第32話 戦争中

 それからの日々は重苦しく辛い日々だった。毎日お母様と一緒にシュヴァルツ達の無事を祈る。本当はもっと直接的な手助けがしたいのだけど、私達には祈ることしかできない。もどかしさばかり積もる日々だった。


 気分転換に植物紙の研究でもしようかとも思ったけど、それも難しい。戦争に働き手や物資が奪われて、研究に必要なそれらを確保するのが難しくなってしまった。戦争のせいで物価が跳ね上がっちゃうし、そのせいで食事が質素なものになっちゃうし、本当に良い事が無い。


 戦争なんて大っ嫌いよ!物資どころか、私から大切な人を次々と奪っていく。ほんと、戦争なんて大っ嫌い!




 それから三カ月ほど経ったある日。私はお母様からある知らせを聞いた。なんと、戦争で味方が勝利したらしい。しかも、ただの勝利ではない。大勝利だと言う。私はそれを聞いた瞬間、疑ってしまった。敵はあのアルルトゥーヤ帝国である。この国よりも強い国だ。それを相手に大勝利……まさか大本営発表じゃないわよね?戦意高揚の為に嘘の情報を流してるとかありそうで怖い。


 でも、お母様によると確かな筋の情報なようだ。私はそれでも疑っていたのだけど、お母様の話を証明するかのように、お父様からの手紙が届いた。それによると、本当に味方が勝ったらしい。


 手紙には色んなことが書いてあった。お父様達はまっすぐ戦場には向かわずに、海へと向かったらしい。海で船に乗って、旧ホッケカイヤ王国領に渡ったようだ。


 旧ホッケカイヤ王国領って、今はアルルトゥーヤ帝国の支配地じゃない!敵の支配地域のど真ん中に上陸するなんて……危険すぎる。だって、敵に見つかってしまえば、すぐに囲まれてしまう。逃げようにも後ろは海だ。逃げ道なんて無い。なんて危ないことしてるのよ、バカシュヴァルツ!


 お父様達は、奇跡的に敵に見つからずに上陸。そのまま旧ホッケカイヤ王国領を移動して、味方と対峙している敵陣の背後を突いて、敵を挟み撃ちにしたらしい。


 我が軍の働きが味方に勝利をもたらしたのだ!って嬉しそうに弾んだ文字で書いてある。そしてどうやら、この危ない作戦を考えたのはシュヴァルツらしい。お父様は、シュヴァルツ殿下は天才だって褒めちぎってるけど、私は素直に喜べなかった。成功したから良いものの、なんて危険な事を……。


 手紙にはお父様とお兄様、そしてシュヴァルツの無事も書いてあった。これは素直に喜べる。三人が無事で本当に嬉しい。


「お母様!」


「マリー!」


 私は先に手紙を読んでうずうずしていたお母様と抱き合って喜びを分かち合った。本当に、皆無事でよかった。




 シュヴァルツ達が王都に帰ってきたのは、お父様の手紙を受け取った半年後の事だった。

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