31 帰任して即ダッシュ


 ドドーン…。かすかに聞こえる爆発音と地響き。捕らわれの姫は目を覚ました。


(騒がしいわ…)


 そして、城の窓を開け外の景色を見ると、数キロ向こうで火柱が上がっていた。慌てふためく兵士たちが、一斉にどこかへ駆け出していく。


(もしかして、私を助けに来てくれたのかしら?)


 囚われの姫は、できることなら、銀髪の美少年がこの窓から手を伸ばして私を迎えに来てくれないかと、そんな幼い妄想をするのである。そんなときであった。


 キーン…、シュタッ。


 誰かがこの城の屋根の上に降り立ったらしい。そして、窓の外に垂れてくるロープ。


(本当に助けが来た!)


 しかも、ロープを伝って降りてきたのは長い銀髪の少年であり、優しそうな笑顔で繊細な手を差し伸べる。囚われの姫は、運命でも察したように少年に飛びついた。そして、少年の肩にしっかり掴まってこの狭い城を飛び立つのである。


 私は、この人に助け出された。身も心も連れられてしまうのだ!


「ちょっと! キリエ君にべったりくっつかないで!」


 後ろについてくるもう一人のガキ娘がものすごい嫉妬の視線を送ってくるけれど、そんなことは関係ない。


「いやですわ、揺れて落ちてしまうかもしれませんもの!」


 姫様は、少年の背中に垂れる長くふさふさした銀髪に顔を埋めるのであった。


 *****


「あ、戻ってきたぜ!」


 私とクロルは先に飛行艇に戻ってきていた。空を見上げていたクロルが声を上げる。


「本当にうまく行くんだな」


 エリックが感心しているようなので、私は自慢げに語ってやる。


「この私がついてるからな!」


 そうやって自慢したら、エリックは私の頭に手を置いてなでなでとしてくれた。後ろでクスクス笑うコルコア。恥ずかしい…。


「さぁ、追手が来る前に出発しよう」


 キリエたちがカヌレを収容し、わがままな姫様を特等席に座らせて、飛行艇が離陸する。




 作戦が終わり折り返しの2週間。驚くことに、敵の追手は特になく。飛行艇は山脈を越えてエレーヌの町を目指して飛んだ。私の両親が待つ町である。




「モンブランは見えたか?」


 キリエが山の方位を確認し、地図と照合する。しばしの沈黙の後…。グッドのサインを見せる。


「やった。帰ってきたぞ!」


 飛行艇は無事に帝国領に帰還した。すぐにキリエが暗号コードを送付すると、すぐに返信がやってくる。どうやら待ちわびていたらしい。作戦成功を見届けるために護衛の戦闘機が飛んできた。


「おーい!」


 クロルが手を振ると、戦闘機のパイロットも窓を開けて手を振り返してくる。ニコニコとを笑顔を崩さないままクロル振り向く。


「どうやら、本当に護衛らしいな」


 こんなところに来てまで口封じ、なんていう展開はこっちもごめんなのである。


「わざわざ助けて死亡確認なんてしないでしょ」


「帝国ならやりそうじゃねーか」


 護衛でやってきた戦闘機の誘導に従い、私たちは思惑通り最寄りのエレーヌ基地に降り立つ。そして、滑走路に降り立つなりすぐに、私たちは飛行艇から降ろされる。もう一度言う。滑走路上で降ろされた。


 そして、一等国民で構成されるボディビルダーみたいな兵士たちが代わりに乗り込んでいく。私たちは滑走路にポツンと取り残されるのである。最後のおいしいところだけ持っていく一等国民であった。


「ひどくないか?」


「え? こんなもんだぜ」


 しかし、しかしである。姫様が側面の窓を開けて大声で叫ぶ。


「キリエ君は連れて行きたいの!」


 しかし、わがままな姫様に対してバイバイと微笑みながら手を振るキリエであった。この後、姫様と皇帝陛下の感動の再開があるのだが私たちには関係ないことである。


「さてと…」


 ここまでは予想通りだった。帝国兵が戦果を持っていくことも、その後の私たちへのマークが何もなくなることも。


「アイラ、行ってこい。待ってるからな」


 王子に背中を押され、私は駆け出した。そして、父と母の住む場所を目指すのだ。


(父さん、今の私を見たら驚くかな?)


 6年ぶりの感動の再開の後は、強引にでも連れ出してみんなでつつましくも自由に暮らそう。そんな、ささやかな希望は目の前である。


 手紙の住所を頼りに、両親がひっそりと暮らすというアパートの一室を目指した。


 町は閑静かんせいな住宅街で、悪い生活をしているわけではなさそうだった。


(よかった。私ががんばったからかな?)


 人質に取られた両親のため、今まで辛いことにも耐えてきた。だから、いっぱい褒めてほしい。父さんも母さんもきっとめいっぱい褒めてくれるに違いない。


(ようやく、帰ってきたんだ!)


 でも、住所の場所にあったのは、小さいけれど日当たりのよいベランダがついているアパートではない。


 地域を統括とうかつするようなレンガ造りの大きな郵便局だった。


(父さん、ここで働いてるのかな?)


 でも、手紙にはそんなこと書いてなかった気がする。


  

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