どこかの日常

森ノ内 原 (前:言羽 ゲン

どこかの日常

 「……」


 僕の部屋で彼女がうつ伏せになりながら寝ている。正確に言えば、拗ねている。


 「ど、どうしたの?」


 「………」


 時計の秒針だけが室内に聞こえる。彼女はしばらくこの状態のままでいる。

 僕、何か酷いことしたのか?


 「ねぇ、さっきから何拗ねてるのさぁ…」


 「……」


 「もしもーし?」


 「……んーん…」


 身体を小さく揺らしてあげると、うつ伏せのまま返事をする彼女。


 「何か嫌な事した?僕」


 「……」


 「………」


 どうしようもできない。このまま一日中過ごすしかないのだろうか。


 「何か変な事したのならごめん。今日○○の好きなオムライス作ってあげるから」


 「……」


 僕は頭をポンポンと撫でてあげる。しかし、彼女は無反応だ。

 僕は一息ついた後、その場から立ってオムライスを作ろうとした時だった。

 服の裾を軽く摘んだ彼女に、僕はもう一度正座で座り直す。


 「どったの?」


 「……」


 「……オムライス嫌?」


 うつ伏せのまま、首を横に振る彼女。一体どうしたっていうんだ?


 「じゃあ、オムライス作るね」


 「…………でしょ……」


 彼女がようやく喋ってくれた。


 「ん?なんて?」


 「私のシュークリーム…食べたでしょ…」


 「え?シュークリーム?」


 僕は思い出した。シュークリーム…食べた…。


 「あっ…あれって○○のやつだったの?…ごめん…」


 「………」


 「また今度買ってきてあげるよ。ね?」


 「あれ、高いやつ……もう!」


 『もう!』の時反動で彼女の上半身が少し浮いた。


 「ご、ごめんってば。わかったよ。また買うから。ね?」


 それでまた彼女の頭をポンポンと撫でた。


 さっきから拗ねたいた理由。そうか…あのシュークリームを食べちゃったせいか。


 あのシュークリームは冷蔵庫に一つしかなかった。思わず3時のおやつにラッキー!と思い、食べちゃった。○○のやつだとは知らずに。

 ちょっくらお出かけに行ってた○○には何も報告しなかった。申し訳ない。


 「えーと…なんていうシュークリームだったの?アレ」


 「教えない…」


 「ご、ごめんって。そこまで怒らなくても。また買いに行く時わからないからさ。商品名だけ教えてよ」


 「いや、もういい。買わなくても…」


 そして彼女の頭をポンポンと撫でた方の腕にしがみつく。


 「ちょっ、重たいよ」


 「……」


 「そんなに体重かけたら重たいよ」


 「んーんー!……バカッ……」


 僕は反対側の手で『よしよし』と頭を撫でてあげた。


 「ごめんなさい…○○」


 少し、彼女の今の姿が可愛い何かの動物に見えて仕方ない。なんて可愛いペットなんだ。僕は、思わず笑ってしまった。


 「許さん…許さん許さん許さん」


 可愛くその場で足をジタバタさせる。まるで嬉しがってる犬の尻尾に見えてくる。


 「次から気をつけます」


 「………」


 しばらく彼女も大人しくなった。

 そして、僕の腹に飛び込んで抱きつく彼女。顔を腹にめり込むくらいにくっつける。そして、ぎゅっと腕で俺の背中を締め付けてくる。かぁー///可愛い!


 「チューして…」


 「え?」


 僕の腹に彼女の喋った後の生暖かい息が伝わる。

 顔を離した彼女は、もう一度さっきの言葉を伝える。


 「チューして…」


 怒った顔で頬がぷくーっと膨れ上がっている。


 「どうして?」


 「私のシュークリームを食べたから…」


 「………あ、あぁ…」


 「そしたら許してあげます」


 「うん…」


 彼女は僕の正座状態の膝に顔を置いて、仰向けになった。そしてぷくーっとした頬のまま僕を見つめる。


 「ん!」

 

 僕の顔に手を伸ばして、両手で挟んだ。

 そしてゆっくりと僕の顔を、自分の顔に近づけていき、お互いの唇に触れる。


 「……」


 5秒くらいで彼女が離してくれた。


 「……ご馳走様…」


 「……ごめんね」


 「うん…許す」


 「……フッ。ありがとう」


 そして彼女も笑顔を取り戻した。

 

 


 

 

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