99話 仲間との再会
クロノと話を終え、もう一組の俺たちがいるリビングへ戻ろうと促す。
今まで彼女が眠っていた部屋は少し前にアジトに与えたばかりの自室だった。
「そこにもう一人の……男のボクがいるんですね」
少し緊張を浮かべた顔でクロノは行きましょうと自らドアノブに手をかける。
開いた先には木造りの廊下がある筈だった。
「あれ……?」
不思議そうな声を少女があげる。
扉の先にはリビングの三倍以上ある部屋と大勢の冒険者たち。
その光景に俺も戸惑う。
「これは……」
「部屋を広くして繋げたんです。流石にあのままでは狭すぎる」
そう低く心地良い声で回答がされる。
台詞が聞こえた方に視線を向けると再度戸惑う羽目になった。
「えっと、その……クロノ?」
「はい、僕です」
俺と視線がそんなに変わらない少年、いや青年はにっこりと笑った。
「少し離れてる間に、随分成長したなあ……」
「ええ、その方が色々都合いいかと思って」
これなら服を着ていても少女のクロノと絶対間違わない。
「都合が良いって……」
どういうことだ。そう尋ねようとして傍らの少女の存在を思い出す。
「アナタが……ボク?」
「そうとも言えるしそうでもないとも言えるね」
短い会話の後、兄と年の離れた妹のようになった二人は無言で見つめあっていた。
そこに割って入るか迷っていると背中を誰かからつつかれる。
振り向くと金髪と紫の瞳が印象的な女性が俺を睨んでいた。
「ミアン……?」
「ねえ、あれがクロノのなりたい大人の姿って本当?」
「あれって……」
彼女が小さく指差す先には良く似た顔立ちの男女がいる。
ミアンが言っているのは青年姿のクロノのことだろう。
「まあ、そうとも言えるしそうでないとも……」
「あの娘、もしかして本当に男になりたかったの?」
小声で訊ねてくる女魔術師に俺は曖昧に頷いた。
クロノの中に男性になりたいという気持ちがあるのは事実だと思う。
ただその気持ちだけが全てなのかは俺にはわからない。
「茶化したりするなよ」
「しないわよ、こんなややこしいことで」
大体そんなことしている場合じゃないでしょ。
そう言いながらミアンは俺の腕をつかんで何処かへと連れていく。
「おい、ミアン……」
「グズグズしないで頂戴。私たちあんたに色々聞きたいことがあるんだから」
「私たち?」
そう問いかけた後、方向の先に三人の男女がいることに気づく。
体格が並外れていい鎧姿の騎士と、シーフの軽装を細身に纏った優男。
そして真っ白な聖衣を着て微笑んでいる清楚な美女。
「ブロック、カース、エスト……!」
「よう」
「お久し振りです、アルヴァ」
片手を軽く上げ短く呼びかけるカースと深々と頭を下げてくるエスト。
盗賊と治癒士の男女はそれぞれのやり方で挨拶をしてきた。
ブロックは二人の背後で壁のように立っている。彼が寡黙なのはいつものことだ。
「やれやれ、お前のせいで本当酷い目に遭ったぜ。謝れよ」
「えっ、ごめん?」
合流して早々カースに責められて思わず謝ってしまう。
するとこちらを糾弾した側であるカースまで驚いたような表情をした。
「あのアルヴァが素直に謝ってくるなんて、マジかよ……いや、夢だからか?」
「だから言ったでしょ、現実でもこいつ急にまともになっておかしくなったって」
「……」
自分の頬をつねるカースに呆れたように声をかけるミアン。
ブロックは無言ながらもこちらを凝視している気配を感じる。
「あらあら……本当に、人が変わってしまったのですね」
おっとりと頬に手を当てながらエストが言う。
「ミアンに脅されたから喧嘩売ってみたけどいつものあいつなら即殴ってくるだろ」
「なんか死にかけたせいで心を入れ替えたみたいよ」
「だったらもっと前にまともになってる筈だろ。俺たち死と仲良しこよしの冒険者だぞ」
カースは疑いの目でじろじろとこちらを見てくる。
そういえば彼はアルヴァの幼馴染だった。
知の女神の話も持ち出してくれればよかったのにと一瞬ミアンを恨む。
だが穏やかに微笑むエストを見て悪寒が走った。
治癒士としての腕も良く慈悲深い彼女が灰色の鷹団しか居場所がない理由。
「まあまあカース、死をきっかけに改心するという話はよく聞きますよ」
「でもよ、エスト」
「きっと死の淵で女神ライトフレア様に出会ったのでしょう。寧ろそうに違いません」
女神の素晴らしい奇跡です。静かに、だが力強く言い切って彼女はにっこりと笑った。
それ以外の理由など許さないという無言の声が聞こえてくる。
色々な意味で気まずい沈黙を破ったのはカースだった。
「ま、まあ、良い方に変わったなら俺は別に……なあ、ブロック」
黙って頷く鎧の巨漢。ひたすら微笑み続ける聖女。
薄氷の上に立っている緊張感は消えないがなんとかなりそうだ。
ただ俺はもう一人のアルヴァの姿が見えないことが先程から気になっていた。
しかしこの面々に尋ねるわけにもいかない。
気づかれないように彼を探していると青年の姿のクロノが俺を呼んだ。
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