どう考えても俺の召喚魔術だけ使い方がおかしい件~自分の身体に『幻獣の魂』を召喚して戦う固有スキルが最強だったので、最速で英雄への道を駆け上がります!
第8話 『ダンジョンに閉じ込められたので攻略する』
第8話 『ダンジョンに閉じ込められたので攻略する』
『……マジかよ』
一難去ってまた一難というやつだ。
ダンジョンの第一階層への道が、なくなっていた。
正確に言えば、土砂と瓦礫で埋まっていた。
何かの拍子に階層と階層をつなぐ通路が崩壊したらしい。
何かの拍子……まさか、撤退する冒険者たちがツタの侵攻を食い止めるためにわざと階層を崩壊させた……とかじゃないだろうな。
いずれにせよ、《水槍》だけではこの量の土砂や瓦礫を吹き飛ばすのは難しい。
『どうしたのじゃ?』
ダンジョンのあちこちを興味深げに見て回っていたウンディーネが追いついき訊ねてくる。
「道がふさがっている」
『迂回路はないのか?』
「ない。出入口への道はここだけだ」
『むう……我だけならば、水に変化して隙間から外に出れるのじゃろうが……お主が出られぬのでは意味がないのじゃ」
ウンディーネが難しい顔で唸る。
「ウンディーネ、君は俺からどれだけ遠くまで離れられるんだ? 場合によっては、外に助けを呼べるかもしれない」
『うーむ……ざっと百歩分ほどじゃろうか』
「なら、難しいな」
《水見》でざっと透視してみたが、崩壊は最低でも数百歩分は続いている。
へたをすれば、第一階層全体が崩れているかもしれない。
クソ、これじゃあせっかく力を得たのに生き埋めじゃないか!
……いや、待てよ。
『何かいい案を思いついたようじゃな?』
「いい案かどうかは分からないが……最深部まで到達できれば、脱出できるかもしれない」
『なぜ出口から遠ざかると脱出できるのじゃ?』
ウンディーネは俺の意図をつかめず、小首をかしげる。
そういえば、彼女は
「ここは『遺跡型』、もともとは古代人が作った地下建造物だ。最下層には
『ぽぉたる?』
「転移魔術を使った、緊急脱出口だ。たしか、地上部にある神殿の小部屋に転移できたはずだ」
『なるほど。それなら脱出できそうじゃな」
『ただ、最深部にはダンジョンボスがいるから、コイツをなんとかしなきゃならない。……おそらくツタの魔物の親玉だ』
ポータルは、こいつが守っている部屋のそのさらに奥の小部屋にあるはずだ。基本的にダンジョンは、そういった構造になっている。
もっとも、ダンジョンボスを倒す必要はない。
うまく物陰に隠れて、見つからないように奥へ進めばいいだけだ。
実際、そうやって最深部から帰還した冒険者たちもいる。
『なるほど。それならば、ダンジョンの外に出られるやもしれぬのう』
ウンディーネが納得したようにうなずく。
……が、すぐさま挑戦的な表情でニヤリと笑みを浮かべた。
『じゃが、そのツタの魔物の親玉とやらに見つかったら、どうするつもりじゃ?』
「……そしたら終わりだな。ツタ部分だけでも普通の冒険者じゃ撤退を選ぶほどの魔物だ。おそらく本体は、比較にならないほど強い」
まあ、普通は勝てない。
『……ふむ。じゃが、今のお主ならば楽勝じゃろうなて』
「冗談だろ!? 相手はほとんど天災みたいな強さだぞ?」
『フン、我をなんじゃと思っておるのじゃ』
ウンディーネがふんす、と鼻息を荒げる。
『我は水の事象そのものを司る精霊じゃぞ? その力を使えるお主が、名もなき魔物に遅れをとるわけがなかろう』
「ホントかよ……」
『なんじゃその目は! お主、我を信じておらぬのか? 信心が足りぬヤツじゃのう』
「そりゃ、な……」
ツタの魔物の親玉……イビルトレントはダンジョンボスだ。
しかも、フェイは『砦級』とか言っていた。
腕に覚えのある冒険者でも瞬殺されるレベルの脅威だ。
ちょっとばかり強くなったとはいえ、俺が戦えるとは思えない。
『ふむ。お主に足りないのは自信、ということじゃな……。世話の焼ける主様じゃが……我好みに育てるのも、乙なものかも知れぬのう。ククク……』
不穏な笑みを浮かべているウンディーネだが……なにか様子がおかしい。
「おい、ウンディーネ。なんか体が溶けてきてるぞ」
『……むぅ、邪念のせいか集中力が乱れてきておるな』
顔をしかめ唸るウンディーネ。
そうしている間にも、形がどんどんと崩れていく。
「大丈夫なのか? これ」
『案ずるでない。邪念の方は冗談じゃ。久方ぶりの現世ゆえ、形を保つのに集中力を使っておったからな。少々疲れただけじゃ。魂はもとよりお主の体内に存在しておる。……ほれ、ちゃんと感じるじゃろう?』
「た、たしかに」
言われてみれば、体の奥底にウンディーネの存在を感じる。
言葉にしづらい感覚だが、特に不安定な様子はない。
それを自覚して、なんとなくホッとする。
『これからしばらくは、節約モードじゃ。なにかあっても我は手を出せぬが……なに、我が力を得たお主ならば問題あるまい』
そう言うと、ウンディーネは手のひらサイズの水球に変化した。
ぴょん、と地面を跳ね、俺の肩にちょこんと乗っかる。
その見た目は、どうみても……
「やっぱり、スラ」『水の精じゃ。いいな?』
思い切り被せてきたな!
どうやらこだわりのポイントらしい。
「はあ……分かったよ。水の精だな」
『分かればよいのじゃ』
それはさておき。
俺が今、やるべきことは決まっている。
ダンジョンを最下層まで潜り、ポータルで外に脱出する。
それだけだ。
それにウンディーネの力そのものが失われたわけではない。
力を引き出すやりかたは、さっきの戦闘でだいたいコツをつかんでいる。
「――《水槍》」
――バスッ!
虚空に水球が出現。
そこから突き出した水の槍が、近くの石床に深い穴を穿つ。
『うむ。問題なく力を使えるようじゃな』
ちなみに《水見》の方も問題なく使える。
直下の階層に魔物が蠢いている気配があるが、この階層にはいないようだ。
「よし、いくか」
俺はひととおり『力』を確認したのち、ダンジョンの奥へと進んでいった。
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