2_「ありがとう」がこんなにも残酷な響きを持つなんて、思いもしなかった



 俺はバイクに乗って風を切って走っていた。どうしてか、この感覚を懐かしいと思って、その思考に疑問を覚える。別に、最近バイクに乗っていなかったわけでもないのに、どうしてそんなことを思ったんだろうか。

 そんな風に、余計なことを考えていたからだろうか。カーブを曲がり切れなかった。法定速度を超えた速さで走るこのバイクがカーブを曲がり切れなかったらどうなるか、結果は見え透いている。ああ、事故ったな、頭の冷静な部分でそう思った。

 大きな音と共に視界が暗転する。どうしてか痛みは感じなかったが、体の各所から血が流れていく感覚と、その血の熱さは感じた。

 意識が遠のいていくのが分かる。こういうの、出血多量での死亡、って言うんだっけ。ぼんやり考える。どこかで救急車の音が鳴っている気がする。瞼はとっくに閉じられていて、視界は闇ばかりだった。

 ああ、誰かの声がする。何を言っているかは分からない。うるさいな、寝かせてくれと思ったけれど、口を開くのが億劫だった。声はまだ聞こえる。何を言っているんだろう、と興味が湧いた。消えそうな意識の中、耳に入ってくる音に集中する。


「ミケちゃん!」


 耳に入ったのは、そんなふざけた呼び声だった。そのくせ、声色は妙に真剣というか、切羽詰まっていて。ああ、あの人、わざわざ来てくれたのか。おまわりさんってのも大変だな。思いながら、重い瞼を開ける。そこに居たのは、珍しく焦った顔の千蔭さんだった。

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