第109話 冒険はここからだ!
――あ。もしかしてもしかしなくても、この世界では〈桃源郷〉ってあまり知られていないんだ。
あららと思ったけれど、もう遅い。別に隠しているわけではないし、そう簡単に行ける場所じゃないし、問題はないだろう。たぶんきっと。
後ろからは、ケントとココアの「もしかして〈勇者〉パーティと一緒に行動を!?」「どうしよう、緊張しちゃうよ……」なんていう話声が聞こえてくる。今は間違いなくケントとココアの方がレベルは高いけれど、フレイたちのパーティに憧れる若い冒険者は多い。気持ちはわかる。
うーん、どうしよう。
「フレイ、いきなりそんなことを言ったら、シャロンが困るわよ」
「む……。それもそうか。すまない、シャロン。だが、行ったことがないと、どうしても気になってしまって……」
「私も気になる、〈桃源郷〉! なんか、お宝とかいっぱいありそうな響きが好き!!」
私が悩んでいたらルーナがフォローしてくれたけれど、フレイとリーナはかなり気になっているみたいだ。すると、タルトが私のローブの裾を引っ張ってきた。
「わたしは一緒でも大丈夫ですにゃ。それに……」
タルトが背伸びをして、小声で「鍵のこともありますにゃ」と言う。なるほど、IDのメンバーにフレイたちを加えるというのはいい手だろう。レベルは心許ないけれど、フレイはユニーク職業の〈勇者〉だ。戦力として、かなり期待できるはずだ。
「俺も! パーティを組めたら嬉しい!」
「私も!」
ケントとココアも乗り気だ。ただルルイエに関しては、どちらでもよさそうな顔をしている。初対面だし、今のルルイエの興味は食ばかりで、人間にはあまり向いていない。
「みんながいいなら、私も構わないよ。……でも、フレイだけならともかく、ルーナやミオだって一緒でしょ? そんなに簡単に決めていいの?」
「私たちも世界各地を巡っているからな。目的地も明確に決めているわけじゃないんだ。ぜひ、よろしく頼む」
「……なら、よろしくね」
ひとまず一時的なものだけれど、フレイのパーティと行動を共にすることにした。さて、どうしようか。
ゲートを使ってスノウティアに行こうとしていたけれど、フレイたちは〈冒険の腕輪〉を持っていない。そのためゲートを使えないし、正直に言って――スキルも自由に設定できないので、強さ的にもちょっと微妙。
なので、フレイたちにもクエストをして腕輪をゲットしてもった。フレイたちなら信頼できるけれど、口外しないという約束も一応書面で交わしている。
今後の〈冒険の腕輪〉に関しては、ティティアが〈教皇〉として落ち着いた段階で周知するという手はずになっている。まだロドニー関連のごたごたが完全に終わってはいないので、公表はもう少し先だろう。
「……まさかこんな便利な腕輪があったとは。本当に、シャロンの知識はどこから来ているんだ?」
「それは乙女の秘密ってやつですね~~」
ルミナスに腕輪を作ってもらったフレイが、まじまじと腕輪を見つめている。フレイ、ルーナ、リーナ、ミオの四人が〈冒険の腕輪〉を手に入れた。
「その腕輪に荷物を収納できるから、今のうちに買い物をしちゃってください。終わったら、北門を出て少し歩いたところ集合でいいですか?」
「ああ、構わない。馬を借りていけばいいか?」
「徒歩でお願いします」
「? わかった」
私たちは乗り物――ドラゴンを手に入れているので、移動の際は空を使う。馬より早いし、ドラゴンであれば今日中にスノウティアに着くだろう。
そして一時間後、私たちが呼んだドラゴンを見てフレイたちがあんぐりと口を開けた。
「ななな、な、なんだこのドラゴンは!?」
フレイが剣に手をかけたので、私は「落ち着いて!」と声をあげる。
「どどどど、ドラゴン!?」
「しかも四頭も!?」
「ひぃっ……」
珍しくルーナが取り乱し、リーナは逃げるか戦うか考えているみたいだ。ミオにいたってはふら~っと倒れてしまいタルトが「大丈夫にゃ!?」と必死で支えている。
「この子たちは、私たちが召喚したドラゴン! 戦闘要員じゃなくて、移動手段! つまり、馬と一緒!!」
「……馬と一緒はさすがに無理があるんじゃ……」
私がフレイたちに説明していると、ココアからぽそりとツッコミが入ったが気にしない。
「腕輪だけでもすごいというのに、まさかドラゴンまで使役しているなんて……。シャロンは規格外すぎます……」
茫然としたミオの言葉に、私はアハハと笑うしかない。これから先、〈桃源郷〉に行ってIDにも挑戦するのだから、これぐらいで驚いていたら心臓が持たないのでは……なんて。
「とりあえず、スノウティアに向けて出発しましょう。フレイは私、ミオはココア、ルーナとリーナはケントのドラゴンに乗せてもらって」
私が指示を出し、一気に空を舞った。
「……っ、すごい景色だな」
「でしょう?」
「だが、それ以上にドラゴンを移動手段にしているシャロンに驚いたぞ……。いつの間にか、タルトもすっかり規格外になっているじゃないか」
フレイはドラゴンを操るタルトを見て、「きっとトルテが驚くぞ……」と笑う。タルトはそんなフレイの視線はまったく気にせず、乗せているルルイエと楽しそうにお喋りをしているようだ。
……でも、トルテが驚く姿は目に浮かぶね。
私がトルテのことを考えて笑っていると、ふいにフレイの声が真剣身を帯びた
「シャロン。……腕輪のことも、このドラゴンのことも、私たちに教えて本当によかったのか?」
「……元々、公表する予定ではあったんですよ。だから構いません。それに、フレイたちにもドラゴンをゲットしてもらわなきゃだし……」
「は?」
私の最後の言葉を聞いたフレイは、目が点になった。
しばらく空の旅を楽しんだ私たちは、スノウティアで一泊する。
いつも使っている宿屋で温泉を楽しんだら、お楽しみのスキル再設定タイムへ突入だ。その日、スノウティアにフレイの「まずいっっっ」という声が響き渡ったとか渡らなかったとか――。
楽しい冒険は、まだこれからだぞ★
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