第391話 土魔術で分離して、風魔術で集める。これで行けそうな気がする。
(さて、どうしたら衣類と汚れを分離できるか?)
1つの方法は現実の洗濯を再現することであった。それなりの洗浄効果を見込むことができるだろう。
(でも、それじゃあ面白くないよね)
第一
(せっかく魔法を使うんだから、魔法でしかできないことをやりたい)
汚れとは何か? それを定義できないと衣類から分離することができない。
生地を認識できればそれ以外を汚れと定義すれば良さそうだが――。
(でもそれでは染料を汚れと認識してしまう)
染料が汚れと異なる点はどこか?
(サントスが言っていた。染料を生地に定着させるために灰に漬けると)
つまり染料は布の繊維と化学的に結合して離れにくくなっているのだ。
(区別するのは結びつきか?)
繊維に付着したり、繊維の中に入り込んでいるだけの「異物」を汚れと定義する。大半の汚れはその定義で対応できそうだった。
(「布のイド」を術式の対象にすれば良いかな? そうすれば付着しただけの汚れは対象外になる)
洗濯物のイドに働きかけてそれ以外のイドを排斥する。術式の原理はそれで良さそうだった。
(汚れ、異物を押しのける……。押しのける力は土魔術で良いか。押しのけた異物は回収しないといけないな)
そのままにしておいては洗濯物に再付着するかもしれない。回収方法をどうするか?
(風魔術か、水魔術……。洗濯といえば水を使うものだが……、だからといって魔術まで水を使う必要はないね)
水を使えば、その水を処理する必要がある。後始末を考えると風魔術で異物を集める方が扱いやすい。
(土魔術で分離して、風魔術で集める。これで行けそうな気がする)
思いついたら試してみたくなる。道具は何もないが、術式そのものの実証試験をやってみたいと、ステファノは考えた。
規模を小さくすれば危ないこともないだろう。
(とりあえず異物は吹き飛ばすだけで、回収のことは考えないことにしよう)
部屋を汚すほどの異物は出てこないはずであった。
ステファノは机に置いた調理人服を前に、今考えた術式を脳内で構築した。
(よし! やってみよう)
「我、ステファノの名において
調理人服が一瞬光り、汚れた部分がすっと浮き上がった。そして、服の表面を風が吹き渡り、浮き上がった汚れを吹き飛ばした。
吹き飛ばされた汚れは床に落ちたが、どこに落ちたかわからないほど細かい粉末であった。
きれいになった服を持ち上げてみる。
「おや? 服の下には落ちた汚れが残っているな」
服の下には風が届かなかった。汚れであった異物は細かい粉となって机の表面に残っていた。
(かなり細かい粉末だな。取り除いた汚れの処理方法を考えたほうが良いかな。吸い込んだらまずそうだ)
現代で言えばハウスダストになってしまう。簡単に風で舞い上がり、空中を漂うだろう。
(肝心の汚れ落ちは、と……。)
服はきれいになったように見えたが、細かく見ると部分的に染みが残っていた。
(ははあ。これは汚れが繊維と結びついてしまった場所だな)
そこまで染みになってしまうと染料との区別がつかない。
(これは仕方ないか。普通に洗濯してもこの染みは落とせないだろう)
「染み抜き」の魔道具があっても良いかもしれない。
とりあえずは染みができる前に洗濯すればこういう現象は防げるはずであった。
(染みになった汚れは落ちないけど、普通の汚れ相手なら十分使えるな。ほとんど一瞬できれいになるじゃないか)
取り除いた汚れをどうやって回収するか考えていたら、ステファノは掃除をする魔道具を考えついた。
(これも風魔術をベースにすれば良いね。そして集めた塵を捨てる工夫だが……。固めてしまったらどうだろう?)
粉のようになっているからすぐに散らばって扱いにくい。1つに固めてしまえば、塊をポンと捨てればお終いだ。
(今度は風魔術で集めて、土魔術でぎゅっと固める。そういうイメージで行こう!)
あっという間に「魔掃除具」の術式ができ上がった。
(よし! 後は道具の形を決めよう)
ステファノはノートを取り出し、「魔洗具」と「魔掃除具」の機構をスケッチし始めた。
(トーマがいれば意見を聞けるのにな。仕方がない。自分で考えて一旦形にし、2学期になったらみんなの意見を聞こう)
それはそうとして、術式そのものは生活魔術として使用できる。
ステファノはそれぞれに「
(これからは
その日の魔道具開発はそこまでとして、数々の原型を注文するための「仕様書」を書き上げ、ジョナサンに託した。
「氷の要らない冷蔵庫に、水を使わない洗濯道具だと? 本当にそんなものができるってのか? アカデミーの勉強ってのは大したもんみてえだな」
ステファノの説明を聞いてもジョナサンは半信半疑であった。しかし、マルチェルからステファノの希望を叶えるように指示を受けている。
首を傾げながら仕様書の束を受け取った。
「いや、本当にうまくいくなら屋敷の仕事が随分と楽になるぜ。魔術具とやらに期待するとしよう」
「任せてください。こんな感じですから。清めよ、
ジョナサンの全身を薄い光が包み、ふわりと風が吹き抜けた。
すると、足元にころりと丸薬のような小さな玉が転がった。
「うん、何だ? すっとした感じだったが」
「ジョナサンさんが着ている服を魔術で洗浄しました。床に転がっているのが汚れを集めた玉です」
「本当か? お、今朝庭でつけた泥汚れが確かに消えているな」
ジョナサンはズボンのすそを見下ろして感嘆の声を上げた。
「驚いたぜ。こいつは早いところ道具を注文した方が良いな。よし、俺に任せろ!」
洗浄魔術の効果を見て、ジョナサンはすっかり素材注文に乗り気となった。
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