第63話 まだまだケーキ作りは終わらない
俺が休憩から戻ってきた後は、5人ということもあり、比較的スムーズにケーキ作りの作業をすることが出来た。
「カップケーキ12、シフォンケーキ8、パンケーキ7お願いします」
しかし注文の数が減るわけでもなく、結局新入生歓迎会が終わる16時まで忙しい時間は続く。
キンコーンカンコーン
そして終了のチャイムが鳴ると共に、生徒会副会長の閉会の言葉が始まり、今年度の新入生歓迎会は終わった。
「終わったよー!」
「終わりました」
「さすがにお姉ちゃんも少し疲れたよ」
皆、背伸びをしたり、笑顔を浮かべたり、疲れきった表情をしたりと様々な顔を見せている。
「楓さん大丈夫?」
俺はその中でも声を出すことも出来ず、座り込んでしまった楓さんの様子が気になり話しかける。
「だ、大丈夫です⋯⋯と言いたいですが、こんなにお菓子作りをしたことがなかったから疲れました」
「俺もだよ」
そして俺は楓さんの手を取り、椅子に座らせる。
それにしても無事に終わって良かった。
初めに材料がなく、ケーキを作る子が半分もいないと聞いてどうなることかと思ったけど、なんとかなったな。諦めたら試合終了だという名言が頭に思い浮かぶな。
俺達はケーキ作りが終わり、それぞれが最後までやり遂げた達成感を味わっていた。だが1、2分も経つと突如ドアが開き、大勢の生徒が調理室に押し掛けてきた。
「天城先輩!」
その中でも元気が良さそうな男の子が名字を呼んできたので、俺とコト姉は思わず視線を向ける。
「バカ! 天城先輩は二人いるでしょ!」
勝ち気なショートカットの女の子が男の子を注意する。
「お姉ちゃんのことは琴音でいいよ~」
「俺のこともリウトでいいぞ。天城が3人いるのも紛らわしいだろ?」
この子達はおそらくユズのクラスメート達だな。
そしてユズのクラスメート達は俺達の前で一列に並び始めた。
「「「リウト先輩! 琴音先輩! 今日は助けて頂きありがとうございました!」」」
30名弱の人数が突然頭を下げてきたので、俺は思わず驚いてしまう。
「お姉ちゃんは生徒会長で困っている学生を助けるのが仕事だから。それに可愛いユズちゃんのためならお姉ちゃんは何だってがんばれるよ~」
さすがはコト姉。大勢の人の前でも狼狽えることなく堂々としているな。
「俺もコト姉と同じでユズと瑠璃のピンチと聞いたら黙っていられなかったし、みんながこの新入生歓迎会を楽しんでくれたならそれで満足だ」
「兄さん⋯⋯」
「先輩⋯⋯」
1年生に取っては入学して初めての大きなイベントだったから、辛い思い出にならなくて良かった。
「それに学園のイベントをコト姉やユズと一緒にやる機会なんてほとんどなかったから楽しかったよ」
「お姉ちゃんも楽しかった~」
「私も兄さんとお姉ちゃんとケーキ作りをするの楽しかったです」
「だからその⋯⋯あまり俺達が手伝ったことを気にしなくていいからな」
そんな仰々しく頭を下げられるとこっちが恐縮してしまう。
「天城さんのお兄さんとお姉さんってめっちゃいい人達だな」
「琴音先輩は生徒会長だから知っていたけど、リウト先輩も尊敬できる人だね」
「それに普段冷静沈着な天城さんって、お兄さんにユズって呼ばれているんだ。なんか可愛い呼び方だね」
ユズはやはり学園ではあまり感情を出していないようだな。これで少しはクラスメート達と仲良くなれればいいけど。
「けど先輩方はそう言ってくれても俺達1ーAはこのご恩は忘れません。いつか必ず恩返しをします」
元気が良さそうな男の子は再度頭を下げてくる。この子は中々律儀な性格をしているようだ。
「それじゃあ困った時に声をかけるからその時はよろしく頼むよ」
「「「はい!」」」
そして調理室に1ーAの生徒達の声が大きく響きわたるのであった。
「それじゃあ早速だけどお願いがあるんだけど」
「えっ?」
まさか言った側から何かを言われると思っていなかったのか、男の子は驚きの表情を浮かべる。
「いや、そんなにたいしたことじゃないから。ここにある余ったケーキの材料をもらっていいかな?」
「そんなことでよろしければどうぞどうぞ」
驚いて固まっている男の子に変わって、勝ち気なショートカットの女の子が代わりに答えてくれる。
余った材料で
「ありがとう。コト姉、ユズ⋯⋯もう少しだけがんばれるか?」
「なるほど⋯⋯そういうだね。お姉ちゃんはまだいけるよ」
「何だかよくわかりませんがまだがんばれます」
「それじゃあケーキを作るのを手伝ってくれ」
「うん!」
「はい!」
俺は2人の了承をもらい、再びキッチンへと向かう。
さすがに60人分を1人で作るのは大変だから、2人が手伝ってくれて助かる。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私だってまだがんばれますよ。異世界転生者の体力を舐めないで下さい」
「私も少し休んだから大丈夫です。最後まで手伝わせて下さい」
そして瑠璃と楓さんも立ち上がり、ケーキ作りを手伝うと申し出てくれる。
「それじゃあ2人とも頼む。正直助かるよ」
「「はい!」」
こうして俺達は新入生歓迎会が終わった後もケーキを作り始め、そして1時間後には61個のケーキが出来上がるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます