親ガチャに2回失敗しました
澄田ゆきこ
宮本家
第1話
「子どもを愛さない親はいない」と言う人がいる。
あたしだって愛されたかったと、見るたびに涙が出そうになる。
小さい頃から暴力が当たり前だった。実母も実父も、すぐに頭に血が上っては、手が出る人だった。
幼稚園児の頃。水を倒して食卓にこぼしてしまっただけで、父さんはすぐに逆上した。
「俺の皿に水が入っただろうが!」
「料理を台無しにしやがって!」
「謝れ! 父さんにも母さんにも謝れ!」
そのまま乱暴に抱えられ、パンツを下ろされ、おしりを何度もぶたれた。「ごめんなさい」と何度謝っても、皮膚が熱を帯びて真っ赤になっても、降ってくる手は止まらなかった。
その日のご飯は抜きになった。ずっと泣いていたら「うるさい!」と父さんに蹴られた。そのまま髪をもって引きずられて、玄関の外に出された。北風がびゅうと体中を刺した。
夢中で抵抗するあたしを突き飛ばし、父さんはあたしをぶった。平手は眼球に当たり、あまりの痛みに悲鳴を上げた。
扉は無慈悲に閉まる。あたしは痛みも忘れて立ち上がる。目や体の痛みと心の痛みとで、顔じゅうが涙でぐちゃぐちゃだった。
「お願い! 入れて!」
小さな手が真っ赤になるまで扉を叩いたが、すぐに扉の前から気配がなくなる。しばらくすると、懇願する気力もなくなり、玄関の前で膝を抱えた。
冬の夜。星だけがやけにきれいだった。吐く息が白かった。むき出しの膝はすぐに冷たくなった。顎が震えた。肩を抱いても、ちっとも暖かくならない。
やがて、玄関扉の前に足音が近づいて来た。足音で母さんだとわかる。扉に手がかけられる。
やっと、家に入れてもらえるのだろうか?
涙を拭い、立ち上がった。少しずつ戸が開いて、部屋のあたたかな明かりが差し込んだ。
「何、泣いてるの」
と母さんは言った。
「近所迷惑でしょ。やめなさい。自分が悪いんだから」
ぴしゃりと扉が閉まった。
小さな子どもだから、たくさん失敗をする。その度に、父さんも母さんも、あたしに何度も暴力をふるったり、馬鹿にしたりした。おねしょをしたことを近所中にいいふらされた。「この子は本当に馬鹿で」と何度も人前で言われた。
悲しい顔をしたり泣きそうになったりすると、「何被害者ぶってんの」と笑われた。「母さんはあんたのためを思って言ってやってんの。あんたが調子に乗らないように」
母さんの言い分はもっともらしくて、子どもであるあたしは、何も言い返せなかった。
名前すら呼ばれなかった。代わりについた名前は、「バカ」「アホ」「役立たず」。言われたことが一回でできないのは病気だと言われ、「障碍者」とも呼ばれていた。病院に行って、あたしが健常児だとわかっても、ずっと。
夢のことも馬鹿にされた。テレビで見た看護師さんがかっこよくて、いつか自分もああなりたいと思っていた。幼稚園の七夕の短冊を見た母さんは、鼻で笑った。
「あんたみたいな馬鹿が、なれるわけないじゃない。現実は厳しいんだよ? いっぱい勉強しなくちゃいけないんだよ?」
それでも、これだけは折れたくなかった。言いなりになる以外のことを知らなかったあたしに、初めて芽生えた意志だった。
だけど、それで何かが解決したり、楽になるわけじゃない。むしろ、自分を蔑ろにされることが多すぎて。八つ当たりなんてこともしょっちゅうで。馬鹿にされたり、理不尽に怒鳴られたり殴られたり、そういうのが増えれば増えるほど、もやもやして、言い返す言葉もない自分が情けなくて、いっぱいいっぱいになって、苦しくて、
そんな頃、妹が生まれた。
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