狩りをしよう。なるべく命に気を付けて
空っぽの無能
第1話
ふと「狩り」がしたいと思った。
きっかけもなく、いつも通り河原でボーっと釣糸を垂らしていただけなのだ。ただ狩りをしてみたいと思った。それだけだ。
ぼくはナデルっていうそこまで小さくもない村の生まれだ。ここはナスト川という浅く長い王都まで繋がる川沿いにある。のどかで平和なこの村で子どもといったら騎士ごっことかお姫様ごっことか、各々で楽しく遊んでいた。
一方、ぼくといったらなかなか同じ年頃の子と馴染めず、一人で空を眺めて寝転がる毎日を過ごしていた。もちろん、仕事はする。農民の家の生まれだ。朝早くに起きて農作業をする。狩人はもっと早いらしいが、生憎とこの村には狩人がいない。近くに森はあるから時々自警団が見回りにいって適度に獣を狩ったりしていて、時たま食べれるお肉は大好きなんだ。
でも、お肉が食べたいと思ったから狩りがしたいと思ったわけでもない。なんとなく空を眺めていてふと、「あ、狩りしよう」と思ったんだ。ただ、残念なことにこの村には狩人がいないし、ぼくにも狩りの知識なんてない。動物の解体はネズミとかウサギくらい。
ただ思うのは、剣を使うのはぼくの考える狩りじゃない。弓や罠を使ってこそ、山を読んでこその狩りだって思うんだ。
命の取り合いをしたいわけでもない。命は魔物や動物がいっぱいいるから簡単に失われていくものだってわかっているけど、それでも命は大切なものなんだ。鹿さんとかウサギさんとかネズミさんの命をもらってぼくは生きているんだ。
ただ、狩りを楽しみたいわけじゃない。狩りを生きがいにしてみたくなったんだ。治癒魔法があっても病気やケガで簡単に人は死んじゃうから。小さい頃から生きていることの喜びを感じられることを探すって大事だって教会で教わることができるんだ。文字はろくに読めないから、村の小さな図書館に狩りの本があったとしてもぼくにはそれが読めないけれど、それでもそれでも狩人になって、狩人として生きていたいと思ったんだ。農業が嫌いなわけじゃないけれど、お父さんの手伝いをしていてもなんだかこれをしたいわけじゃない、でも何がしたいのかはわからないって考えてしまうんだ。
もしかしたらこの村には僕がやりたいことがないのかもしれない。釣りをしているときのほうがぼくは考えることがないんだ。釣りだって狩りの一種だ。じゃあもしかしたらぼくは狩人になりたいのかもしれないって思ったんだ。
とは、思ったけど、じゃあまず何をやったらいいのかな。手探りでやっていかないと。
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