男の娘事後百景

冬寂ましろ

第1話 デリカシー


 だって、我慢できなかったんだよ。


 「あ、おならでる」


  ぷう。


 「お前なー。ほんとそういうところだぞ」


 彼が僕の尻たぶを叩く。いい音がして、寝そべっているベットが少し軋む。


 「あはは、ごめんごめん」


 私は笑って返す。

 昔はおしっこの音を聞かれるだけでも恥ずかしかったのにな。


 ラブホの安っぽい部屋。ガウン姿の彼。少し薬品の匂いがするベット。スカートやパンツが散乱している床。何度も見慣れた景色。


 ああ……。なんか今日は気持ちがぐるぐるしちゃうな。これ、いま彼に聞いていいのか迷うけどさ。


 「ねえ、奥さんには話した?」

 「まだ」

 「だよね。新婚さんには悪い話だね」

 「ほんと悪いことしてんな。わかってるけど」

 「しかも男同士だよ」

 「最悪だよな」


 そうだね、最悪だよね…。

 じゃあこれまで付き合ってたのはなんだったの。


 「……なんで結婚したの?」

 「いやあ女も知りたくなってさ。そしたら彼女に捕まえられてずるずると」

 「はあ……。君のだらしのなさは天下一だね」

 「知ってるだろ」

 「知ってるよ」


 それでも愛してるんだけどな。少しすねてもいいのかな。


 「うちら、君たちの交際期間より長いんですけど」

 「まあな。でも……」

 「わかってるから。それを言わなくても。付き合い長いから……」


 言い終わる前に唇を唇で塞がれる。彼の舌先が私の口の中を犯し、私から存分に喘ぎを引き出すと、顔を離す。めずらしく寂しそうに見つめている彼に、僕はたずねる。


 「……なにそれ」

 「口封じ」

 「君のほうがよっぽどデリカシーがないよ」


 彼の笑顔が返ってくる。

 ああ、好きだな。まだ、ずっと。仕方ないか。

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