まさかまさかの

本日8月25日、本作の二巻が発売となります!

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 ひよりんはライブの為に、真冬ちゃんはミスコンの為に、身体を作る生活が続いた。


 これまでのライブから予想するとひよりんは今回もへそ出し衣装があるはずだから分かるんだが、真冬ちゃんは別に今のままでも充分な筈で、そのストイックさがどこからくるのか俺は不思議だった。どうせミスコンに出るなら絶対に優勝してやろうという、しっかりとした性格に依るところなんだろうと予想している。


 静は結局運動は諦めたらしく「今は時期が悪い」と訳の分からないことを言っていた。分かりやすいくらいに真冬ちゃんとは真逆の存在だが、まあ静はそれでいいんだろう。


 そして俺はというと、ひよりんと 真冬ちゃんと一緒に健康的な生活を送り、週に一度静の家を片付けに行き、偶に知り合いの学祭準備の手伝いをするという…………つまりは極々いつも通りの生活を送っていた。


 そうこうしているうちに完全に梅雨は明け、季節は夏真っ盛り。エアコンなしでは生活出来ないようになり、そうめんが美味しい時期になった。蒼馬会でも近々そうめんを解禁予定だ。静は嫌な顔するだろうけど。


 ────俺がとんでもない事に気が付いたのは、そんなうだるような暑さの 夜のことだった。



「日程が……被ってる…………!?」


 スマホを手に、俺は固まっていた。蒼馬会終わりのソファの上でのことだ。


「うわ…………マジかこれ」


 来月の予定をスマホのカレンダーに入力していた所、衝撃的な事実が判明した。なんと学祭とザニマスの3rdライブの日程が完全に被っていたのだ。大学のサイトとザニマスの公式ページを何度確認しても、そこには同じ日付が記載されていた。


「いや…………大丈夫かこれ」


 不意にヤバい出来事に遭遇してしまった時特有の、心臓がきゅっと締め付けられる感覚が俺を襲う。冗談じゃなく手が震えだす。ライブに行けないかもしれないと考えただけで、人はおかしくなってしまう生き物なんだ。


「待て、落ち着け俺…………学祭は最後まで居る必要はないんだ。ミスコンだけ見られればそれでいい……」


 真冬ちゃんには「観に来てくれないと……分かってるよね?」と背筋が凍る笑顔と共に念押しされている。もし観に行かなかったらどうなってしまうのか……想像するのも恐ろしかった。


 それに、そんな脅しを抜きにしたって俺は真冬ちゃんのメイド服姿が見たかったし、恐らく真冬ちゃんが俺にそんな脅しをかけてきたのには理由があるんだ。


 これは完全に俺の想像でしかないんだが……真冬ちゃんはミスコンに出ることが少し不安なんだと思う。ただでさえ真冬ちゃんは工学部の撃墜王だなんだと勝手に噂され、非公式ファンクラブはいつの間にか最大手まで膨れ上がり、どこに言っても指を差される状態で、大学にいる間は全く心が休まらないはず。


 そんな中でミスコンに出場したら、真冬ちゃん目当ての奴が沢山観に来ることは容易に想像出来る。目立ちたくないタイプの真冬ちゃんにとって、きっとそれはかなりのストレスになるはずで。


 だから、せめて仲のいい俺に近くにいて欲しいんじゃないだろうか…………と、そんな想像を勝手にしている。勿論これが杞憂で、ミスコンを楽しみにしているんならそれでいいんだが。


 という訳で、何が何でもミスコンは観に行かなければいけない。しかし、ライブも絶対に観に行きたい。俺はこれまでザニマスのライブは全通しているし、これからもそうするつもりだ。チケットだって、抽選を突破してしっかりと手に入れている。


「…………問題はミスコンが何時から始まるのかってことだ」


 ライブが始まるのは午後四時から。大学からライブ会場までは急げば一時間くらいだから、遅くとも昼過ぎまでに始まってくれなければライブには間に合わない。


俺は祈りながらケイスケにルインを送った。直ぐに既読が付き、返事が返ってくる。


『ミスコンは二時から! ちな真冬ちゃんはエントリーナンバー3番だから3番目に出てくるはず!』

「二時か……」


 強張っていた身体から、すっと力が抜ける。もしかしたら開幕には間に合わないかもしれないが、少なくともライブに参加する事は出来そうだ。これでミスコンも夕方開催だったら俺は立ち直れなかっただろう。


『了解。さんきゅー』

『おう。楽しみだな』

『だな』


 ルインを返し、俺はスマホをソファに放り投げるとホッと一息ついた。まさかの事態にひやひやさせられたが、とりあえずは問題なさそうだ。これで学祭もライブも心置きなく楽しむことが出来るだろう。

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