第2話 地下アイドルとチェキ

もう少し細かく自己紹介がてら

地下アイドルの世界を説明をしよう。



『ハーイ、みんなの心のジャンクション♪

箱崎ワズカですっ。

あなたの目的地まであとわずかー』


オタクの反応もまばら

薄暗いライブハウスに自己紹介がむなしく響く。

アイドル特有の自己紹介がだんだん

年齢的にもキツくなっている。

学生時代の友達は、結婚して子供もいるのに。



アイドルにとって何よりも重要なルックスを紹介しよう。

身長体重は公式プロフィールで

164cm 43キロ 足のサイズ23cm

まぁ理想と現実は違う。

てきとーてきとー。


タヌキとキツネでいったらキツネ顔かな。

目はおおきくはないが、涙袋は小さめにしてる。

シンプルにナメクジが怖いので。


 髪型はポニテが多いかもしれん。

たまに、前髪作りに命をかけてるアイドルを見かけるが

あれを毎回するのは、めんどい。




都内を中心に活動する高速道路をモチーフにした

自称王道5人組アイドルグループ(設定破綻が甚だしい)

高速ファンタージュの紫色担当。


ちょっと何いってるかわからないプロデューサーが

高速でファンが多重になるように命名したそうだ。


高速道路をモチーフにしているが

オタクが交通事故ったらどうするんだろ。

なんか縁起が悪いよね。

地方へのバスツアーはしたことなし

地方遠征できるほど売れてはいない。

仮に関西遠征になったとしても

グループイメージから車移動なんだろうな。


新幹線移動とかなさそうだ、ツライ。

まぁオタクと一緒のバスツアーの方がしんどいが。


お世辞にも売れてるグループとは言えない。

5人の各メンバーに推してくれてるオタが2~5人ほど。


集客は生誕やワンマンライブで60~70人が集まるかどうか。

武道館はおろか、どっかの区民ホールさえ埋まらない。

渋谷のライブハウスでのタイバンなんかが主な活動だ。

毎週同じような場所で同じようなメンツと

同じようなことをしている。


そんな地下アイドルの主な収入源が『チェキ』


1枚1000円で、チェキと言われる

インスタント写真を一緒に撮る。

そのチェキにサインをしている約1分間

オタクは私と話ができる仕組みだ。

このシステムのおかげで地下アイドルは成り立ってる。


1分1000円てことは、時給6万円?

まさか、そんなに稼げたら地下ではない。


1分を100均のキッチンタイマーで管理してるとはいえ

毎回撮影のロスタイムや別れ際に粘るオタクもいる。

物販開始からスムーズに一回も途切れなくオタクが回っても

1時間で40枚がマックスの売上だろう。


 オタクが少ない時はチェキの待機列が途切れて

ただ呆然と立っているだけの時もある。


今の私は1回平均20枚いかない位(多少盛った)だが

それでも地下アイドルでは全然まだましな方だ。

ルックスが一般人以下の地下アイドルなんて

初見はおろか、グループのファンでさえ

誰もチェキを撮らない日もある。


デビューしたてのころチェキゼロを喰らった事がある。

あれは地獄の時間だ。商品価値ゼロ。

自分の存在が完全に否定された気になる。


事務所とは完全歩合制契約。

それゆえライブ後の物販1時間が勝負だ。

なにせ生活がかかってる。

マジでこのチェキが

アイドル業界を変えたと言っても過言ではない。


地下のライブハウスを出て一般社会においては

圧倒的に価値のある若い女性が

圧倒的に価値のないオッサンに値踏みをされる。

価値観の狂ったパラレルワールドだ。



高速ファンージュの活動は、毎週金土日と祝日。

だいたい月15回ほどライブがあって

私は月15回×平均20枚=300枚。

約30万円を売り上げるが

5割が事務所の取り分で、なんだかんだ手元には

チェキバックが12〜3万貰えている。


ただこれだけで都内で生活するには非常に心もとない。


なのでライブのない日にはコンビニでバイトをしている。

月のバイト代が約10万。

ギリギリアイドルとしての収入の方が上だ。


仮にバイト代>チェキバックなら

私の職業は、アイドルではなくフリーターになる気がしていた。






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