第46話 ライオンより恐ろしい姉
「リ~ウ~ト~ちゃ~ん」
「ヒィッ!」
俺はコト姉の目が笑っていない笑顔に、思わず悲鳴を上げてしまう。
そ、そうだ。今日、コト姉は挨拶運動を校門前でするって言っていたっけ。朝からアリアとソフィアさんが現れるというインパクトが強すぎて忘れてた。とりあえず怒っているコト姉を何とかしないと。
「おはようコト姉。今日も可愛いね」
「そう⋯⋯ありがとう」
いつものコト姉なら「本当に? ありがとう! リウトちゃんもカッコいいよ」と返してくれるが、今は雪の女王も真っ青になるほど冷たい目をしていた。
「これはどういうことかな? かな?」
「え~と⋯⋯こちらのアリアさんが突然家に来られまして⋯⋯流れというか何というか⋯⋯一緒に登校することになりました」
俺は恐ろしさのあまり思わず敬語になってしまう。
「ふ~ん⋯⋯リウトちゃんは昨日お姉ちゃんがなんて言ったか覚えている?」
「お、覚えています。アリアと二人っきりになるなと⋯⋯車の中にはソフィアさんと運転手さんもいたので一応二人だけにはなっていません」
「へえ~その娘と金髪のメイドさんとイチャイチャしてたのね」
どうやらコト姉の脳内で、運転手さんはいなかったことに変換されているようだ。
「いえ、普通にお話をしていただけです」
こ、怖い。けど何で俺は糾弾されなくちゃならないんだ。いくら姉だからといって弟の交友関係に口出しするのはやり過ぎじゃないのか? だがそんなことを言えばコト姉の怒りがさらにヒートアップすることは間違いないから、俺は黙っている。
「あ、天城さん⋯⋯あの方は何者ですか? 昨日会った時は何も感じませんでしたが、今はアフリカで戦ったライオンと同じ気配を感じます」
ソフィアさんは主人のアリアを護ろうと前に出ようとしているが、コト姉のプレッシャーに押されてその場を動けないようだ。
それよりライオンと戦ったってどういうこと! どうやらソフィアさんも怒らせてはいけない人種のようだ。
「あれは俺の姉です」
「天城さんの? 彼女はただ者ではありませんね」
ライオンと格闘したことがある人から認められるなんて⋯⋯今のコト姉は危険人物だということが改めてわかった。
「何? メイドさんと内緒話して。お姉ちゃんも仲間に入れてほしいなあ」
もうこの場にはコト姉を止められる人はいない。せめてチャイムでも鳴ってくれたらと思うが、始業のチャイムが鳴るには後5分の時間が必要だ。
どうする? どうすればコト姉を止められる? だが今のコト姉には何をしても無駄な気がする。
このままコト姉のお仕置きを受けるしかないのか⋯⋯俺は前から迫ってくるコト姉に対する策が思いつかず、諦めに入っていたその時、予想外のことが起きるのだった。
「あなたがリウトの姉なのね。とってもプリティーだわ」
アリアはソフィアさんでも動くことができない中、前に進み、コト姉に抱きつく。
「何? どういうこと?」
コト姉もまさか抱きつかれると思っていなかったのか、驚き、焦りだす。そして先程までこの場を支配していた殺気が一瞬で霧散していった。
「こんなにプリティーな子見たことないわ。さすが大和撫子を生んだジャパンね」
「えっ? そうかな? えへへ⋯⋯リウトちゃん、お姉ちゃん可愛いって」
「コ、コト姉はいつも可愛くて自慢のお姉ちゃんだよ」
俺はここぞとばかりにコト姉を褒めて、何とか怒りが静まるように画策する。
「本当? リウトちゃんにも可愛いって言ってもらえてお姉ちゃんすごく嬉しい」
さっきは聞く耳持たないと言った感じだったが、どうやらアリアの抱きつきと、可愛いと褒められたお陰で、コト姉は正気を取り戻したようだ。
「それで何でリウトちゃんはアリアちゃんと一緒に登校してきたのかな?」
「昨日二人組の男から助けたお礼で家を訪ねてきたんだ。それで今日から羽ヶ鷺に転入するから車で送ってもらっただけだよ」
「そういえば今日から転入生が来るって先生が言ってたよ。アリアちゃんとソフィアちゃんのことだったんだね」
「そうよ。プリティーなあなたの名前を聞いてもいいかしら」
そう言ってアリアはコト姉からようやく離れた。
「私は天城 琴音。リウトちゃんのお姉ちゃんで一応この学園の生徒会長をしています。何か困ったことがあったらいつでも相談してね」
「私は西条 アリア。リウトの姉であるあなたとは特に仲良くしたいわ」
そして二人は右手でがっちりと握手をする。
良かった。とりあえずコト姉の機嫌は治り、二人がバトルする展開にはならなそうだ。
「ソフィアちゃんもようこそ羽ヶ鷺へ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「緊張しているのかな? 何かあったら
今、お姉ちゃんが強調されているように感じたが気のせいか?
それとソフィアさんもコト姉と握手をしているが、先程のプレッシャーが頭に残っているのか、手が震えている。
武道の心得がある程、コト姉の恐ろしさがわかるというやつだな。
ソフィアさんは生態系ピラミッドで自分よりコト姉が上だとわかり、敗北を認めてしまったのだろう。
「それじゃあコト姉、朝の挨拶運動がんばってね」
「うん。お姉ちゃんがんばるよ」
とりあえずコト姉の怒りは収まったが、いつまでもここにいるのは得策ではない。俺はコト姉に声をかけ、校舎へと向かう。
「琴音、今度いっぱい話しましょ」
「失礼します。琴音様」
そしてアリアとソフィアも俺に続き、校舎へと向かうのであった。
俺は校舎の中へ入ると、二人を職員室まで送り届けてからAクラスへと向かうが、気が進まない。
おそらくアリアやソフィアさんと一緒にいる所を見られているんだろうな。
これから教室に入るとどういう目に合うか容易に想像できた。
しかしそろそろ始業のチャイムが鳴るため、行かない訳にもいかない。
俺は意を決して教室のドアを開けると⋯⋯。
「おい天城! お前お嬢様とメイドと一緒にいたんだってな!」
「リウトどういうことだ! まさかお前あのメイドさんに、ご主人様に逆らうのか! 黙って言うことを聞いてればいいんだとか言ってけしからんことをしているんじゃないだろうな」
「車で一緒に登校してきたんでしょ? もしかしてあのお嬢様って天城くんの婚約者?」
「ねえねえ本当は二人はどういう関係なの? 教えてよ」
やれやれ⋯⋯予想していたとはいえ、質問責めだな。8割はアリアとソフィアさんに興味津々といった所で残り2割は俺への嫉妬だな。
どうするかこれ。
だが何も話さないでいると憶測でものを言われるかもしれない。俺は昨日の出来事を皆に伝えることにするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます