老人と孫娘 ~歩き続ける人生~

にわとりぶらま

第01話 二人の日常

「おはようございます。お爺様」


 居間にはいったわしに、孫娘のテレジアが微笑みながら朝の挨拶をしてくる。


「あぁ、おはようテレジアや」


「お爺様の今日の予定は?」


 テレジアはテーブルの上に置かれた、年季の入った鍋からスープを同じく年季の入った木皿に入れる。


「わしは今日は非番じゃ、テレジアの方はどうなんじゃ?」


 わしはパン籠に入ったパンを一つ掴みながら尋ねる。


「私は今日は学園に行って、その後、診療所のお仕事なの…あら、いけない、もうこんな時間だわ!」


 テレジアはエプロンを脱ぐと、掛けてあった制服を羽織る。


「じゃあ行ってくるわね、お爺様!」


「あぁ、いっておいでテレジア、馬車には気を付けるんじゃぞ」


 テレジアは手を振りながら居間を出て、その後階段を書け降りる足音が聞こえ、玄関の扉が開け閉めされる音が響く。


 わしは、一人になった部屋で、視線を今の扉から手前のスープへと移す。


「昨日は遅番といっても、早く起きればよかったな…そうすれば、テレジアと一緒に飯が食えたのにのう…」


 わしは少し寂しい思いをしながらパンを齧る。



 食事を終えた後、わしは火鉢の上に水を入れたポットを置く。湯が沸くまでの間に洗い物は澄ませておく。


 そして、お湯が沸くまでの間、部屋を見渡す。


 この家に済み始めてもう9年になる。道に面する幅が3~4m程しかない狭い家で、かなりボロボロになっておった。しかし、また6歳の孫娘を抱え、故郷から逃げ出してきたばかりのわしに、下町の地区とは言え、この帝都に家を持てたのは幸運じゃったと思う。


 何もなかった部屋には、少しずつ物が増えていき、痛んでいた場所もコツコツと直していった。今では窓辺にはテレジアが植えた鉢植えの花が並び、古い貰い物であるが床にはラグも敷かれておる。


 小物の一つ一つ、調度品の品々、それぞれに今までのわしとテレジアの色々な思い出が詰まっておる。そんな数々の思い出の品を眺めながら、わしは少し昔の事を思い返す事にした。


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