三十三年目の流星群

徒然気まま

第1話


 あの日、お父さんと星空を見に行った。

 真っ暗な空から星が流れるとお父さんは僕を見て『流れ星に三回お願いするとお願いが叶うけれど何故かわかるかい?』と、聞いた。


 僕は首を横に振って『わからない』と答えた。


 お父さんは『流れ星はね、神様がこの世界を見ている瞬間を知らせているんだ。今日は特別な日だからずっと見ていてくれるよ』と、僕に教えて空を見上げた。


 すると、空から二つ三つ、四つ五つと流れ始めて次第には全ての星がどこかへ行ってしまいそうなくらいの星が流れた。


 僕は星に願いごとをすることも忘れて夜空に流れる星たちのきらめきを眺めていた。

 きっと神様だって願い事を聞くのを忘れてしまっているだろう。


 お父さんは僕に『どんなお願いをしたんだい?』と聞いてきたけれど何もできなかったことが恥ずかしくて答えられなかった。


 僕の頭に温かい手が乗る。

『お父さんはね、次は家族全員で見れますようにってお願いしたんだ。お母さんには内緒だぞ』


 僕はあの日の父の優しい笑顔が今も忘れられない。




 無重力を機械に掴まれたコンテナが行く。


 樹脂製のヘルメットが白く曇り、その吐息の音が耳に五月蠅く残った。


 漆黒の中を無数の点が瞬くこともなく照らし、無機質な宇宙ステーションの傷痕デブリ痕を彩る。


 毎年、落ちる流れ星の殆どは秒速七キロメートル近くで漂うゴミ屑で時には銃弾の十倍速い速度で建造物にぶち当たる。


 その外装の修理にロケットを飛ばしてまたデブリを生み出す。


 あの日、見た流星群は夢を叶えると同時に色褪せて目の前の悪循環が不安となって積み重なっていく。


 宇宙はデブリの支配する世界になろうとしていた。


 コンテナから機材と鋼板を取り出し外装を修理する。

 そして、ステーション内に戻り父の様子を聞くために妹に連絡をした。


 妹の声と共に元気な子供の声が上がる。


 あの年に生まれた妹は大学を出てすぐに結婚し、今では二児の母親だ。

 甥っ子は僕の仕事を見て以来、将来は宇宙飛行士になるんだと妹を困らせているらしい。


 妹に父の様子を聞くと生まれて半年の姪を抱えて母と共に流星群を見に外へと出ていた。

 父の宇宙への情熱と足腰は相変わらずのようだ。


 宇宙ステーションのキューポラから地球に向かって落ちる小さな火の粉が見え始める。

 流星群の隕石だ。


 僕は流れる星屑に願いを込める。


 どうか神様、三十三年後の未来も幼い頃の僕と同じ気持ちで子供達が流れ星を見られますように――と。

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三十三年目の流星群 徒然気まま @turedurekimama

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