第3話 アルヴァ・グレイブラッド

 恰幅の良い酒場の女将に叱りつけられながら支払いを済ませる。

 確か彼女の名はエルダだった。思い出したのは店を出た後のことだ。

 当然名付け親は俺になる。

 自分の考えたキャラに怒られると言うのも不思議な感覚だ。

 

 夜の街はやはり俺が長い事暮らしていた日本とは全く違う。

 ビルもコンビニも全く見当たらない。

 頭の悪い感想を述べるなら、中世ファンタジー作品を実写化したらこうなるだろうという感じだ。

 

 レンガや石造りの建物が並んでいる。屋根は赤っぽい茶色で壁は白い家が多い。

 窓に鉢植えの花を飾っているところもちらほらある。 

 完全な暗闇にならないように街頭らしきものが一定間隔で設置されていた。

 

 観光客のような気分できょろきょろと辺りを見回してしまう。

 店のレリーフや看板が特に面白い。 

 俺が先程出てきた酒場はビールのジョッキらしきものが入り口に飾られていた。

 思い出した、この街の名は『ローレン』だ。


 王都から馬車で二時間ほどの位置に存在する、適度に栄えている冒険者が暮らしやすい街。

 主人公であるクロノの生活拠点となる場所。

 ここに灰色の鷹団のアジトがある。アルヴァが犬死した後灰色の鷹団は消滅。

 クロノが買取り新しい仲間たちと共に暮らすことになる。


「……つまり俺が死んだ後、ってことか」


 既に閉まっている店の窓ガラスの映る男を複雑な思いで見返す。

 血のように赤い髪に、琥珀色の瞳。目つきは鋭いが顔立ちは悪くない。背丈も高い。

 当時クラスの女子が騒いでいた男性アイドルがモデルだからだ。

 性格の悪い悪役だからと不細工なデザインにしなくて本当に良かった。

 

 アルヴァ・グレイブラッド。年齢は二十五歳。銀級の冒険者で武器は剣。

 冒険者の強さは黒金、白金、金、銀、青銅、銅の順番で下がっていく。

 黒金や白金は英雄や騎士団長レベルなので一般冒険者枠から除外して考える。

 すると金の次は銀なのでアルヴァは決して弱い剣士ではないのだ。


 しかも彼が銀級に昇格したのは十代半ば。剣の才能なら五百人に一人レベルの逸材だ。

 だがアルヴァはその事実だけで満足し厳しい鍛錬を怠った。上を目指すことをしなかった。

 それだけでなく、銀級の冒険者という立場に胡坐をかき周囲に対し傲慢に振舞った。

 雑用係であるクロノを追放したのも無能な彼なら己と違い幾らでも代わりがいると判断してのことだ。


 しかし漆黒のナイトレイと呼ばれるクロノの正体はバフやデバフ魔法を駆使する最強剣士。

 彼の支援魔法を失った灰色の鷹団のメンバーは今まで雑魚扱いしてきた魔物に半殺しにされるのだった。


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