第10話 システィーナ来る②
その日は朝から様子が変だった。なんだか、やけに注目を集めてる気が…これって気のせい?思春期特有の自意識過剰ってやつかしら?でもなー、皆こっちをみてヒソヒソ小声で話してるし、やっぱりどこか変だ。なんなのよ、まったく。言いたいことがあるなら直接言えばいいじゃない。
それとも、私の格好がどこかおかしいとか?気になって自分の格好を見下ろすけど、いつもの制服姿だ。どこもおかしなところなんて無い。シャツも出てないし、首元のリボンも綺麗に結んである。スカートが捲れているなんてこともない。ひょっとして、目で見れない背中に何かあるとか?でも、皆私の顔を見てヒソヒソ話してるのよねー。気になってお化粧室に寄って鏡に顔を映して見るけど、いつも通り可愛い顔が映されるだけだった。もう!いったいなんなのよ!
努めて気にしないようにして教室へと急ぐ。廊下での人々の反応も似たようなものだ。私の顔を見てヒソヒソ話。なんだか、だんだんイライラしてくるわね。でも、よく見ると嘲笑ってる感じじゃないのよねー。私を見てヒソヒソ話している女の子二人に視線を向けると、目を逸らされてしまった。
「行きましょう」
「ええ」
それどころか、女の子達は足早に遠ざかって行く。何?この反応。まるで怖がられている様な…。え?マジで怖がられてるの?
「なんでよ…」
怖がられるようなことした覚えなんて無いんだけどなぁ。私、何かしちゃいました?
教室のドアを開けると、無数の視線が私に突き刺さる。いつもならすぐに視線が外れるのだけど、今日は刺さりっぱなしだ。私は気にしない振りをして、いつもの友達グループに合流する。
「皆様、ごきげんよう」
「「「「・・・・・・・」」」」
いつもおしゃべりしてる4人のお友達は、みんな無言で目配せし合っている。あのー?もしもし?聞いてます?そんな反応されると泣いちゃいそうなんですけど?
やがて、お友達3人の視線が一人に集まり、その一人がおずおずと私に話しかける。
「ご、ごきげんよう…マリアベル様。あの、すぐに屋上に行ってください」
え?何で?
「屋上でシスティーナ様がお待ちです…」
…え?
それっきり話さなくなってしまった友人達。仕方なく私は階段を上り、屋上を目指す。足取りが重い。当たり前だ。システィーナの要件なんて分かっている。絶対怒られるヤツだ、これ。ゲームでも見たもん、このイベント。ヒロインちゃんが、悪役令嬢システィーナに呼び出されて怒られるのだ。いや、怒られると言うよりは嘲笑される。
「はぁ…」
何でバレちゃったんだろう?しっかりとシスティーナに見つかるフラグは折ったはずなのに…。何で?そればかりが頭を廻る。もしかして、シュヴァルツ達がバラしちゃった?でも、システィーナが来た時、シュヴァルツ達は心配そうな顔で私を見ていた。積極的にシスティーナに私の存在をバラすとは思えない。じゃあ何で?どうしてバレちゃったの…?
屋上への扉を開けると、予想に反してカラフルな光景が私を出迎えた。コンクリート打ちっぱなしの殺風景な屋上を想像していたのだけど、屋上には草花が植えられて、色彩的にも賑やかだ。感動の一つでも覚えそうなものだけど、私のテンションは上がらない。低いままだ。だって怒られるんだもん…。
「来ましたわね」
屋上に陣取っていた5人の目がこちらを向く。5人の真ん中に居るのがシスティーナだろう。あの見事な金髪ドリルは見間違えようもない。残りの4人はシスティーナの取り巻きだろう。システィーナは私を見ると、右手で金髪縦ロールを弾き、赤い瞳がこちらを威嚇するように睨み付けてきた。
「あなたがマリアベルね」
システィーナと取り巻きの視線が、まるで私を値踏みするように上下に揺れる。
「はい。マリアベル・レ・キルヒレシアと申します」
「わたくしはシスティーナ・ラ・ロベルタ二ア。シュヴァルツ殿下の婚約者ですわ。あなたがここに呼ばれた理由、もうお分かりですわね?」
「はい…」
頷かざるを得ない。だって、非常識な行動を取っているのは私の方だ。婚約者のいる異性にみだりに近づいてはならないのだ。近づくだけでも問題なのに、私は人目を憚るように影でひっそりとシュヴァルツに会っていた。シュヴァルツが人混みが嫌いで、あんな所に居るのが原因なのだけど、システィーナの立場から見ると、私とシュヴァルツは密会をしているようにしか見えない。システィーナが怒るのも当然だ。
「あなたには、殿下に近づくことを禁じます」
「男爵家の娘ふぜいが、烏滸がましいにも程がありますわ」
「そうです。身の程を知りなさい」
「どういうつもりでシュヴァルツ殿下に近づいたのかしら、この阿婆擦れ」
「嫌ですわ、なんてはしたない娘なんでしょう」
システィーナにシュヴァルツへの接近禁止を言い渡されてしまった。これは分かる。でも、なんで取り巻きのあんたらに好き勝手言われなくちゃいけないのよ!ムカつくわね!
「反抗的な目ね。システィーナ様、どうやら反省していないようですよ」
取り巻きの達を睨んでいたら、告げ口されてしまった。こいつらほんとムカつく!違うのよ、システィーナ。私はちゃんと自分が悪いって分かってるから。取り巻きの態度にカチンときちゃっただけで、システィーナには悪いと思ってるの。もうちょっとの間、シュヴァルツに会わなくちゃいけないけど、それは家族の為で、他意はないの。
私は祈るような気持ちでシスティーナを見つめる。
「どうやらそのようね。言って分からなければ、こちらも相応の手段を手段を取らざるを得ないわ」
システィーナが厳しい表情で私を睨んでくる。取り巻きはニヤニヤと私を見て嗤っていた。そんな!誤解よ!
「ちょま…」
私は慌てて釈明しようとする。
「システィーナ様、話の通じない人と話していても時間の無駄ですわ」
「そうですわ。ささ、早く教室に戻りませんと授業が」
私の話を遮り、取り巻き達がシスティーナを連れて屋上を後にする。マジか…これで私がいじめられることになるの…?言い訳もさせてくれないとか酷くない?てか、あの取り巻き共の態度は何よ!すれ違いざまにも「これから大変ですわね」とか嗤って言ってくるし、絶対性格悪いわ!
「はぁ…」
半ば覚悟はしていたとはいえ、これからいじめが始まると思うと憂鬱だ。いっそシュヴァルツに助けを求めてみるか?でも、そんなストーリーはゲームには無かったし、止めておこう。無いとは思うけど、それでシュヴァルツとヴァイスの和解イベントが無くなったら取り返しがつかない。
「憂鬱だわ…」
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