第30話 愛は贖宥を求めずに
「
「誰か!?」
「
カリクマの
「親子か?
アトコが門下の女に問い掛ける。
「私はパリャと申します。こちらは息子のキスカと娘のラチャです。子供たちを侵した
パリャと名乗った女は、そう問い掛けに答えた。
「――ですが、
アトコとカリクマは互いに顔を見合わせる。こんな時間に女子供がと思えば不審であるが、しかし彼女たちが悪意ある賊の類いとも思われない。
「どうする?」
「
相談する二人にパリャが懇願の声を上げる。
「どうか宿をお願いします。子供たちは
地面に膝を突いて、子供たちのために切々と訴える母親の姿に、二人は大いに弱ってしまった。
「……仕方ない。ひとまず
そこに夜闇の向こうから馬蹄の響く音が聞こえてきた。
「開門! 開門!」
二人が視線を上げると
「
「
騎乗の男は門下に駆け込んで来ると、そう呼ばわった。
「
王の命令が偽造されるのを防ぐために、
「アトコ」
「わかった」
「……ところで、この者たちはなんだ?」
「彼女等は……」
「
カリクマが答える前に、パリャは身の上の事情を切々と男に訴えた。
「なるほど。それは難儀だな――」
「――おい、
一通りの話を聴き終える頃、門の端に設けられた小窓が開いた。アトコが
「こちらだ」
男が小窓から差し出されたアトコの手に
「――ふむ」
「門を開けろ」
「開門!」
アトコが命令を大声で復唱すると、他の衛兵が応じて門を開いた。
「
「
「その通りです。ここも
カマルパイと名乗った
「あちらのご婦人がお困りの様です。できれば中へ入れてやってはどうでしょうか?
この提案に
「いいでしょう。特に害のある
その命令を受けて、アトコは親子に門をくぐる許可が下りたことを告げる。
「よかったですね」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
パリャは大げさに手をすり合わせて何度も頭を下げ、二人の子供も遠慮がちに頭を下げた。
「しかし
「存じております。寝る場所は
「いや、専用の宿舎があるのですが……まあ、
アトコが親子に言うと、それを聞いていた
「なら私も案内してくれるか? だいぶ走らせたんでな、
「わかりました。
「では、お前に任せよう。それではカマルパイ殿、出立の際にはまたご挨拶を」
そう言って
「では、こちらへ」
アトコが案内に立って厩舎へ向かう。カマルパイを前に
「……さて、運よく案内も一人。ここまでは首尾よくきたな」
「これからでしょう――」
他の誰にも聞こえずに小さくされたその会話は、
――罪は重ねど
誰が我らを罰しよう
愛は
罪は鎖で我らを結ぶ――
少女が口ずさんだ異国の詩とともに、水底へ音もなく沈殿していく泥のように月のない夜の闇へと溶けていった。
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