鬼恋

@kazitu0928

鬼に恋していいですか

幼い頃からの大親友に彼氏を取られた。


彼からデート当日に

【熱出ちゃって、今日のデート無理そうだわ。ごめん】

とメールが来た、サプライズで看病しに行ったら、家の鍵が空ていた。

不用心だなって思いながらも、中に入るとどこか聞き覚えのある女の甘い声が聞こえてきた。

部屋のドアを開けてみると、そこには裸の彼氏と大親友の真奈美(まなみ)がいた。

先に私の存在に気がついたのは彼氏の蒼空(そら)だった。

「あ、な、夏美(なつみ)??いや、これはそのち、違うんだよ」

「え!?な、なんで夏美がいるの!?ねぇ、蒼空!!今日夏美来ないんじゃなかったの??」

信頼していた2人に裏切られたせいか、なんの感情も湧いてこなかった。

何もかもどうでもいい。

さようなら、元親友。

さよなら、元彼氏。


もう、死のう。

何もかも捨てて、

最後に田舎の森が見たい。


【次は~、鬼村~鬼村~お出口は右側です】


ここは、女性を食らう鬼がいると言われている鬼村。本当に居るかは定かではないが、毎年毎年女性が数人行方不明になると噂されている。

この際私は鬼に食われてもいい。


「うわーすごい綺麗。こんな綺麗なとこで死ねるなんて幸せ」

「ここ綺麗ですよね。僕もここの森好きでよく来るんですよ」


スラッとした背に甘いフェイス。

何人もの女の人を落としてきたであろうアダルティックなフェロモンが漂っている。


「ところで、どうしてこんな森の奥にいるのですか??ここ鬼が出ますし、お姉さん綺麗だから変な男の人に連れ去られてしまいますよ?」

「あぁ、そうなんですね。ご忠告ありがとうございます。

でも、いいんです。私どうせ死にますし、もうどうでもいいんですよ」


あーあ、初めて会った人なのに、、、

変なこと言っちゃった。

まあ、いっかどうせ死ぬし。


「うーん、とりあえず今日は遅いですから、僕の家に来ませんか??

美味しくて暖かいご飯ご馳走しますよ!」

「ありがとうございます。でも…」

「いいから!ね?」


そんなにのぞき込まれたら、

断れないって…

まあ、いっか。

お邪魔しよう


「あ、自己紹介が遅れました。

僕の名前は鈴村 綾芽(すずむら あやめ)と言います。

お姉さんは…」

「私は、早乙女(さおとめ) 夏美です」

「夏美さん…素敵な名前です

では、僕の家まで案内しますね」


少し歩くと和風な家が見えてきた


「あそこです!外は質素かもしれないですけど、中は住みやすいと思うので」

「いえいえ、こういうお家すごく好きですよ」

「ほ、ほんとですか!?それは良かったです」


「では、ここで靴をお脱ぎください

今お夕飯の支度をしてくるので

ゆったりくつろいでてください」

「ありがとうございます」


和食の香りが鼻をくすぐってきた

お味噌汁と煮物を作っているらしい


「できました!

味見はしましたが合うかどうか…」

「いただきます…

おいしい、おいしいです!

野菜にちゃんと出汁が染み込んでいてすごく美味しいてです!」

「あ、やっと笑ってくれましたね

素敵です」


なんだかこの人いい人だな…

心が落ち着く…


「夏美さん?

あぁ、寝たのか。では早速」


「………あれ、私なんで縛られてるの?」

「起きたのか小娘

では早速食べるとしよう」


だ、誰?

もしかして綾芽さん?

角が生えてる、それに鋭い牙も

あぁ、鬼だったのか。食べられるのか。

別にいいけど。


「お前肌が白いな。

血がよく映えそうだ。

さてと、どこから食べてやろうかな、

この美味そうな太ももから食べてやる」

「……………」

「なぜ怯えない。なぜ怖がらない。

叫べ、震えろ!!!!」

「私がなんでここに来たのか忘れたんですか?自殺しに来たんです。死ぬのなんて怖くないですよ」

「はぁ…食べる気失せた

今日は寝るおやすみ」


え、食べないの?

どうして?

まあ、いいや。私も寝よ


「おい、起きろ!朝だぞ」

「……ん……おはよう」

「今日から、お前ここに住めよ

死のうとしてたんだし、ないだろ住むところ」

「え、まだ狙ってるの?」

「当たり前だろ。

俺は狙った獲物は逃がしたくねーんだよ」

「昨日食べれば良かったじゃん。

なんで食べなかったの?」

「…別に、なんでもいいだろ

お腹すいてなかったんだよ」


変なの…とっとと食べればいいのに

私が居たって邪魔でしかないはず

どうして生かしておくの?


「とりあえず今日の飯。取りいくぞ

着いてこい」

「取りいく…?

私人食べないよ?」

「ばーか、山の幸を取りいくんだよ!昨日もご飯食べただろ」

「あれ、山から取ってたの?

すごいね!!」

「そ、だから今から行くんだよ

足元危ないから気をつけろよ?」


案外優しいな

なんで優しくしてくれるんだろう…

ただ、自分が食べるから傷物は嫌だってことかな…多分そう、だよね


「…って聞いてるか、

おい!そこ危ないぞ!」

「え?、キャー!」

「っと、危ない。

山道は滑りやすいんだって何回も言っただろ!

ん?膝見せてみろ」

「え、あ、ちょっと」

「擦りむいてる手当して帰ろう。

今日の分は取れただろ」


「ほら、歩けるか?」

「うん、ありがとう」

「こんな綺麗な肌に傷をつけていいのは俺だけだ。覚えておけ」


な、何言ってるの?

獲物として見られてるか、

人として見られてるのか分からないよ


「じゃあ俺、ご飯作るからゆっくりしてろ」

「うん、でも悪いって私も手伝うよ」

「いいから、けが人は、休んでろ」

「わかったよ。じゃあ、お願いします」


普通にしてればかっこいいんだよなー

後ろ姿も絵になる。

これが鬼なのか…


「ほら、できたぞ」

「え、すごい!朝取った食材がこんなになるの!?」

「目そんなにキラキラさせちゃって

今すぐにでも食べてやりたくなる」

「え??」

「昨日よりも生きてるって感じするからさ、美味そうなんだよ。」

「何その言い方」

「忘れてるかもしれないけど、俺は

鬼でお前のこと狙ってるからな」

「わかってるよ」

「そうか…」


なんでそんなに悲しい顔するの?

自分から言ったじゃん。

なんなの…?


「お前さ、どうしたら生きたい

と思えるの?」

「うーん、分からない。

でも、今日生きてるって感じしたかも。」

「じゃあ、今日みたいな生活を繰り返していれば、生きたいと思えるってことだな」

「かもね?」

「なんだよ、それ笑他人事かよ」


なんでもない会話なのにこんなに楽しいのも初めて。

でも、生きたいって思ったら

私殺されるのか。

逃げよう。


「おはよう夏美…

居ない…どこいったんだあいつ」


家黙って出てきちゃったけど

心配してる…いや、ないかどうせまた新しい獲物を取ってるに違いない。

あれ、なんだろうこのモヤモヤは…

きっと気の所為だよね…


「そんなところで何してるんだい?お嬢ちゃん」

「君みたいな可愛いお嬢ちゃんがこんな誰もいない道いたらダメだろ?」

「い、いや、離して!」

「あーあー、可愛い声で鳴きやがる

こいつ連れて帰って食べちまおうぜ」

「みんなで山分けだな」


あ、今度こそ食べられる私…

もっと生きたかった…


「おい!それは俺の獲物だ

とっとと離しやがれ!!」

「おい!綾芽が来たぞ!」

「みんな逃げろー」

「なんで助けに来たの?」

「……………」

「答えてよ、だって私の事獲物としてしか見てないんじゃなかったの?

別に獲物なんて沢山いるでしょ?」

「…俺は…俺は、お前のことが大切だからだ」

「え?」


大切?獲物じゃないの?私


「お前が…夏美が俺にとって

かけがえのない存在だからだ」

「……………」

「俺と、夫婦になって欲しい」

「はい、こちらこそお願いします」


5年後


「お父さん!お母さん!

こっちに美味しそうなゼンマイがなってるよ!早く来て!!」

「こらこらそんなに走ったら危ないでしょ、綾斗(あやと)」

「お母さんなんて、そこで足滑らせてコケちゃったんだから。気をつけないとダメだぞ?」

「もう、いつまでいじる気よ。

そんなの昔の話じゃないの」

「一生だよ。」

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