第2話 地下アイドルとチェキ

もう少し細かく自己紹介がてら

地下アイドルの世界を説明をしよう。



『ハーイ、みんなの心のジャンクション♪箱崎ワズカですっ』

『あなたの目的地まで〜〜』

『あとわずかー』

....

.....

オタクの小声とまばらな拍手。


薄暗いライブハウスに私の自己紹介がむなしく響く。

ベタめのアイドル自己紹介が

年齢的にキツくなっている。

学生時代の友達の大半は、もう結婚して子供もいるのに。


うん、気を確かにして、アイドルにとって

何よりも重要なルックスを紹介しよう。

身長体重は公式プロフィールで

164cm 43キロ 足のサイズ23cm

まぁ理想と現実は違う。

てきとーてきとー。


タヌキとキツネでいったらキツネ顔かな。

目はおおきくはないが、涙袋は小さめに。

シンプルにナメクジが怖いので。

鼻筋もハクビシンかって位に白くはしてない。

 髪型はポニテが多いかもしれん。

王道のキラキラアイドルとは程遠いが、

地雷やメンヘラでもない。

タイバンの楽屋で前髪作りに

命をかけてる地下アイドルを見かけるが

あれを毎回するのは、めんどいし。

善く言えばナチュラル

悪く言えばそこら辺にいそうな、

キレイめOLといったところだろうか。

美容にあまりお金をかけているとは言えない←


所属グループは都内の地下を中心に活動。

高速道路をモチーフにした

自称王道5人組アイドルグループ(設定破綻が甚だしい)

高速ファンタージュの紫色担当。


運営するプロデューサーが

高速でファンが多重になるように願いをこめたそうだ。

ちょっとなに言ってるかわからない。


それゆえ曲も衣装も

高速道路やサSAあるあるをモチーフにしている。

誰が買うかわからないキーホルダーや

御当地マスコットなんかが、アクセサリーとして

衣装に無理矢理縫い付けられている。


旅行に行ったファンがプレゼントして、

その量が人気のバロメーターかのように衣装に追加されていく。

間違っても流行するコンセプトではない。


仮にオタクが高速で事故ったらどうするんだろ。

なんか縁起が悪いよね。


高速を使って地方への遠征バスツアーはしたことない。

そもそも観光バスがファンでうまるほど売れてもいない。

仮に名阪遠征とかになったとしても

グループコンセプトから車移動なんだろうな。

売れても新幹線移動には縁がなさそうだ、ツライ。

まぁオタクと一緒のバスツアーの方がしんどいが。


そんなお世辞にも売れてるとは言えない地下グループだ。

現メンバー5人に推してくれてるオタが2~5人ほど。


集客は生誕やワンマンライブで60~70人が集まるかどうか。

招待ドーピングしても200が限界。

武道館はおろか、区民ホールさえ埋まらない。

渋谷のライブハウスでのタイバンが主な活動だ。

毎週同じような場所で同じようなメンツと

同じようなことをしている。

緩やかに崩壊していくさえない地下アイドルグループ。

それが私の所属する、高速ファンタージュだ。


次にチェキの説明をしよう。

『チェキ』とは地下アイドルの主な収入源だ。

1枚1000円で、名刺サイズ写の写真(チェキ)を撮る。

そのチェキにサインをしている約1分間、

オタクは私とお話ができるしくみだ。


このシステムのおかげで地下アイドルは成り立ってる。


1分1000円てことは、時給6万円?

まさか、そんなに稼げたら地下ではない。


1分を100均のキッチンタイマーで時間管理してる都合

毎回撮影のタイムロスや別れ際に粘るオタクもいる。

物販開始からスムーズに一回も途切れなくオタクが回っても

1時間で40枚、4万円がマックスの売上だろう。


 動員が少ないライブでは、チェキ物販の待機列が途切れて

ただ呆然と立っているだけの時もある。


今の私は1回平均20枚いかない位(多少盛った)だが

それでも地下アイドルでは全然まだましな方だ。

ルックスが一般人以下の地下アイドルなんて

初見はおろか、同じグループのファンでさえ

誰もチェキを撮らない日もある。


デビューしたてのころチェキゼロを喰らった事がある。

あれは地獄の時間だ。商品価値ゼロ。

自分の存在が完全に否定される。

しかもさえないおっさんオタク相手にだぞ。

地下のライブハウスを出て一般社会においては

圧倒的に価値のある若い女性が

圧倒的に価値のないオッサンに値踏みをされる。

そこは価値観の狂ったパラレルワールドだ。


事務所とは完全歩合制契約。

それゆえライブ後のチェキ物販1時間が勝負だ。

なにせ生活がかかってる。


マジでこのチェキシステムが

アイドル業界を変えたと言っても過言ではない。

ファンが少なくても売り上げが立てば

活動が維持継続できるのだ。



高速ファンタージュの活動は、

だいたい毎週金土日と祝日。

月15回ほどライブがあって

私は月15回×平均20枚=300枚。

約30万円を売り上げるが

まず5割が事務所の取り分で、

なんだかんだ手元にくるチェキバックが月12〜3万円。

これでもかなり貰えてる方。


都内で生活するには非常に心もとない。


なのでライブのない日にはコンビニでバイトをしている。

月のバイト代が約10万。

ギリギリアイドルとしての収入の方が上だ。


仮にバイト代>チェキバックなら

私の職業は、アイドルではなくフリーターになる気がしていた。


そんなチェキの残数がみえるアイドルに、私はなったのだ。





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