68話 問題だらけの組織
トマスも別にギルドに悪意があってそんな真似をしたわけじゃないと思う。
きっと自分が出来ることをやっただけなのだ。
そして実際彼が自警団に在籍している間はその方法で上手く行ったのだろう。
「トマスさん、自警団辞めるだけじゃなくてまさか街からも出ていくなんてな……」
レックスが大きな溜息を吐く。
「妻と息子の件で散々見下しておいて、居なくなってから後悔か?」
「俺はそんなことしてない!」
「でもトマスたちが周囲からそういう扱いを受けていることは知ってたんだろ」
「それは……」
「あいつらは昨日今日酷い目に遭って出て行った訳じゃない、積み重ねはあった筈だ」
実際その背を押したのは俺なのだが。
恐らく俺が言わなければトマス達はまだこの街に居ただろう。
マルコの生まれ育った場所というだけでなく、ここには彼らの妻であり母である人物の墓がある。 ただ、俺に言われて即決断出来るくらいにはトマスも迷っていたことは確かだ。
そんなことを口にせず考えているとレックスが頭をガシガシと掻きながら悔し気に言う。
「わかってるよ、この街はあの親子にとって居づらい場所になってた。守る必要もない位にな」
そして俺たちの方はトマスさんの力をまだ必要としてるんだ。
レックスが自嘲しながらこちらを見る。太い眉に意志の強さを感じた。
「アルヴァ・グレイブラッド。実はあんたのことは、火猪の件より前から知っていた」
「俺は嫌われ者として有名だからな」
「それもあるけど、トマスさんが話してくれたんだよ。あんただけが息子を命がけで助けようとしてくれたって」
「トマスが?」
「俺は自警団入りたての頃あの人に面倒を見て貰って、それからずっと親しくさせて貰ってたんだ」
結局あの人に恩も返せないままだったけどな。寂しげにレックスは言う。
彼にとってトマスは良くしてくれた先輩、もしくは上司というポジションだったのだろうか。
初めて会った時にレックスをどこかトマスに似ていると感じたことを思い出した。
「でも正直巨大スライムをあんたが倒した件については半信半疑だった」
そもそも巨大スライムが出現したという話自体が自警団内でもまだ疑われている。
レックスの言葉に俺は一瞬彼を怒鳴りつけたくなった。
マルコが命を奪われそうになり、俺があれだけ苦労をして倒した魔物が出鱈目扱いされているという事実が頭に血を上らせたのだ。
「わかってる、だからそう怖い顔で睨まないでくれ」
証拠がないんだ。そう途方に暮れたような顔でレックスは項垂れた。
「火猪みたいに死体があればいいんだが」
「……確かに、斬った瞬間に水になったな」
「目撃者もあんたの仲間と、自警団の中でも特に信用がない連中だけだからな」
実際トマスとマルコ、そして場に残った自警団メンバーの状況説明は随分と食い違ったらしい。
「そもそも初めはあいつら自分たちが巨大スライムを倒したとか言ってたんだぜ」
「ハハ」
乾いた笑いしか出ない。
「そしてその意見を鵜呑みにしたのが俺の糞親父で、自警団団長でもあるんだが……」
「大丈夫かよ、その自警団」
「かなり駄目だよ、色々とな」
そりゃ副団長も抜けるわと何故か力強く言い切ってレックスはがくりと肩を落とした。
「本気で信じてるとは思わないが……街の中と周囲の警備は自警団の仕事だからな」
「それで?」
「なのに巨大スライムなんて厄介な魔物に気づかなかった、子供が襲われた、冒険者に倒してもらっただと問題になるんだよ」
だから可能な限り外部に知られたくないのだろう、そうレックスは言った。
「もし知られても襲われたのは副団長の子供、倒したのは自警団団員だったら批判も最低限で済むだろうしってことで……考えてて嫌になってきたな」
「聞かされてるこっちも大分不快だぞ」
「トマスさんは恐らく俺たち以上に自警団に失望しただろうな、だから辞めちまった」
そして自警団は益々人員不足になったって訳だ。
十代の若者とは思えない程倦み切った声でレックスが呟く。
「残った連中も、森のスライム退治に駆り出したら速攻でトンズラだしよ」
巨大スライム退治したんじゃないのかよ、口を尖らせる青年に俺はあることを思い出す。
「雑魚スライム退治だが、俺たちが代わりにやらされたぞ」
そしてその時、この街の近くには居ないポイズンスライムを見つけた。
俺の言葉に自警団の青年は姿勢を正す。
「ポイズンスライムって、体が猛毒で出来てるあの魔物か」
「そうだ、実際火猪に食らわせたのを見ただろ」
「……ああ、あれか!」
レックスは輝かせた顔をすぐ暗くする。
「いやなんでそんな危険な魔物が街の近くをうろついてんだよ……」
「それは俺が知りたいんだが、ついでに火猪についても知りたい」
「火猪?死体なら確か肉屋が引き取って誰かに売ったって言ったな」
「売った?誰が買ったんだあんなの」
確かに猪に見えるが魔物だし、肉自体もスライムの毒を浴びている筈だ。
俺はレックスの言葉に頭を捻った。
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