お泊りする気の林城静

今週中くらいを目安に異世界ファンタジー長編を本作と同時連載予定なので、そちらも楽しみにして頂けると嬉しいです!

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「じゃあ────」

「…………」


 毛布に顔を埋めた静の、その先の言葉を俺は待った。荷物持ち、雑用、パシリ────あらゆる想像をする。果たしてどんな無理難題を言い付けられるのか。かぐや姫に求婚をする5人の気持ちがたった今分かった気がした。


「…………か…………か……か、かの…………」

「か…………?」


 言葉なのかうめき声なのか判断に困るような声が毛布玉から聞こえてくる。

 …………か、ってなんだろう。蚊の駆除、買い物…………カルビを奢れってのもあるか。とにかくそう難しいことでもなさそうだな。


「はあ…………はあ…………」

「…………?」


 静は毛布の中で大きく深呼吸をする。熱は引いたっぽいから体調が悪化したってことはないだろうが、少し心配だな。


「静、大丈夫か?」

「…………言え、言うのよ私…………ここで勇気を出さないでどうするの…………!」

「あん?」


 挙動不審な様子の毛布玉に耳を近づけると、静は早口で何やらもごもごと呟いている。とりあえず元気そうで安心はしたが、熱の影響でおかしくなってしまったのだろうか。それはまた別の心配事が生まれてくるが。


「…………ふうー…………蒼馬くん」

「なんだ?」

「…………言います」

「おう」


 何だ急に改まって。まさか告白でもされるんじゃないだろうな…………って流石にそれは有り得ないか。いくら病み上がりとはいえ、そこまで脳みそがバグってるということはないだろう。


 俺は静の言葉を待った。少しの間だけ部屋に静寂が訪れる。何故か、ドクンと鼓動が大きく跳ねた。


「あの、あのね…………付き合ってほしいの!」





「はあ。いいけどいつ? どこに?」

「ふえ…………?」


 随分と溜めるから何かと思ったが、静のお願いはありきたりなものだった。なんだか身構えて損したな。俺は背筋を楽にしてほっと一息ついた。


「買い物だろ? 休日ならとりあえず付き合えるから、日程決まったら連絡してくれよ」

「え…………?」


 俺の言葉に、静は驚いたような反応を見せた。毛布から顔をあげると、悲しそうな表情で俺を見てくる。何なんだその子犬のような瞳は。


「? なんだ、違うのか?」

「ぁいや…………あの…………違くない…………」

「そうか。というか静、お腹空いてないか? 一応静の分も夜飯作ってあるけど食べるなら用意するぞ」


 静の体調が治った以上、ここにいる必要もない。俺は椅子から立って大きく伸びをした。


「…………食べる…………」

「おっけー。じゃあ行こうぜ。歩けるか?」

「大丈夫だと思う…………」


 とはいえ一応病み上がりなので、ふらっといくこともあるかもしれない。そう思った俺は念のため静の手を引いて自分の家に帰ってきた。おでこを触っても熱くなかったし足取りもしっかりしていたから、本当に大丈夫そうだな。


 静をテーブルに座らせて夜飯の準備を始める。とはいってもメニューはそうめんだからさほど時間はかからない。用意していたトマトとツナをそうめんに和えて、仕上げに刻んだ大葉を載せて出来上がりだ。これなら病み上がりの静でもつるっと食べられるだろう。


「ほれ、創作そうめんだ。さっぱりしてるから食べやすいと思うぞ」

「わ、美味しそう! いただきまーす!」


 さっきまで微妙に暗かった静だったが、ご飯を見るなり元気を取り戻した。暗かったのはお腹が空いていたからかもな。空腹が態度にでてしまうのは静らしくて微笑ましく思う。美味しそうにご飯を食べる女性というのは、それだけで魅力的だと思うんだ。


 静は物凄い速度でそうめんを啜り、あっという間に完食した。とても病み上がりの女性とは思えないスピードだ。


「ごちそうさまでしたー!」

「お粗末様でした」

「これめっちゃ美味しかった! リピート希望!」

「お、マジか。簡単だから俺もこれだと有難いな」


 空になった食器を下げてそのまま洗い物に移行する。静に付いていた事もあって皆の食器もまだ洗っていなかった。明日に持ち越すのも気持ち悪いのでちゃっちゃとやってしまおう。


「…………?」


 洗い物をしながらリビングをチラ見すると、何故か静が自分の家に帰らずに俺を眺めていた。何してるんだあいつ。さっさとシャワーとか浴びた方がいいんじゃないか、汗もかいているだろうし。


 洗い物を終わらせ、エプロンを外しながらリビングに戻ると、相変わらず静はにんまりと笑顔を張り付けて俺を眺めているのだった。


「静、帰らないのか?」

「うん。私、帰らない」

「はあ…………?」


 まあまだ21時過ぎだからいいけどさ…………静の意図が分からず俺は首を傾げた。


「シャワー浴びなくていいのか? 汗かいてると思うけど」

「あ、そっか。じゃあ蒼馬くんシャワー貸して?」

「…………なんで?」


 自分の家で入れよ。

 …………もしかしてカビ生えたのか!?


「静、お前…………!?」

「? あ、違うよ!? お風呂は綺麗だってば! この前蒼馬くんに掃除して貰ったばかりだし!」

「それもそうか…………」


 因みに静の家の風呂場掃除は洗濯以上に精神をすり減らした。理由は…………分かるよな。生々しいんだよ、色々と。そう考えたら今更裸を見られたくらいで騒ぐのもおかしいと思うんだが、加害者は喋る口を持てないのだった。


「…………じゃあ何で?」

「いやー…………それはほら。蒼馬くんの使ってるシャンプーとかチェックしたいし」

「なら風呂場見るか?」

「いいの! 入るから! 着替え持ってくるから蒼馬くんは楽にしてて!」


 そう言うと静はダッシュで家から出て行った。どうせすぐに帰ってくるんだろうが、俺はその僅かな時間で首を傾げた。


「…………どうして家主の俺が『楽にしてて』なんて言われないといけないんだ…………?」



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