~凄腕のジークンドー使いが拳法家パーティから突如追放を言い渡される(声がうるさかったんですね、すみません)~

tesshiko

第1話

「すみませんが、追放という事でご理解いただけませんでしょうか……」




「えっ」




 まさに青天の霹靂というやつだ。


 彼女から拳法家パーティに誘われ早一ヶ月、ダンジョンでもそれなりの活躍を見せ、パーティへの貢献度は信頼を得るに余りあるものであったと自負している。




「何故、いきなり追放など……」




「我々としてもこの一ヶ月、悩みぬいた末の決断なのです。こちらからお誘いしていながら本当に申し訳ありませんが……」




 彼女こと太極拳使いのリーリアは真面目かつ強い信念を持った芯のある女性だが、常に本音をどこかで押し隠しているような感覚があった。勘が鈍いと言われているこの俺にもわかる。




「どうしてもというのであれば諦めよう。ただし最後ならば、理由だけは聞かせてほしい」




 リーリアの顔が目に見えて気まずそうに青ざめる。


 やはり、女性三人のパーティに一人男が混じることにはこちらからは伺い知れないやりづらさのようなものがあったのだろうか。




「戦闘中の……」




「戦闘中の?」




「戦闘中の声が、ちょっと、うるさいって意見がありまして……」




 はて。




 戦闘中にはそれは掛け声やら叫び声が混じるのは仕方のないことだと思うが、それほど声が大きすぎただろうか。


 いやしかしそれは冒険者であればだれでも同じことだ、ましてMPを消費する特技をあまり使用しない俺としては他の冒険者と比べてもも技名を大声で叫んでいる自覚もない。


 戦闘中の俺を思い返してみよう。




◇  ◇  ◇  ◇




 松明の明りだけが怪しく揺れる肌寒い洞窟で、拳法家パーティの俺含め4人はモンスターとの集団戦を行っていた。


 正面のオークを掌底で沈め、味方に目をやるとシステマ使いのノースの死角からバトルウルフが牙をむいて飛び掛かる。俺は師匠に鍛え抜かれた歩法で即座に間を詰め、拳を叩き込んだ。




 「フゥゥゥゥゥホォォォオオオオワタアアァァアアアァアアアアアァァァアアアアアアアア!」




 ドゴォオオ!




 突然の衝撃音ににノースが眉をひそめる。安心しろ。死角は俺がしっかりとカバーしている。


 すると今度はエリザがオークに腕を掴まれ持ち上げられているではないか。


 彼女の技量もかなりなものだが、巨体のオークに体を浮かせられては大地の力を得ることもできない。


 すかさず間合いに飛び込み足元からの多段蹴りをお見舞いする。




 「アタッ! ホワチャッ! フゥゥゥァァァァァアアアアアアアァァァアアアアアアアア!」




 最後の跳び蹴りがオークの顔面をとらえ、その巨体を地に倒した。




 「ウガァァアア!」




 響き渡る醜い断末魔に思わずエリザも耳をふさいでいる。




 助けられたとはいえ体の自由を奪われてはその恐怖はひとしおであっただろう。


 仲間たちに手を差し伸べ、この日は一度帰還することとした。


 帰りの道すがら、女性3人が何やらひそひそと話していたことを覚えている。


 きっと此度の俺の活躍ぶりに、賛辞を送っているに違いない。


 俺はより余裕をもって敵を撃退できるようにならねばと自らを律しつつ、奇襲をかけてきたキラーバットを裏拳で叩き落し雄たけびを上げた




 「フゥゥアァアアァアタァァァアアアアアアアァァアアアア! フォォォオオオオワァァアアアアアアアアアアアアリャァアアアアアタァアアアアアア! フゥゥァアァアアアアアアアアア!」




 (洞窟内を駆け巡る反響音)




◇  ◇  ◇  ◇




「え、俺うるさ」




「はい……」




「え、あれ俺がうるさ過ぎてひそひそみんなで会議してたってこと?」




「そうです」




 そうなの? あんなに活躍してたしむしろ俺がいないと全滅しててもおかしくなかった状況で、にも関わらず追放まで話がいたるって相当うるさいってことだよね。




「もちろんトウゴウさんの活躍には感謝していますし、パーティの総力を考えたら是非ともいて頂きたくはあったのですが、そうはいってもあの、なんというんですか、怪鳥のような声に集中力を削がれてしまい、私たちも実はトウゴウさんが加入する前の半分以下も力を発揮できていないといいますか……」




 めちゃくちゃ邪魔してるじゃん。


 あの真面目で控えめなリーリアにここまで言わせるってなかなかの深刻さだ。




「そしたら、声を出さないようにどうにか努力してみるからそれではだめだろうか!?」




「私たちも話し合いました。真摯に話し合えばきっと改善してくれるって。ですが……」




「ですが?」




「癖と言うものは完璧には治らないものです。いつあの怪鳥音が耳元で発声されるかもわからない中でひやひやしながら冒険を続けるのは、もう私たちの精神では限界なんです!」




 限界なんです! と言う声が耳の奥でエコーとなって繰り返され、ギルドから宿屋への帰路の間も鳴りやむことは無かった。


 なにより、うるさいとかうるさくないとか以前に、もう怪鳥音に対する恐怖すら抱いちゃってたじゃん。あれはかわいそうだよもう。




 考えても見れば、一か月前にリーリアのパーティに拾われる前に何個かパーティを渡り歩いていたが、そこらでも何故かよくわからないままパーティとの連絡がつかなくなったり、体のいい方便で追放を言い渡されたりしていた。




「あれも全部声のせいだったのか……」




 宿屋の布団の上で俺は今後について考えていた。


 どうにかして声を抑えないことには俺に未来はない。


 しかしあの声は無自覚だ。意識で抑え込めるものではない。何か強制的に抑え込む手段がなければ。




 がばっと起き上がると、俺は部屋の中で手当たり次第に何か口をふさげるものがないか物色した。


 手ぬぐいを噛んで後ろで縛っても戦闘中には解けてしまうだろう。


 音を遮断する魔法なんて器用なものも使えない。俺が使える魔法系技能は死霊術Lv1だけだ。




 何か使えるものはないか、そうしてベッドの下をあさっている中で、ベッドの土台部分が引き出しになっていることに気づく。


 ゆっくりと引き出しを開けるとその中には、あつらえたようにぴったりのアイテムが収められていた。




「猿……ぐつわ?」




 この国ではボールギャグと呼ばれているそれが、その後の俺の必須アイテムとなる。

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