第35話 新スキル取得
「
謎の声に向かって問いかける、代わりに答えてくれたのはエレナだった。
「冒険者が己のレベルより五十以上高い魔物の討伐を成功した時に得られる称号のようですね」
そういつのまにか手にしていた分厚い辞典のようなものを閉じながら言う。
あの巨大スライムを倒したことが条件に該当するだろうか。俺は首を傾げた。
レベルが五十以上高いかはわからないが、スライム斬りという特効スキルが無ければ手も足も出ない相手だった。
そもそもこの世界にはレベルという概念があるんだ。浮かんだ疑問に対しエレナが説明してくれる。
「ありますよ。ただ数値化までしているのは私たち神や一部の人間たちだけですけれど」
レベル判定というスキルもあるんですよ。知の女神は言う。
俺は心当たりを口にした。
「それって冒険者昇級試験で、金級とか銀級とか判定する係の事か?」
「その者たちは当然資格を有しているでしょうね。ただ習得レベルでかなり差があるので」
判定代が安い場合、数字レベルの確認は難しいと思いますよ。
エレナの言葉に俺は試験会場にいた係員たちを思い出す。確かにぼんやりとしたことしか言っていなかった。
「逆に言えば、見ただけであと何体の敵を倒せばレベルが上がりますとか貴方は剣士レベル三十ですとか、あの魔物はレベル百のアークデーモンですとかわかるぐらいの熟練度なら、そのスキルだけで贅沢して暮らしていける程の収入が得られる筈ですよ」
「へえ……でも確かに使えたら便利だな。魔物と自分のレベル差が最初にわかるなら早めに撤退も選べるし」
「そのような使い方が出来るようになるまでスキルレベルを上げるとなると、まず魔物を五百種類倒すことからになりますね」
ちなみに特に求められる資質は知力の高さです。魔力以外は賢者になる為の条件と同じですね、
エレナに提示された条件を聞き俺は便利そうなスキルの取得をあっさりと諦めた。
「ちなみにそれ、クロノは取得できますか」
「そうですね……今の彼女は難しいですが、レベルを上げれば取得に必要なステータスは十分満たせますね」
彼女は普通の冒険者の百倍くらい取得可能なスキルが多いようです。
知の女神の言葉を聞いて流石本来の主人公だなと感心する。
「そういえば、さっき上から聞こえた声も新しいスキルをくれるって」
「確かにそう言っていましたね……少し失礼します」
エレナは軽く断りをいれると、服越しに俺の胸に触れて来た。
いやらしい触り方ではないが急にそんなことをされたら驚きはする。
「いっ、いやらしい触り方なんてする筈ないでしょう!スキル確認の為なのですからっ」
「俺何も言ってないんですけど」
「あなたって人は、もうっ」
頬をうっすら赤くして怒るエレナは、男子高生にからかわれる新任の女教師のようだ。
しかし何度か咳払いをすることで落ち着いたのか女神は自らの眼鏡に軽く触れながら俺に告げた。
「既に新しいスキルは取得済みですね。強者への威圧というものです」
「強者への威圧?」
「ええ、あなたよりもレベルが高い対象に対し使うと相手が僅かな時間怯みます。相手との力量差が大きい程効果的です」
エレナの説明は分かりやすかったが。しかしその分スキルへの謎が深まる。
主に使い道という部分についてだ。
うっかり強過ぎる魔物と対峙した時、一瞬だけ気を逸らすことはできるかもしれない。
ただ、スキルが切れた後は余計激怒してきそうだ。強い魔物がはるかに格下の相手に怯んでしまったのだから。
「ああそうか、レベル確認に使えるかも」
俺がこのスキルを使って効果があるなら、その人物や魔物は俺よりも圧倒的に強いってことだ。
ただそういった使い方をするにも、相手を怒らせないようにする必要は絶対にあると思った。
「使い道はあるかもしれないけど、格上に喧嘩売る形になりかねないのか……」
実力差では勝てる筈のない巨大スライムを倒したからこのスキルが与えられたのだろうけれど、正直使い道に悩む。
まあ、リスクの方が高いなら使わなければいいだけか。俺はそう結論づけた。
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