格ゲー世界のキャラに転生したけど痛いのは嫌なので、恋愛ルートを開拓して理想のヒロインとラブコメします!
遥 かずら
第1話 格ゲー世界にラブコメ転生
俺にとって貴重な青春時代の失敗――それは女子との距離が一番近いとされる中学と高校の時に何も無かったことだと記憶している。
同級生のほとんどは一度は女子の誰かと付き合っていたし、男子のダチより女子を優先することもしばしば。しかし俺にとってそれは大した問題じゃなかった。
何故なら俺は格闘ゲーム、それもヒロイン多めな格ゲー世界にどっぷりハマっていたからである。魅力あふれる個性豊かなヒロインたちと出会って無ければ、ここまで夢中になることは無かった。
もっとも対戦成績は中くらいでほぼ実力は無く、負ける方が多かったからだ。運が良ければ連勝することもあったおかげで、飽きることなく格ゲーに時間とお金を費やしてこれた。
フリーターとなった今も、可能な限り対戦することに時間を使っている。
そんな俺に朗報が。
《VR格ゲー、近日発売! 全身を使って最強を目指せ! あなたの好きなヒロインたちが目の前に!》
おぉ、マジか。
実際に触れられるわけじゃないとはいえ当たり判定はあるだろうし、全身を動かすから体力も必要になるわけか。でもこれならボタン操作の時よりも勝率は上がりそう。
実在しないのは分かっていても、ヒロインと対戦出来るとか楽しみすぎる。
◇ ◇
発売イベント当日。
初日限定で野外ステージで対戦するとかで、VRヘッドセットを装着し、俺はそこそこ強そうなキャラを選んだ。
「エントリーナンバー6番、ラックさん。ステージへどうぞ!」
キャラネームは本名の
デフォルトネームでも良かったが、自分で戦うので自分の名前で勝負することに。
対戦相手は平日で参加者が少なかったらしく、AIが相手になった。適度に休憩を挟みながらも気付けば連勝しまくり、そして……。
ふぅっ……、これは疲れるな。でもあと2戦でエンディングが見れるのか。次の対戦AIが和服な女子高生キャラの"シズク"という時点で、途中で止めるのはあり得ないだろ。
連勝出来るのも初日限りな気もするし休んでられない――そう思いながら足を踏み出した時だった。
「ラックさん、ラックさん!! そっちはステージ外です! あああぁぁぁっ!?」
――などと声が聞こえると同時に、壁かトラックのどっちかに激突したようで、強い衝撃が全身に走りそのまま暗転。
◆ ◆
『……力が――欲しいか? 求めれば与えよう……』
えぇ? 何だこの声?
システムメッセージにしては重苦しいな。
対戦途中だったのに、もしかして生死を彷徨ってる最中の声だったりするのか。それなら答えは決まってる。
「ラスボス一択! 力があれば楽に勝てるし、モテモテ人生間違いなし! ヒロインたちと青春出来れば最高!」
新作のラスボスが最強そうだったし、ラスボスになれば苦労も無いだろ。
『目覚めと同時にその力を示せ……』
よし、ラスボスに生まれ変わればヒロインたちとの勝負も楽勝だな。とりあえず硬直状態から目を覚まさないと。
「――って、ぬわぁっ!?」
目覚めと同時に、俺は和服女子高生シズクから蹴りを繰り出されていた。和服キャラなのに空手系なのか。
「ちっ、雑魚が! 運良く蹴りを避けたつもりだろうが、次は正拳突きだ。お前に勝ち目はない!」
いやいや、待て待て……。ラスボスなら蹴りに対して恐怖を感じることも無いだろうし、そもそも雑魚なんて呼ばれないはず。
どういうわけかゴーグルセットが外されてるうえに、あまりにもラフな格好過ぎるんだけど?
ラスボスに転生したんじゃなくて、まさかのザコキャラ?
嘘だろ……?
「覚悟はいいか? ザコ」
「げぇっ!?」
手加減なんてしてくれそうに無いキャラだし、思いきり踏み込んでるじゃないか。こうなったら禁じ手の土下座をして謝ろう。そうすれば……。
「喰らえ! はぁぁぁっ――!」
「――ひぃっ、ごめんなさい!!」
相手が繰り出す正拳なんて見えるはずも無いので、とにかく頭を下げて謝ることにした。こうなればプライドなんてどうでもいい。
「……バカな、あたしの正拳突きを避けた……だと? こんなザコに……」
あれ? 低音ボイスなシズクが落ち込んでいるような気がするけど、偶然にも避けてしまった?
それなら地べたを這ったまま行くしかない。
ズザザザ、とあり得ない動きのままシズクに迫り――
「――シズクさん! あなたに惚れました!! どうか俺と恋の勝負をしてください!」
「――こ、こここ、恋……だと!? くっ、こんな……バカな……」
格ゲー世界のキャラに転生したけど痛いのは嫌なので、恋愛ルートを開拓して理想のヒロインとラブコメします! 遥 かずら @hkz7
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