第35話 口下手のサルコ。

「『飯綱いづな使い』と『100人殺し』が居合わせたんです」

「飯綱使いだと? やべぇな、マジか? 黒い髪で、黒い目だったか? 俺と同じで」


 ダニエルもまた東方の血を引いているのか、黒髪、黒目の容貌であった。


同じ・・でした。クリードという人です」

「知ってるよ! 両手剣のクリード。歳は幾つくらいだった?」


 目を輝かせてダニエルが尋ねて来た。どうもクリードに思い入れがあるようだ。


「20代半ばだと思います」

「そんなに若いのか? 40くらいかと思ってたぜ。強そうだったか、やっぱり?」


 ダニエルは両手を握り締めて、身震いした。


「背は180センチくらいありましたが、どちらかというと細身で、一見強そうには見えないタイプでした」

「そうなのか? 冷酷非情の剣士って話だったが」


 世間の噂ではそうなっているらしい。あれだけ人を斬ればそう言われるのも仕方ないが……。


「クリードさん本人は、優しい人ですよ?」

「『クリードさん・・・・・・』って、お前……。もしかして、喋ったのか?」


 ステファノが答えようとした時、ドアをノックする音がした。


「はい!」


 ドアに近いステファノが立って引き開けると、男の使用人が立っていた。


「旦那様がステファノを呼ぶようにと」


 落ち着いた頃合いを見てステファノを呼び付ける手はずだったのであろう。


「もうそんな時間か……。ステファノ! ちょっと来い」


 手招きしたダニエルに近付くと、自分より背の高いステファノの肩を抱きかかえて来た。


「お前、今の話誰かにしたか?」


 なぜかひそひそ声である。


「旦那様と、マルチェルさんだけです」


 ステファノも合わせて声を落とした。


「いいか。誰にも話すんじゃねえぞ。旦那様の用事が終わったら、今晩俺に詳しく教えろ。いいな?」

「いいですよ。ああ、紙を用意してくれたら、クリードさんの似顔絵が描けますけど……」


 ふと思いついて、ステファノは水を向けてみた。


「マジか? それはあれか? 役者とかの絵姿みたいなもんか? そうか、わかった!」


 ではまた後でと、ステファノは廊下に出ようとした。


「ちょっと待て、ステファノ!」


 ダニエルが声を上げて呼び止める。


 何事かとステファノが振り返った。

 

「誰か店のもんに文句を言われたら、俺に言え。てめえのけつは俺が持ってやる」


 とんと胸を叩いて、ダニエルは言い切った。


「ありがとうございます、先輩」


 今度こそ本気で、ステファノは頭を下げた。


 廊下に出ると、呼びに来た若者が不思議そうな顔をしている。


「おめぇ、ダニエルさんとは初対面だよな?」

「はい、今日が初めてです」

「もう馴染んだてか?」


 ダニエルがステファノを弟分扱いしたことが、不思議でならないらしい。


「あの人、おっかね・・・・べ?」


 田舎出の若者もダニエルの後輩に当たり、入りたて・・・・の頃はひと月ばかり怒鳴り回された覚えがある。


「ちょっとせっかちかもしれないですが、面倒見は良さそうですよ」


 びんたを食らうくらい、何ということは無い。懐に入ってしまえば見捨てられないタイプなのだ。


「おめぇ、肝太きもふてぇな」


 案内役の若者が感心して言った。


「俺はサルコだ。おめぇ17だべ? 歳は一緒だっけ、俺に敬語は要らねぇ」

「うん。よろしく、サルコ」

「俺は口下手だっけたくさんは喋らんども、よろしくな」


 十分口数は多いと感じたが、ステファノは黙って頷いた。

 サルコの案内で母屋に渡り、再びネルソンの執務室へ入ったのは夕方5時に迫る頃だった。


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