3-17
マリーエはもうすぐ、第三王子のユリウスと結婚する。
本来なら、側妃の子である第二王子のエストと第三王子のユリウスは、結婚したら爵位を賜って臣下になるはずだった。
けれど次期国王となる王太子のアレクシスが、ふたりにも王家に残り、自分の補佐をしてもらうことを望んだのだ。
四人の父である現ビーダイド王国の国王陛下には、兄弟や従兄弟もいない。
そのため、王国の責任すべてをひとりで背負わねばならなかった。
しかも冷害は年々酷くなり、各国でも食糧は不足気味である。
その対策や、各国との連携。
さらにこちら側の土地を虎視眈々と狙っているベルツ帝国への対策などで、国内に目が行き届いていたとは言いにくい状況だった。
あの王立魔法学園の現状も、そのために見逃されてしまっていたのかもしれない。
けれど今は四人の王子たちが、それぞれの分野でこの国のために貢献している。
アレクシスは王太子として、他国との連携や、ベルツ帝国との関係を改善するために動いていた。
エストは王立魔法学園で、学生たちを導く役目を担う。
ユリウスは王立魔法研究所の所長として、魔法技術の発展と継承を。
そしてサルジュは、植物学と土魔法の研究で、この国のみならず、この大陸すべての国の食糧事情を解決するために動いている。
この国の未来をより良くするためには、誰ひとり欠けてはならない。
兄弟全員が王家に残り、支えてくれることを望んでいた。
そんなアレクシスの考えに、王太子妃のソフィアも喜んで賛同していた。
(わたしも、マリーエやクロエ様が一緒なら嬉しい……)
地方貴族でしかなかったアメリアが王子妃になるには、やはり相当な覚悟が必要だった。
それでもサルジュを支えたい、生涯をともに過ごしたいという願いのために、必死に頑張ってきたのだ。
だからマリーエとクロエが同じ立場になってくれるのは、とても心強い。
(それに、エスト様とユリウス様がいてくださるなら、サルジュ様も研究に専念できるわ)
学園生活の中でもサルジュを気に掛けていたユリウスは、きっと今後もサポートしてくれることだろう。
もちろんアメリアも精一杯勤めるが、ユリウスの存在は、アメリアにとっても支えとなる。
そんなユリウスと結婚することによって、アメリアと同じく王子妃という立場になるマリーエも、この王族の居住区に住むことになったのだ。
「結婚したら、あなたの義姉になるけれど、それでもアメリアはわたくしの初めてのお友達で、一番の親友よ。これからもよろしくね」
アメリアからするとマリーエは、孤立してつらかったときに親身になってくれた恩人だ。
けれどマリーエも、今までひとりも友人がいなかったこともあり、アメリアを大切な親友だと言ってくれる。
「だってアメリアは、わたくしの夢をすべて叶えてくれたわ。友人の領地に遊びに行ったり、お泊まり会をしたり。そして、素敵な人と結婚したいと思っていた夢も」
そう言って、少し照れたように笑うマリーエは、とても可愛らしい。
たしかにマリーエとユリウスが出会ったのは、アメリアとサルジュがきっかけだった。
だからか、縁を結んでくれたのはアメリアだと言ってくれる。
「わたしにとっても、そうだわ。マリーエはかけがえのない親友で、これからは大切な家族の一員だもの」
まだアメリアは結婚していないが、サルジュの兄たちも国王陛下と王妃陛下も、アメリアを家族として扱ってくれている。
そこに、今日からはマリーエも加わる。
「ええ、よろしくね」
互いに微笑みながら、握手をする。
大切な親友と家族になることができるのは、とてもしあわせなことだ。
「では、さっそくソフィア様のもとに行きましょうか」
移動先も王族居住区内なので、メイドひとりだけを連れて、マリーエと一緒にソフィアの部屋に向かう。
メイドが訪問を告げると、ソフィアの優しい声が入室を促した。
「おかえりなさい、アメリア。随分大変だったようね」
そう言って労わってくれるソフィアは、ベッドの上で身体を起こしていた。
治癒魔法で身体は回復しているが、アレクシスが、しばらくは休んでほしいと懇願したらしい。
そんな彼女の傍には、ベビーベッドが置いてある。
そこに視線を向けると、アレクシスやサルジュと同じ、金色の髪をした乳児が眠っていた。
肌はソフィアのように白く、眠っているので瞳の色はわからないが、どちらに似ても綺麗な青色だろう。
まだ小さな命だが、いずれはこの国の王となる子どもである。
「ソフィア様。遅くなりましたが、おめでとうございます」
アメリアが祝いの言葉を告げると、ソフィアは輝くばかりの笑顔で頷いた。
「ありがとう。直前にエストから、アメリアが考案して、サルジュが設計してくれた魔導具を見せてもらったの。そのお陰で、とても安心できたわ」
エストはソフィアの不安を和らげようと、魔導具の存在を先に話していたようだ。
ソフィアが安心できたのならば、そうしてもらえてよかった。
アメリアはそう思う。
「ありがとう」
もう一度言って、ソフィアはアメリアの手を握る。
「この子も、アレクシスの子どもだけあって、とても強い魔力を持っていたのよ。この魔導具がなかったら、大変なことになっていたかもしれない」
まだ小さな腕には、魔力の調整をしている腕輪が嵌められている。
大きさは魔力で調整できるようで、自分で魔力を制御できるようになるまでは、父となったアレクシスが管理するようだ。
「お役に立てて、よかったです」
少し不安はあったが、提案してよかったと心から思う。
「先ほど、アレクシス様がわたしの部屋まで来て、お礼を言ってくれました」
「アレクシスが?」
ソフィアは驚いたようだが、やがて納得したように頷いた。
「そうね。むしろわたくしよりも不安だったようだから、アメリアが提案してくれた魔導具で、一番安心したのはアレクシスかもしれないわ。アメリアのお陰よ」
「いえ、わたしはただ提案しただけで。設計してくれたのはサルジュ様で、制作してくれたのはエスト様です」
「それでも、アメリアが思いついてくれなかったら作れなかったものよ」
そう言われて、アメリアは恐縮してしまう。
アイディアだけでは、成り立たない。
協力してくれたサルジュとエストのお陰なのだ。
ぐっすりと眠っているので、後日あらためて抱かせてもらうことにして、アメリアはマリーエと並んで、ソフィアのベッドの近くにある椅子に座った。
「ベルツ帝国は大変だったようね。あなたたちを襲ったばかりか、まさかこんな時期に皇帝を暗殺しようとするなんて」
「はい……」
あの一連のできごとを思い出し、アメリアは俯いた。
前皇帝には、カーロイドを含め、三人の息子がいる。
皇后の息子で、長兄のカーロイド。
そして、それぞれ別の寵姫の息子である、イギスとソーセだ。
前皇帝は、まだ後継者を決めかねていたようだ。
しかしその突然の死によって、一番帝位に遠いと思われていたカーロイドが即位した。
ベルツ帝国で耳にした噂では、その即位にもビーダイド王国の後押しがあったらしい。
アメリアはその辺りの事情には詳しくないが、アレクシスならば、それくらいのことはやっていただろう。
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