4/4 カトル・カール

太秦あを

序章

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 港区南部。白金という名前を持つ高層ビルがきらびやかな明かりを灯す足元には、澱んで底の見えない黒い川が流れている。その川沿いには、かつて日本の製造業発祥の地だった古い町並みが広がっており、再開発事業により次々と移転あるいは廃業せざるを得なかった零細企業の中、今でも細々と続く町工場が、住宅地に紛れてひっそりと息をひそめている。


 ところどころ剥げ落ちたトタンに、特別管理産業廃棄物・一般廃棄物収集と書かれているタベイ興業も、そんな住宅地の一角にある。

 眠りについているプレハブ小屋の隣。鉄骨二階建ての事務所、ブラインドが下ろされた二階部窓から、ちらちらと動く光が零れ落ちていた。


「おい、早くしろ!」

「待て、もうちょっと!」


 同じニット帽を目深に被った二人の少年が、暗闇の中、さらに深い闇に手を伸ばそうとしていた。

 よく聞けばどこかたどたどしい日本語。

 一人の少年が懐中電灯でデスクの引出しを照らし、もう一人の少年が引出しを開けようと、鍵穴に針金を突っ込んでいた。何度も練習した。だが、緊張と興奮で手が震える。明りを照らしている少年は、忙しなげに廊下を見たり、何度も生唾を飲み込んでいる。カチッと音がして「開いた!」急いで目当ての鍵を取り出した。


 壁に掛けられた額縁を目指す。

 見たことはあるが誰のものなのかわからない向日葵の絵の奥に、小さな扉があった。テンキーで番号を入力し鍵を回す。重い扉を開くと、積み重なった書類の下に目当てのものがあった。A4サイズの分厚い茶封筒を引っ張り出す。

 少年が急いで金庫を閉めようとすると「待て!」と手元を照らしていた少年が割り込んできた。彼は書類の下の段に置かれていた帯付きの札束に手を伸ばす。


「おい、それは……」

「いいだろ。どうせ汚ない金だ」


 そう言うとジャンパーのポケットにいくつかの札束を突っ込んだ。

 仕方ない。少年はそのまま扉を閉めると再び鍵を元の引出しにしまった。


「早くしろ!」


 その声にたたらを踏んで逡巡した少年は、引出しの鍵を閉めずに部屋を飛び出した。

 少年たちの足音が遠退く中、防犯カメラの赤いランプが静かに光っていた。

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