第128話 ダンジョン〈花畑の迷路〉
ルーナ、リーナ、ミオが無事に転職を終えて戻ってきた。ルーナは〈アークメイジ〉に。リーナは〈
ティティアとリロイも合流し、今は私の家のお茶会室に集まって顔合わせが終わったところだ。〈勇者〉のフレイを、ティティアはとても憧れの眼差しで見ていた。仲良くできそうで何よりです。
「ということで、みんなで肩慣らしのために今からダンジョン〈花畑の迷路〉に行こうと思います! わー、パチパチパチ!」
私が盛り上げるために拍手をしてみると、リーナとミオがきょと……としてからすぐに声を荒らげた。
「え、いきなりすぎじゃない!? 聞いてないんだけど!」
「え? 今、言ったじゃない」
「今ッッッ!!」
リーナが力強く私の言葉を反芻したけれど、別に〈花畑の迷路〉はそこまで警戒するダンジョンではない。今の私たちなら問題なくクリアできるので、なんの心配もいらない。
ちなみにメンバーは、IDに挑む一二人だ。
「お師匠さまはいつもこんな感じだから、大丈夫ですにゃ」
「……そうだね。シャロンだもんね」
タルトがリーナに謎のフォローをしてくれている。そしてそれを横で聞いていた全員がこれまた頷いている……解せぬ。
そんな空気を換えるかのように、フレイが口を開いた。
「〈花畑の迷路〉にはどうやって行くんだ?」
「――もちろん、ドラゴンで飛んでいきます!」
大きく風を切ってドラゴンが飛んでいく。もう空の上はなれたもので、地上より少し冷たい空気にもすっかり慣れた。
ダンジョン〈花畑の迷路〉は、ブルームから南東の場所にある。周囲には街道と花畑があり、空から見下ろした風景は美しいの一言につきる。つい先ほど小雨が降っていたようで、太陽の光を浴びた花がキラキラ輝いている。
私たちは花の噴水がある広場へ降り立った。噴水の奥にはフラワーアーチがあり、そこを通り抜けた先がダンジョンになっている。
「美しい場所だな」
「うん。空からの景色も圧巻だったし、もっと早く来ればよかったかも!」
私はそんなことを言いながら、全員に支援をかけていく。
今回は私がメイン支援を行い、リロイとミオには補助をしつつ立ち回りを覚えてもらう予定だ。支援はただ回復すればいいわけではなく、モンスターの数や殲滅までの時間や周囲の状況なども把握しなければいけない。それを無意識化……とまではいかないけれど、スムーズにできるようになる必要がある。
リロイとミオに声をかけ、基本的なフォローの仕方を話しあっておく。
「私は主にケントに回復を使うから、ミオはケント以外の前衛を中心にお願い。リロイは後衛をメインに見てあげてほしいの」
「わかりました。でも、なぜその役割分担なんですか?」
ミオの質問に、私は「スキルの違いだよ」と答える。
「私のスキルは、一度に回復できる体力が三人の中で一番多いの。だから、壁として攻撃を受けて体力の減りが早いケントを回復するには、私が一番効率がいい。リロイが後衛なのは、バリアを張れる防御スキルがあるから。ミオが前衛なのは、モンスターに対しての攻撃もしつつ、継続的に回復するスキルも使えるからだよ」
「確かに理にかなっていますね……」
簡単な説明になってしまったけれど、ミオは納得できたようだ。ミオは〈呪術師〉になったので、味方の回復支援と敵への攻撃スキルを使うことができる。それはアイテムの〈札〉を使用して行うこともあり、前衛を見ていられるポジションがやりやすいのだ。
ミオは〈札〉を一枚取り出して、スキルを使う。
「〈呪・
〈札〉は私の方へ飛んできて、私の近くに浮いたまま止まった。ミオが告げたスキルと同じ体力転換の文字が〈札〉に書かれている。見たとき、なんの効果を持った〈札〉かがすぐわかるのは便利だ。〈札〉は複数枚使うことができ、追加がくれば今の〈札〉の隣に浮かび、最終的に私をぐるりと囲むように配置されるだろう。
……なんだかちょっと格好いいね。
「このスキルは、ダメージを受けたときにマナを削って自動回復するスキルです。マナは減るけど、シャロンみたいにマナの量が多い人には有用! ……だと思う」
「そうだね。ただ、ときと場合にもよるかな? 私は結構スキルを使うから、むしろスキルの使用頻度の少ない前衛にかけることがいい場合もあるよ」
「なるほどですわ!」
ミオは目から鱗といわんばかりに、スキルを前衛にも使っていく。〈呪術師〉のスキルは頼もしいものが多いけれど、使用判断が難しいものもある。
「勉強あるのみ、頑張らなきゃ!」
「うん。何かあればいつでも相談してね」
「ありがとう、シャロン」
ひとまず支援チームは簡単に方針を決めたので、全体でも少し打ち合わせて――いざ出発!
「うおおわっ!?」
叫び声をあげたケントが、咄嗟に剣を構えて攻撃を受け止めた。攻撃してきたのは、〈人食い花〉だ。大きな花の部分には牙がついていて、近くを通ると噛みついてくる。
……かなり心臓に悪いね。
〈人食い花〉は獲物が近づいてくるまでは微動だにしないので、普通の花なのかモンスターなのか判別ができない。というのも、〈人食い花〉が普通の花と同じ外見をしているからだ。
「大丈夫、びっくりしはするけどそんなに強くないから。ケントの攻撃でも一撃だと思うよ」
「え、本当か?」
私の言葉に目をぱちくりさせたケントがスキルを使って攻撃すると、〈人食い花〉はあっけなく光の粒子になった。
「なんだ、そんなに強くなかったんだな。花に擬態していきなり襲ってくるのも、弱いなりに勝率を上げる作戦なのか?」
「てか、俺たちが強いんだよ。騎士団の大半が〈人食い花〉に勝てやしねぇよ」
「――!」
真剣に考え始めたケントに、ルーディットが正論を告げる。このダンジョン、全然攻略が進んでいないと言っていたからね。
「それもそうですね……。シャロンといると、自分が強いことをつい忘れるんです」
「それは……わかる!」
今度はケントの言葉にフレイが乗っかってきている。私はやれやれとため息を吐き、「はいはい!」と手を叩く。
「そんなことより、早く攻略するよ! 今日も料理長が腕に寄りをかけた夕食が待ってるんだから! 夕食前には帰宅です!!」
「料理長のご飯のために、頑張る!」
私の言葉に一番燃えたのは、もちろんルルイエだ。
「早く行こう! ケントが〈人食い花〉が気になってるなら、わたしが先に進んでおくから見ててもいいよ」
「いやいや、俺も行くから! 大丈夫!!」
食べ物がかかったルルイエはいつもの三倍テキパキしている……気がする。普段はゆっくりマイペース気味なところがあるので、そのギャップがまた可愛い。
「じゃあ、競争!」
「え」
ドヤっとしたルルイエが、大地を蹴った。ジャンプすると、あっという間に私の身長より高いところまで跳んでしまった。視線を動かしたルルイエは、「いち、に……」と何かを数えて腕を振った。
「〈ダークアロー〉、連射!」
ルルイエの周囲に闇の矢が顕現し、それが一気に撃ちだされる。そして命中した先は、〈人食い花〉〈ハーピー〉〈シルフワーム〉〈ポイズントレント〉。近くにいたモンスターに根こそぎ命中していて、さすがとしか感想が出てこない。
……というか、どの花が〈人食い花〉かわかってるの!?
漏れだしている少量のマナを感知しているのだろうか? 人間には不可能でも、女神のルルイエなら可能なのかもしれない。
……私もいつかできるようになれないかな。
「うわ、すげぇ……! 俺も負けてられないぜ。〈挑発〉!!」
ケントが大きく一歩前に出てスキルを使うと、近くを通りかかった〈ポイズントレント〉が襲いかかってきた。その攻撃を剣で受け止めつつ耐え、ココアとティティアが同時にスキルを使って倒す。
〈ポイズントレント〉は毒を持った歩く木なので、名前の通り毒攻撃をしてくる。現実世界となった今は、早く倒してしまいたい相手だ。
倒すのを確認すると、すぐリロイが支援をかけ直した。
……肩慣らししつつ連携をって感じだったけど、みんなある程度戦闘になれてるから、連携もいい感じだ。
このメンバーでIDに行っても特に問題はなさそうだと、私は胸を撫で下ろした。
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