第8話 ゲオグラムの詰問②
まずは、現状のすり合わせだ。
「両殿下の側近達は、お互いに警戒し合ってますよね?」
「当たり前だ。特に手紙の封筒など、何が仕込まれているか分かったものではない。最悪、毒殺もあり得る」
暗殺を警戒してるの!?シュヴァルツとヴァイスの仲は思ったより冷え込んだものかもしれない。
ゲームで見たから知ってるけど、シュヴァルツとヴァイスって生まれた時から、いえ、生まれる前から対立することが決まっていた。二人は母親の違う異母兄弟なのだ。第一妃の子どもがシュヴァルツ、第二妃の子どもがヴァイスだ。
通常、第一妃の子どもであるシュヴァルツの方が王位継承権が上だ。しかし、そうはならなかった。二人の王位継承権は同率として扱われている。これには理由がある。第一妃は10年以上子どもに恵まれなかったのだ。第一妃は子どもを産めない女と蔑まれ、王は第二妃を迎えることになる。第二妃を側室として迎えるわけじゃない。次代の王を生む、国母に相応しい高位貴族の女性を妻として迎え入れたのだ。第二妃はすぐに懐妊した。だが、その後を追うように、第一妃も懐妊したのだ。やがて、第二妃はヴァイスを出産し、第一妃はシュヴァルツを出産する。
人々は次代の王の誕生に喜んだが、同時に混乱した。果たして、どちらが王位を継承するべきなのか分からなかったのだ。慣例に従えば、第一妃の子であるシュヴァルツが継承するべきだが、ヴァイスの方が早く生まれている。第二妃も国母に相応しい女性であり、甲乙付け難い。
混乱はすぐに争いになった。第一妃の実家と第二妃の実家が中心になり、次代の王の外威をめぐる争いになったのだ。
今では、アルルトゥーヤ帝国に対する政策なども絡んできて、国を二分する争いになってしまった。
何の話してるんだっけ?シュヴァルツとヴァイスの生まれを回想してたらボーッとしてしまった。
「貴族院の中では、連れている側近の数は少ないが、それでも手紙や贈り物の類には警戒する。手紙を送ったところで、側近に止められるのが落ちだ。ヴァイス殿下に読んで頂けるとは思えない」
そうだ。手紙の話だ。しかし、主に届いた手紙を勝手に処分しちゃうとか、側近ありえなくない?
「側近が予め目を通し、要約したものを殿下にお伝えするのだ」
なるほど。でも要約した文章じゃ、心に届かないよね。やっぱり、ヴァイスに直接手紙を届けないと。
「ヴァイス殿下に直接手紙をお渡しすることはできます」
「なにっ!?いったいどうやって!?」
「ベグウィグに運んでもらうのです」
「…は?」
ゲオグラムがキョトンとした顔をする。なんだかあどけなくて、年齢相応の表情で可愛らしい。ほっこりしてしまう。けれど、ゲオグラムの顔はすぐに呆れたものへと変わってしまった。
「鳥に何を期待してるんだ?そんなことできるわけないだろ」
「ベグウィグならできます。あの子は賢いです」
「ふむ…」
ゲオグラムが腕を組んで考え込む。
「やって損はありません。やるべきです」
「たしかに、やって損はないか…一応進言してみよう」
ん?進言ってシュヴァルツに伝えるってこと?それはダメだ。シュヴァルツに言ったらすぐに試すだろう。それではイベントの起こる時期がズレてしまう。ゲオグラムとこんな話をしている時点でゲームのシナリオから外れてしまったのだ。これ以上シナリオから外れるようなことはしない方が良い。最悪、王子達の仲直りイベントが無くなってしまう。
「お待ちください。まだその“時”ではありません。殿下にはお伝えしないでください」
「時期を待つということか?」
「はい」
「その時期はいつ訪れる?」
手紙イベントっていつ起こるんだろ?ゲーム中盤辺りだったから、そろそろのはずだけど…。
「もうそろそろのはずです。その…時期を見る為にシュヴァルツ殿下の御傍に居たいのですが…」
「それが目的か」
ゲオグラムの目が厳しくなる。どうやら私はまだ警戒されているらしい。だが、フッとゲオグラムの表情が和らいだ。
「良いだろう。ただし、私が居る時に限るがな」
やった。
「ありがとうございます!」
ゲオグラムはいつもシュヴァルツと一緒に居るからね。これは実質いつでも会いに来て良いということだ!接触禁止命令を出された時はどうなることかと思ったけど、これはどうになったんじゃない?
でも、おかげでストーリーには無いことまでゲオグラムに話してしまった。王子達の和解イベントに影響がでないと良いんだけど…。
◇
【ゲオグラム視点】
コンコンコン
主、シュヴァルツ殿下の部屋を訪ねると、取次の者が顔を出した。主との面会を申し込む。すぐに中に通された。
「只今戻りました」
「ゲオグラムか。皆は席をはずせ」
帰還の挨拶をすると、主が人払いをする。おそらく、私が話しやすいように配慮してくれたのだろう。有り難い。
「それで?気は済んだか?」
今回マリアベルに詰問することは、事前に主に報告していた。主は必要ないと仰せだったが、マリアベルは如何にも怪しい。主に会いに来る頻度が異常だ。普通は遠慮するものだが、毎日来ている。主と一緒に居る時間は、並みの側近より多いくらいだ。こんなに主の傍に来るのだ、何か裏があるのではと詰問してみたのだが…結果は予想外のものだった。
「はい。ですが、予想外のこともありました」
「ほう?」
主が面白そうなものを見つけたと、顔をほころばせる。明らかに楽しんでおられる。やれやれ。
「マリアベルには目的がありました」
私は今日あったマリアベルとの会話を主に報告する。マリアベルは、しきりに主に報告しないよう言っていたが、報告しないわけにもいかない。主とヴァイス殿下の関係は極めて繊細な問題だ。本人を前に口に出すだけでも緊張する。この問題にズカズカと踏み込んでくるマリアベルは異常だ。男爵家の跡取りでもない令嬢が、辺境伯家の嫡子である私に口答えするし、やはりどこかおかしい。すごい剣幕で反論してくるし、正直、ちょっと怖かった。
「なんとも、まるで占い師の様な口ぶりだな」
「はい」
占い師か。たしかに、妙に自信ありげな態度といい、占い師の様だった。
「ですが、マリアベルは具体的な方法を示してきました」
「うむ」
占い師の様に曖昧な言葉で煙に巻くのではなく、マリアベルは現実的な方法を示してきた。可能かどうかはさておいてだが。
「可能と思われますか?」
「……分からんな。たしかにベグウィグは賢いが、可能かどうかは試してみなければ分からん」
「p?」
名を呼ばれたベグウィグが反応する。たしかに賢いところはあるが、そんな伝書鳩のようなことが可能かどうか…。いや、伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用した一方通行のものだ。好きな場所に送れるような便利なものではない。やはり難しいのではないだろうか。
「まぁ、マリアベルの言うように、失敗して損があるわけでもない。試してみよう」
主は試すおつもりのようだ。たしかにダメで元々、成功すればその成果は計り知れない。試す価値はある。
「すぐに支度いたします」
紙とペンが必要だ。
「いや、マリアベルの言う“時”とやらを待ってみよう」
「よろしいのですか?」
主は面白がるような表情を浮かべている。遊んでおられるな…。
「マリアベルが言い出したことだからな。ここは占い師殿の言うことを信じてみよう」
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