第5話 レポート課題
入学してから1週間が経過した。
何事もスタートダッシュが肝心なもので、クラスの中で次々と仲良しグループが出来上がっていった。
F組は大きく2つのグループがクラスの中心として自然と形成された。
1つ目は岸田や吉野を中心とした体育会系の《岸田グループ》。
2つ目は中山、沢村を中心とした男女ともに支持を集める《中山グループ》。
どこかしらのグループに属すことができた生徒は全体の3分の2くらいで、残りの3分の1はどこのグループにも属すことができなかった。
情けないことに俺は3分の1側になってしまった。
事務的な会話や無難な会話は問題なくできているのだが、どうにも踏み込んだ仲になることができない。
前世のときから友達を作るのは得意じゃなかったからなあ。
さて、生活感を微塵も感じさせない綺麗な部屋のベッドで目覚めてから、今日も1日が始まる。
「あっ――」
支度を済ませ天藤の出発時間の被らないようドアを開けると、もう反対側の隣室の男子と出るタイミングが同じだった。
「ああ、桜之宮君おはよう」
「どうも」
俺に気づくと隣室の男子は笑顔で挨拶されたので、こちらも軽く会釈で返した。
彼の名前は福西健太、愛称はプーさん。
クラスで一番体重の重たい男、つまりぽっちゃり系男子だ。
だらしない体型とのんびりした性格のため一緒にいると落ち着くらしく、クラスではそこそこ人気の生徒だ。中山グループに所属していて、俺よりもリア充である。
残念ながら一緒に登校するほどの間柄ではない。
「ごめん、僕は中山君を待つことになってるから。先にいってらっしゃい」
エレベーターを降り一階のフロントにつくと福西は申し訳無さそうに伝えた。
なーに、いつも通り一人で登校するだけだ。
別にボッチだからといって惨めな気持ちになったりしてないからな。
◆
唐突な話だが、この500年後の日本では《魔物》が突如出現し人間界の侵略を始めた。
そしてそれに伴い、魔物と戦うために人類も進化した。
人類は魔物たちと戦うため、個人のもつ5つの能力を可視化させた。
それが《パワー》《魔力》《速さ》《耐久力》《テクニック》などといったパラメータだ。
パワーを鍛えたければひたすら筋トレをすればいい。
速さを鍛えたければ走りまくればいい。
では、魔力を鍛えれるにはどうすればよいか?
――答えは勉強を重ねることだ。
魔力を高めるために学力を鍛えなければならない。
つまり、人が魔物と戦う物騒なこの時代でも、勉強は必須ということだ。
そういうわけで今日も元気にお勉強だ。
「誰か数学のレポート写させてくれえええ」
朝のホームルームが終わり三崎先生がいなくなると、岸田の悲しい悲鳴が教室内に響き渡る。
数学の授業は3時間目のお昼前だ。それまでにレポートを終わらせないといけない。
しかし、入学してまもないこともあり誰も彼に手を貸そうとはしない。
岸田なら同じグループの友達に見せてもらえば、それでいいような気もするが。
「頼む吉野〜」
「ムリ。見せられるほどできてねえもん」
「くそっ、それなら高木はどうだ?」
「吉野に同じ」
「けっ、どいつもこいつも役立たず」
岸田グループは学力の劣る面子しかいないらしい。
武力に全振りしたグループだな。
確かにこの学校の授業レベルは高い方だから、岸田のようについていくのが難しい生徒が多く出てもおかしくない。
「岸田君、宿題は自分の力でやったほうが自分のためにもなるよ」
「るせえ! オレは戦いさえ強ければそれでいいんだよ! 魔法も勉強もいらねえ!」
「そ、そうかい。それは残念だよ」
机をバンと叩く岸田の勢いに押されて中山もそれ以上口は出せないようだ。
岸田篤志、典型的な脳筋タイプか。
岸田に限らず、彼のように勉強できないタイプはは何このクラスに何人かいそうだ。
前回の入学式試験のこともある。
いつ抜き打ちで点数がつけられているかわからない。
レポートを提出しなければポイント減点の対象になるかもしれない。
このまま放置しても良いのだろうか。
「なあ天藤――」
「嫌」
はい、即答で断られました。
「ポイントのことを気にしてるのね? でも断るわ。予習と復習を重ね、時間をかけて作ったこのレポートを誰かにタダで共有するなんて考えられないわね。この問3の難題なんて完璧に回答できているのは私だけだと思うから」
まったくもって天藤の言うとおりだ。
ポイントのためなら動いてくれるとワンチャン望んだが、彼女もそう甘くはなかったようだ。
「あなたが見せれば? 岸田くんと仲良くなるチャンスかもね。でも、あなたみたいな性格の人間にできるのかしら? できないわよねえ、余計なこと言ってごめんなさい」
「できらぁ。上等だよ、やってやる」
「えっ、桜之宮君本気なの?」
売り言葉に買い言葉。
天藤にここまで煽られて引き下がる俺じゃない。
見とけよ、天藤。
岸田と友達になって、先にボッチを卒業してやるからな。
◆
1時間目の授業が終わり、朝から不機嫌の岸田は一人中庭へタバコを吸いに行く。
俺はその後をついていく。
喫煙用スペースのベンチでタバコをふかす岸田に歩み寄る。
誰かに話しかけるってかなり緊張するもんだな。
「なあ岸田。レポートの件なんだが」
「なんだおめえは。桜小路だっけか? オレに何かようか?」
話したこともない相手が突然話しかけてきたにも関わらず、岸田は普通に応対する。
「桜之宮だ。レポートを見せてもかまわないと思ってな」
言いながらポケットに入れてたレポートのコピーを岸田に渡す。
「これ……マジか!? 桜小路、お前だけが救世主だー!」
「別に救世主でもないさ。ただこのまま岸田が未提出になれば入学式のときみたいに抜き打ちでクラスのポイントが減点になるかもしれないって思ってな」
「ポイント制度かあ、そこまで考えてなかったー」
そりゃあ考えてたらきちんとレポートは仕上げてくるしな。
「今回だけだ。次回からは見せない。中山の言うことも一理ある」
「わかってるけどよお。オレだって時間がねえんだよ!」
「ふむ……。それならば分担してみないか」
普通に見せてもよかったが、それだとレポートを見せることを餌に友達になるみたいな感じがして嫌だった。
だから分担したいと案を出した。
「協力することが大事だし。俺も自分のこなす分が減るから楽になる。俺も楽して結果を残したいタチの人間だからな」
「悪くねえ。その話乗ったぜ!」
岸田はすんなりとオレの提案を承諾してくれた。
「それともう一つお願いなんだが、レポート見せたのが俺だということは伏せておいてくれないか? あんまり目立ちたくない」
「ああ、お前確かにそんなタイプのやつっぽいしな。わかった、これはオレたちだけの協定にしておく」
「そろそろチャイムが近い。早く教室に戻ろう」
「おう!」
このあと岸田は時間内にレポートを写すことに成功し、無事初めてのレポート課題を乗り越えることがてきたのだった。
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