モノクローム・アワー

有里 ソルト

序章

神様は全ての人に平等で、 みんなを愛してくれるんだって聞いた。


信じて祈ってたらいつか、幸せになれるんだって。








――じゃあ、今、目の前で起きているのは、なに?




何かが起きたのは、ほんの一瞬。

でも、その結果から生まれた光景は、一瞬一秒をしっかり刻んで、ゆっくりじっくりと、僕の目を焼いた。



どさりと。


「あ…………」


僕の目の前で崩れ落ちたのは。


「あ……あ……」


僕と同じ顔をした、もう一人の僕。



「ね、ぇ……」



無意識のうちに手が伸びる。

雪のような白髪に、赤い、赤いなにか。あたたかくてあかい、なにかが。


「あか、い……」


首から流れて。


「血が……」


真っ白な髪と、顔と、服と、それから――


「あったかい……」


僕の手に。とろりと。


「血……」


気味悪い感覚を残して。



「血……?」


もう一人の僕を抱き起こす。

動かない。瞳は閉じたまま、人形のようで。



でも、首からは大量の――



「あ、ああぁ、ぁ、ああぁぁ、あぁぁあ…… !!」



あぁ、今になって気づいた。


神様なんて、実は、いないのかもしれない。


いないって、そう思わないと。




「ぼく、は……」



――何のために、祈っていたのか、分からない。



どうして、僕等を愛してくれないのか。


どうして、こんな目に遭わなければならないのか。


どうして、どうして、なん で、なんでなんでなんでなんでなんで――




「……やだ、詩、やだやだ ! 詩あぁぁぁぁあぁぁ!!」



まるで雪原にパッと咲いたような、鮮やかな血だまりが脳裏に焼きついて離れな い。

涙で歪み閉ざされた視界は、どこまでも真っ暗で、理不尽な世界そのものだった。

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