第36話 スキル講座、そして肉体への帰還
「そういえばスキルってこんな形でしか手に入らないものなのかな?」
ふと疑問に思い、エレナに問いかける。彼女はそうとは限らないと答えた。
「スキルというのはそれを発動できる条件があり、発動する方法がわかれば誰でも使えます」
「つまり?」
「スキルの仕組みを人から教わるか、自分で考え至ればいいのです。料理のレシピと同じようなものですよ」
成程。俺は頷いた。
確かにバトル系の漫画やアニメで先祖代々伝わる必殺技の伝授とか、猛修行した結果技を閃いたりするシーンを見かける。
エレナは料理に例えていたが、クロノは既に材料を持っていたからレシピだけで即魔力封印を完成することができた。
俺は材料が足りなかったからギリギリになってスライム斬りが使えるようになったということだろうか。
ということは、俺は多くのスキルについて書かれた本の写しをエレナから貰っている。
そこに書いてあるスキルの名称と発動可能条件を元に自力でスキルを取得するというのも可能ではないだろうか。
「不可能ではないですよ、そういった方法で独自スキルを編み出した人間も過去にはいましたし」
本来のスキルとは微妙に違ったものになっている場合が多いですが。俺の心を読み取りながら知の女神が言う。本当に料理のようだ。
「神の恩寵によるスキル取得は、研究と研鑽及びその技術を頭と体に馴染ませる時間を省略できるというだけです」
だけ、というには随分とメリットが大きい。俺はスライムの斬り方なんて百回攻撃しただけじゃ自分で思いつきそうもない。
魔力封印に関しては効果ぐらいしかわからない。
「無理して理屈を考える必要はありませんよ、思いつきやすいスキルとそうでないスキルは人によって異なりますから」
苦笑いしながらエレナは分厚い本を閉じた。
その本の写しも欲しいなとなんとなく思っていると「あなたはもう持っていますよ」と呆れたように言われる。
そういえば彼女は俺が今回与えられたスキルについて確認していたのだ。自らの勘の鈍さに少し恥ずかしくなる。
「仕方ないですよ、今のあなたは致命傷になりうる怪我を幾つも受けた上に頭部へ何度も強い衝撃を与えられ意識不明の重体の状態で魂だけがこちらへ来たのですから」
こちらに来たというかこちらに頑張って引っ張ってきたのですけどね、私が。
にっこりと笑う女神がどこか恐ろしいのは気のせいだろうか。
俺が返答に窮しているとエレナは笑みを消し、こちらを案じるような表情になった。
「確かに私はあなたを見守っていますが、肉体から離れた魂が輪廻の列に引き寄せられる速度は凄まじいものです。死にかけることを軽んじないでくださいね」
「輪廻……」
この世界は死んだら輪廻転生するのか。いや元が俺の小説なのだから、こちらの死生観が反映されているのかもしれないが。
小説を元にした世界で、作者である俺が死んだ場合次は何に生まれ変わるのだろう。少し興味があった。
「そんな縁起でもないものに興味を持たないでください!」
それと、自分は特別だから絶対死なないとも思わないでくださいね。そうエレナに念押しされる。
「ああ、わかったよ」
「本当に、理解してくださいね?」
俺は彼女と違って人の心は読めないが信用されていないのはわかる。
しかしやっぱり俺もちゃんと死ぬのか。改めて実感する。
もう少し念押しされるかと思ったがエレナは話題を切り替えることにしたようだった。
「下界であなたの肉体の治癒が終わったようです。クロノが連れて来た人物のおかげで隻眼化も回避できたようですよ」
「同伴者?」
「ええ、ヒーラーではないようですがかなり高位の治癒魔術を使えるようですね。恰好はあなたと同じ剣士のようですが」
クロノが言っていた自分よりも頼りになる存在とはその人物のことだったのかもしれない。
俺があの時欲していたのは治癒ではなく補助による肉体強化だったのだが。高位回復と強化補助の両方使える人物なのだろうか。だとしたら物凄く優秀だ。
しかも服装から考えると剣まで使えるらしい。もうこいつ一人でいいんじゃないか状態だ。
というか、俺やっぱり右目が駄目になりかけていたのか。自警団の連中に対して思うことが更に増えた。
「体の方は回復しましたし、あなたの魂はそろそろ神殿から去った方がいいでしよう」
考え込む俺にエレナがそう声をかける。
そういえば前回ここにいたときは一週間ほど行方不明という扱いになっていた。数時間ぐらいしか滞在したつもりはなかったのに。
この神殿と俺たちが普段暮らす場所では流れる時間の速さが違うようだ。
もしかしたら既に巨大スライムを倒してから半日ぐらいは経過しているかもしれない。
「あなたの意識が長く戻らなければ看病している女性たちの憔悴が増すでしょうから」
クロノ・ナイトレイは特に精神が追い詰められているようです。このままではミアン・クローベルとの関係も再度悪化しかねません。
胃が痛くなるようなことを淡々と告げる知の女神に俺は慌てて自らの肉体へ帰還する旨を告げた。
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