第117話 ボス戦!
大蛇との戦闘前に、私は全員に支援をかけ直す。ミオも〈巫女〉の支援スキルを使ってくれているので、苦戦はするかもしれないけれど、負けることはないだろう。
「よし、行こうか……!」
「ああ! まずは俺が一撃入れてきてやる」
私の言葉にケントが頷き、「うし!」と気合を入れて地面を蹴った。大きくジャンプしながら、大蛇に初撃を与えるのだ。そしてその勢いのまま、〈挑発〉を使って大蛇の攻撃を一手に引き受けてくれる。
黒く大きな大蛇は『シャアアアァァッ』と声をあげて、自慢の尻尾を振り回す。尻尾は容赦なく襲ってくるが、それでケントが怯むことはない。
……本当、強くなったね!
「よし、大蛇のターゲットがケントになったよ! みんな、攻撃開始!」
私は叫ぶなり、すぐに〈必殺の光〉をかけていく。これで上手く大技を使うことができれば、かなりのダメージを与えることができるだろう。
「出だしは好調! ミオ、よろしく」
「はい! 〈速度低下〉〈防御低下〉〈攻撃低下〉!!」
ミオがすかさず大蛇に
「――舌! 全体攻撃が来るぞ! ジャンプだ!!」
ケントの声が響き、すぐに使おうとしていたスキルを取りやめる。私は足にぐっと力を入れて跳び上がった。が、すぐ近くにいたミオはスキルを使うことに夢中でケントの声に気づかなかったみたいだ。大蛇の尾が命中し、吹っ飛ばされた。
「〈絶対回復〉〈守護の光〉! ミオ、スキルを使う以上に周りの状況を把握することに集中して!」
「……っ、はい!」
ミオは体力を少しずつ回復させるスキルを使い、立ち上がる。その視線は大蛇に向いているけれど、ほかの仲間たちにも向けられている。全体を見るよう注意しているのがわかった。
……これでミオは大丈夫そうだね。
私は支援スキルをかけ直しつつ、戦闘の状況を見る。ケントが上手く攻撃を流すように受け止め、そこをみんなが攻撃している。洞窟内なのでタルトの〈火炎瓶〉は使い勝手があまりよくないけれど、ルーナの氷系の魔法スキルはかなり効果的だ。
このまま戦っていれば、問題なく倒すことができるだろう。
私は〈月の光〉を使いながら、大蛇の様子を見る。すると、素早い動作で舌を二回出した。いけない。
「鱗が飛んでくるよ!」
私はそれだけ叫ぶと、意識を集中させる。大蛇の通常攻撃はそこまで強くはないけれど、硬い鱗を飛ばしてくるこの攻撃だけは、食らうと致命傷になる。おそらく死にはしないだろうけれど、最悪の場合も考えられる。
……全員に防御はかかってる。
『シャッ!!』
大蛇が体を大きく振り回すと、一気に鱗が飛んできた。一枚ならいいのに、何枚も――何撃もくる。
「うおっ!」
「にゃっ!!」
ケントとココアに鱗が当たったので、私はすかさず〈守護の光〉をかけなおす。――というのを、鱗の攻撃の間中ずっと繰り返すのだ。すると鱗が一枚、私目がけて飛んできた。しかし同時にミオにも鱗が命中している。
「――っ!」
……やっぱりこの攻撃だけは、結構つらい。
自分の当たった鱗は防御で弾かれ、地面に落ちる。しかしそんなことはどうでもいい。今は〈守護の光〉のかけ直しだ。ミオにかけ直したタイミングで、ココアとルーナにも直撃した。私のはまだ持つので、二人に先にかけなおす。
「〈守護の光〉〈守護の光〉っと!」
そろそろ鱗攻撃も終わりなので、そこが一番のチャンスだ。鱗を剥がして攻撃した反動からなのか、大蛇が数秒硬直する。ここで一気に大技をしかけてしまえば、倒すことができるだろう。
〈守護の光〉をかける合間に、〈必殺の光〉もかけていく。全員が攻撃力三倍になれば、大蛇だってひとたまりもない。あとはフレイにかければ、全員の攻撃力が三倍になる。
よしよし、これでバッチリ――そう思っていた矢先、最後の鱗の攻撃が、最悪なことに私へむかって連続で飛んできた。
「――っ、〈必殺の光〉!!」
「シャロン!?」
フレイの叫び声が、私の耳に届く。私が自分への防御ではなく、フレイへの支援を選択したからだろう。鱗の攻撃は私のバリアをやぶって、右肩下くらいにヒットした。
……よかった、生きてる。
「一斉攻撃!」
「……っ、わかった!」
私は崩れ落ちつつも、フリーズした全員に指示を出す。心配してくれたのは嬉しいけれど、今は戦闘中だ。自分を回復し、一斉攻撃をくらった大蛇を見る。
「倒せてるといいんだけど……」
「シャロンの仇……くらえ大蛇! 〈
みんなの攻撃が大蛇に当たり、最後にフレイが大きく跳んで大蛇に一撃を入れると大蛇は光の粒子になった。――って、私は死んでないんだが!?
すぐにタルトが私に駆け寄ってきて、「ポーションですにゃ!!」と涙目になっている。
「もう回復したから大丈夫だよ。ありがとう、タルト」
「本当ですにゃ? よかったですにゃ……。お師匠さまが死んじゃったかと思ったですにゃっ」
タルトが私にぎゅーっと抱きついてきたので、本当に心配してくれたということがわかる。
「そうです、無茶しすぎです! わたくし、心臓が止まるかと思いました……っ!!」
こちらにもタルトと同じく涙目になっている人がいた。ミオだ。いくらなんでも無茶しすぎだと、支援職でも自分を一番大切にしなさいと、そんなことを切々と語ってくる。……まあ、その気持ちもわからなくはないけど、今回は一撃食らっても死なない自信があった。正直に言えばミオが私のフォローをしてくれれば完璧だったんだけどげふんげふん。
「まあ、私は無事だし次にいこう! 何かドロップアイテムはあるかな~?」
私は元気に声をあげて大蛇が死んだ場所に行くと、ケントとフレイが怪訝な顔をしていた。ルルイエは「食べ物じゃなかった」と残念そうだ。ぶれないね。
「シャロン、大丈夫か? さすがにびっくりしたけど、シャロンだから大丈夫だろうと思ってたぜ!」
「無事でよかった、シャロン」
「ケントとフレイの信頼が厚くて嬉しいよ。それで、何があったの?」
ドロップアイテムを覗き込んでみると、蛇型の笛が一つ落ちていた。当たりとも外れとも言い難い微妙なラインだけど、移動手段の少ないこの世界のことを考えると……当たりかも? きっと笛アイテムなので、二人はドラゴン召喚と同じ想像をしたのだろう。それ、合ってます。
「とりあえず、吹いてみたらどうかな?」
「吹いていいのか! わかった!」
フレイはすぐにぱっと表情を輝かせて、ためらうことなく笛を吹いた。隣にいたケントが驚いている顔をしているが、そうだったね、フレイはとりあえずやってみろの精神を持った人だったね。
ピロロロ~という笛の音がして、ズズ……ズズズ……と這うような音が聞こえてきた。
「な、なんですにゃっ!?」
「嫌な音です……」
「警戒!!」
タルトがぴゃっと飛び跳ねて、ミオは不快を示す。リーナは何が起きてもすぐ対応できるように構えの体勢をとった。
ズ……という引きずる音と共に、洞窟の奥から大蛇が現れた。私たちが先ほど戦っていた〈闇色の大蛇〉のミニサイズ版といったところだろうか。とはいえその太さはざっと一メートルほだり、長さも五メートルほどある。出くわしたら、悲鳴をあげるしかないほどでかい黒い蛇だ。
笛を吹いたフレイは頬を引きつらせながら、私を見る。
「シャロン、こ、これは……」
「移動手段の蛇だね。五人くらい乗れるし、森の中もすいすい移動できちゃうから……地味に重宝できるよ」
「なるほど……」
ゲーム時代はあまり気にしなかったけれど、現実で蛇に乗って移動するというのは……爬虫類が嫌いだと拒否反応がすごそうだ。私は可もなく不可もなくという感じではあるけれど、できればあまり乗りたくはない。
……まあ、楽しむために歩けばいいよね!
ちなみにケントとルーナは割と好意的で、それ以外はちょっと遠慮したい……という雰囲気を醸しだしている。
「これもまあまあレアなアイテムなんだけどね」
私がそう言って苦笑すると、フレイは「それはそうだな」と頷く。
「物は試しだ、出口まで乗っていってみるのはどうだ?」
「それはいいけど、全員は乗れないよ?」
「それもそうか」
フレイが悩んでいると、ルーナが「それなら……」と手を上げた。
「私とケント、それからミオの三人で乗って先行してみるのはどうかしら? 前衛、後衛、支援がいれば大丈夫でしょうし」
「えっ!?」
「ああ、それは名案だな。じゃあ、笛は一度ルーナに渡すから再召喚を頼む」
「わかったわ」
いったん蛇を返して、今度はルーナが笛を吹いて蛇を呼び寄せる。「いい子ね」と撫でているところを見ると、ルーナは本当に蛇が大丈夫のようだ。隣でミオが涙目になっているのは、ルーナが「頑張って克服しましょうね」と言っている。さすが勇者パーティ、いろんな意味でスパルタだ……!
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