第53話 倒せる時に倒しましょう

 雷竜ライトニングドラゴンの纏っていた雷が変貌しているが、幸い今は動きが止まっている。残りHPも5%程だからここは一気にしとめるべきだ。


「リル! このまま最大火力で倒すぞ」

「リトさん待って下さい! 何か危険な感じがします。様子を見ましょう」

「けど⋯⋯」

「ここは私を信じて下さい!」

「くっ! わかった」


 瑠璃の顔があまりにも真剣なため、俺は一度雷竜ライトニングドラゴンから距離を取る。

 この判断は正しかったのか? だがここは相棒の勘を信じるとするか。


 俺達は丘の上にて雷竜ライトニングドラゴンの様子を伺う。

 すると10秒程時間が経つと雷竜ライトニングドラゴンはこれまでにないほど大きな声で咆哮を上げ、思わず俺と瑠璃が操作するキャラも耳を塞ぐ。


「雷が消えましたね」


 瑠璃の言うとおり。雷竜ライトニングドラゴンが纏っていた雷は消え、辺りが静寂に包まれる。


「だが消えたと言うよりこれは⋯⋯」


 俺の目には雷が雷竜ライトニングドラゴンに吸い込まれたように見えた。

 そして俺の考えが正しかったかのように画面にテロップが流れ始める。


 雷竜のHPが30%回復し、攻撃力、防御力が上がりました。


「なるほど⋯⋯周囲の雷を体内に吸収してパワーアップしたということですか⋯⋯ドヤッ」

「他に言うことはないのか?」


 しかも何故かドヤ顔までしやがって腹立つわ。


「え~とリトさん、もう攻撃してもいいですよ」

「リルの頭の中には謝罪という言葉がないのか!」

「ヒィッ! またオークに襲われる!」


 瑠璃が喚いていたが、俺は問答無用でまたおでこにデコピンを食らわす。


「あう! 痛いよ痛いよ~」

「とりあえず泣き言は後にしろ。今は敵を倒すぞ」

「は、はいです~」


 そして俺と瑠璃はパワーアップした雷竜ライトニングドラゴンの元へ向かう。


 :リル氏やってしまったな

 :これで世界最速クリアは不可能になった

 :やはりオークはリトさんだったか


 視聴者から瑠璃を心配する声や、世界最速クリアが不可能になったことが送られてくるが、その中でも⋯⋯。


 :リトさんは性欲が強そうだが気をつけて下さい

 :リルさんがリトにやられるのは時間の問題

 :リルちゃんに手を出したら拙者が許さない

 :リルちゃんは俺の嫁


 俺を陥れるものや瑠璃を保護するコメントが大量に送られてきた。


「わわっ! リトさん凄くたくさんのコメントが来ていますよ」

「もしかしたら瞬間コメント数だったらこれまでで1番かもな」

「私がわざと雷竜ライトニングドラゴンのパワーアップを見逃して上げたからですね」

「まだ言うかこの口は」


 俺はコントローラーを離して左右から瑠璃の頬を引っ張る。


「いひゃいいひゃい、やめひぇくだしゃい」


 画面では俺のキャラが雷ブレスを食らうが構わない。今は瑠璃にお仕置きをする方が先だ。


「ダャメージ、ダャメージ受けてぇましゅ」

「大丈夫。一撃食らったくらいで俺は負けない」


 :仲間割れ勃発

 :ほっぺでも引っ張られたか? リルさんのしゃべり方可愛い

 :俺もリトさんみたいな言葉を言ってみたい


「リル、さらにコメントが増えたぞ。このまま続けるか?」

「ぎょめんなしゃいぎょめんなしゃい」


 瑠璃は涙目になりながら懇願してくる。

 仕方ない。許してやるか。

 俺は再びコントローラーを握るが、画面の中のキャラのHPは残り4分の1程になっていた。


「後一撃食らえばゲームオーバーか。だが当たらなければどうということはない。リル、援護を頼む」

「は、はい! ご主人様」

「やめろ。調教したと思われるだろうが!」


 :ちょ、調教⋯⋯だと⋯⋯

 :リルさんは何をされたんだ

 :リトさんはただのオークじゃない。鬼畜オークだったか


 案の定視聴者達から誤解を受けるコメントが相次いだため、瑠璃をジロリと睨む。すると瑠璃は舌を出してテヘペロをしてきたので、先程ご主人様と言ってきたのは俺を陥れるためにわざとだということがわかる。

 こ、こいつは⋯⋯後でさらなるお仕置きが必要だな。

 しかし今はネット配信中。

 視聴者の95%は瑠璃の味方なので、こちらの方が分が悪い。

 ここは早く配信を終わらせるのが得策か。


「と、とにかく雷竜ライトニングドラゴンを倒すぞ」

「リトさん了解で~す」


 こうして俺と瑠璃は息の合ったコンビネーションで雷竜ライトニングドラゴンのHPを減らしていく。

 俺のキャラが雷竜ライトニングドラゴンの脚を中心に攻撃すると、雷竜ライトニングドラゴンは派手に転び、チャンスタイムが訪れる。


「リル! とどめだ!」


 俺はリルの攻撃に巻き込まれないようにこの場を離れる。


「任せて下さい。女神アルテナよ⋯⋯我が眼前にある世界を凍てつかせ⋯⋯」

「詠唱いらないから早くしろ!」

「もう! リトさんはわかってませんね。とどめを刺す時は⋯⋯」

「早くしないと立ち上がるぞ!」

「わかりました。え~とそれでは以下略、氷の国ニブルヘイム!」


 リルが魔力を解放すると絶対零度の冷気が雷竜ライトニングドラゴンへと向かい、周囲を氷の世界へと塗り変えていく。

 すると残り僅かだった雷竜ライトニングドラゴンのHPはゼロになり、画面にクリアの文字が現れるのであった。


「やりました! 私達の勝利です」


 瑠璃の言うとおり確かに勝利は勝利なのだが、この後画面には討伐ランキングと表示され、俺達は15位だった。

 やはり世界最速クリアは厳しかったか。だが視聴者からは⋯⋯。


 :惜しかったですね

 :途中どうなるかハラハラして見ていました

 :世界最速は無理でしたがとても楽しかったです

 :次回の配信も期待してます


 このようにとても暖かいコメントをもらうことができた。


「みなさん今日は討伐ランキング1位を見せられなくてごめんなさい。また機会がありましたら、その時は世界最速でクリアするから視てくれると嬉しいな」


 :視るよ視る

 :2人なら絶対に世界最速クリアできます

 :とどめでリトさんを巻き込む回を希望


「みなさんのメッセージ本当に嬉しいです。また来週土曜日に配信するので視て下さいね~。では、これで今日の配信を終わりにしま~す」

雷竜ライトニングドラゴンと戦う時は隙を逃さないように」

「もし良かったらチャンネル登録、高評価をよろしくお願いしま~す」

「「ではでは、さよう~なら~」」


 こうして俺と瑠璃は動画配信は終え、世界最速クリアは出来なかったが、今回は今までで最も高い高評価をもらうことに成功するのであった。

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