ。
少年のクロノのままでは余り外見が変わらず理由を探られる可能性が高い。
でも大人の姿なら子供が想像した成長後の自分の姿なのだと納得させられる。
実際エウレアは説明されなくても察して結論付けた。
「そして皆さんをここに呼び寄せたのも僕です」
命じたのはアルヴァさんですが。
彼の言葉に何度目かのざわめきの声を冒険者たちが上げた。
「凄いわね貴男、この世界ならオーリックよりも強かったりするのかしら?」
「なっ、エウレア」
「そうでしょうね。夢の世界は魔力と精神力が物を言いますから」「へえ、だったら今のオーリックなんて銀級どころかムラビトレベルじゃん」
「サリア!」
パーティーの女性陣から辛辣なことを続けて言われオーリックは情けなく叫んだ。本当に打たれ弱い。
ここまでくると逆に哀れになってくる。
「ま、まあ……夢から出た後は戦闘になると思うし。金級の剣士ならそれなりに活躍出来る筈だから……」
「うう……あの狂犬アルヴァに慰められている、なんて惨めなんだ」
俺のフォローは逆にオーリックの尊厳を傷つけたらしい。
もう放置で良いか。しかし先程言ったことは事実なので彼が使い物にならないのも困る。
そんなことを考えていた時だった。
「ああもう、金級だか知らないけどうざくて不愉快な男ねっ!」
「あああ、あちっ?!」
女性の怒鳴り声と、少し遅れて男の悲鳴が聞こえる。
そして動物性の何かが焦げるような臭い。
「こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ、だらだら落ち込んでる空気の読めない奴は燃やして薪代わりにするわよっ!」
「……ミアン」
溜息を吐くべきなのか、よくやったと喝采すべきなのか。
金髪を二つに結い上げた女魔術師は燃えるような目で俺たちを睨んでいた。
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