3-22

 そうして結婚式の前夜には、マリーエの実家にいつものメンバーが集まり、お泊まり会をした。

 マリーエとアメリア。

 リリアーネにミィーナ。

 そして、クロエである。

 今回はソフィアも一緒だ。

 乳母もいるし、アレクシスが息子のライナスに付き添ってくれているらしい。

 弟が三人もいたからか、アレクシスは子どもの扱いがとても上手く、ソフィアも安心して託してきたようだ。

 人数が増えたので、応接間でお茶会をして、それからマリーエの部屋に向かう。

「噂には聞いていたけれど、本当に大きいわね」

 ソフィアは、マリーエの部屋に設置された大きなベッドを見て、感嘆の声を上げる。

「はい。特注で作ってもらいました」

 マリーエは得意そうに、ベッドをソフィアに紹介している。

「わたくしは昔から、友人がほとんどいませんでした。でもずっと、友人同士のお泊まり会に憧れていて」

 マリーエは自分の部屋を見渡して、感慨深そうに言う。

「みんな、わたくしの夢を叶えてくださって、本当にありがとう。今までとても楽しかったわ」

「あら、こんなに大きな特注のベッドまで作ったのに、これで最後なの?」

 そんなことを言うソフィアに、マリーエは戸惑っている。

「ですが、わたくしは王城に住むことになりましたから」

「王城にも、空いている部屋はたくさんあるわ。客間のひとつを借りて、このベッドをそこに運べば、いつでもお泊まり会ができるでしょう?」

 優しく言い聞かせるような言葉にマリーエは顔を輝かせた。

「みんなも、これからもお泊まり会に参加してくれる?」

「ええ、もちろん」

 アメリアは真っ先にそう答えた。

「友人がいなかったのは、わたしも一緒よ。でもここに集まった人たちは、本当に大切な友人だと思っている。だから、これからもお泊まり会をしたいわ」

「ええ、是非」

「もちろん、わたしでよかったら喜んで」

 リリアーネとミィーナも笑顔でそう答え、クロエももちろんだと頷いてくれた。

「他国から来た私を、皆さん温かく迎えてくれました。これからもよろしくお願いします」

 たとえ全員が結婚しても、王城ならば集まりやすいだろう。

 今日は全員でこの特注のベッドで寝て、それから王城に移動してもらうことになった。

「マリーエ、結婚おめでとう」

 アメリアは、あらためてそう言う。

「まだ一日早いわよ。でも、ありがとう。アメリアのお陰よ」

 しあわせそうなマリーエの姿が、少し羨ましい。

「アメリアは来年の春ね。春なんて、もうすぐだわ」

 そんな感情が伝わったのか、マリーエは宥めるようにそう言ってくれた。

「その前に、エストとクロエさんの婚約披露があるわね」

 ソフィアの言葉に、クロエは畏まって頷く。

「はい。あんなことがあったのに、私を受け入れてくださったことには感謝しております」

「クロエ様のせいではないわ」

 アメリアが咄嗟にそう言うと、他の人たちも同意してくれた。

「リリアーネとカイドの結婚式は、来年の夏頃だったかしら」

「はい、そうですね。少し遅くなってしまいましたが、私たちは仕事が優先ですから」

 アメリアの護衛騎士であるリリアーネと、サルジュの護衛騎士のカイドは、アレクシスとソフィアと同い年だ。

 ふたりがこの任務に就かなければ、三年前には結婚していたと聞くと、やはり少し申し訳ないような気持ちになる。

「アメリア様。私は騎士に復帰することができて、嬉しかったのですよ?」

 そんなアメリアの心を見透かしたように、リリアーネは優しく言う。

「カイドは反対しませんでしたが、父はもともと私が騎士になることに反対しておりまして。結婚を機に、騎士団を辞めさせられました。でもアレクシス様とソフィア様からご指名をいただき、こうして復帰できましたから」

 騎士に復帰できて、互いの主の結婚を見届けたあとに、長年の婚約者と結婚できる。それはリリアーネにとって、最高の道だったと笑顔で語ってくれた。

 彼女をよく知る親友のソフィアも頷いてくれたので、彼女の本心なのだろう。

「もう数年もしたら、子ども連れのお泊まり会になるかもしれないわね。順番で言えば、次はマリーエが母親になるのかしら」

 ソフィアの言葉に、マリーエは柔らかく笑う。

「わたくしは、何となくアメリアのような気がします」

「そうですね。私もそう思います」

 マリーエの言葉にリリアーネが同意して、アメリアは真っ赤になる。

「そ、そんな……」

「きっと、ものすごく可愛い女の子で」

「魔力も強そうですが、頭も良さそうですね」

 ミィーナとクロエまで同意したものだから、アメリアは狼狽えて、枕に頭を埋めた。

(ああ、でも……)

 結婚してからも、サルジュは植物学や魔法の研究で忙しいだろうが、アメリアや子どもを粗末にすることはないだろう。

 むしろ、深く愛情を注いでくれる。

 そんな人だ。

 王都に来たばかりの三年前は、未来に対する不安しかなかった。

 けれど今は、どんな状況になろうと、隣にはサルジュがいてくれるだろうし、きっとしあわせになれるのだろうと信じている。

 そっと枕から顔を上げて見渡すと、皆、アメリアと同じような顔をしていた。

 自分たちの将来に思いを馳せ、きっとそれがしあわせなものだろうと確信している。

 このお泊まり会は、これから何年も続いていくだろう。

 きっとそのときも、しあわせそうに笑っているに違いない。

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