第19話 絶望
『あーーーあ……もうお終いなの? つまんないなぁ……』
先ほどまでライアンが居た所で激しく渦巻き燃え盛る大きな炎を見つめて黄色い竜頭が呟く。
『赤の
青い竜頭が自分がやった訳でもないのに自慢げに解説する。
『そう結論付けるのは早計だぞ? 黄色の、青の』
『何を言ってるの赤の? そんな訳、あっ……!!』
勝利を確信していた黄色の竜頭が赤の竜頭の言動を否定しようとしたその時だ、地面の炎が急速に縮小、掻き消えるとそこに腰を落として膝まづくライアンの姿があった。
『これは驚いた、まさかあの炎を喰らって燃え残ったのかい?』
青の竜頭は言葉に反してさほど驚いた様子も無く言葉を口にする。
しかし燃え残ったという表現は全くの的外れでは無く、ライアンの身体全体は黒い
取り分け
『済まないテンパランス、お前が咄嗟にマントを広げて俺たちを包んでくれなければ今頃全員がやられていた』
『……いやぁ、大したことないですよ、とは流石いえませんねこれは……次に同じ攻撃を受けたら守り切れないかも……』
しかし今回のドグラゴンの魔法は
『済みません……少しだけ……休ませて……』
それっきり
「やっぱり……あたしはこいつには勝てないの?」
地面についた自らの手先を虚ろな表情で見つめながらライアンが弱々しく呟く。
『何を弱気な事を言っている!? ここでオレ達が敗れるような事があれば世界が終わるだけじゃなく、お前の思い人も救う事が出来なくなるんだぞ!!』
「……ルシアン」
ライアンの身体が微かにピクリと跳ねた。
『ルシアンを四天王から元に戻す方法はオレが必ず見つけ出してやる!! だからお前は必ずこいつを倒して必ず生き残れ!! 話はそれからだ!!』
「……必ず生き残る……」
まだ手足の震えは止まらないが力を込めて必死に立ち上がるライアン。
遂に完全に立ち上がりライアンは両手で勇気の剣を握り締めドグラゴンを睨みつけた。
『ほう、見上げたものだな、まだ諦めないとは……』
赤い竜頭が目を細める。
その表情は微かに微笑んでいるかとさえ思われた。
『なあ、今度は俺にやらせろよ』
濃緑の竜頭が顔を割り込ませ正面に出た。
『いいだろう、任せる』
『そう来なくっちゃな!! 行くぜ
濃緑の竜頭が口を大きく開き喉の奥から巨大な岩石を吐き出し大砲の様に撃ち出してきた。
『任せるだ!! ライアン、オラを正面に掲げろ!!』
「うん!!」
ライアンが勇気の剣を握り締め身体の正面に立てて構えた。
ドグラゴンの岩石は勇気の剣の刃に当たった途端、抵抗なく真っ二つになり地面に落ちた。
任意の物を無条件に切断する能力、
「流石ね、でも何でさっきはドグラゴンの足を斬れなかったの?」
『それよ、オラにも分からねぇんだ、何で奴には
『もしかして何か特別な力が奴の身体を覆っているのかもな……』
『ライアン、確かあのピンクの首の能力だけはお前も知らないと言ったな?』
「うん、前戦った時はあの首だけ何の攻撃も仕掛けてこなかったんだよ」
『成程なもしかすると奴の無敵の身体のヒントが……そこに答えがあるのかもしれない』
「じゃあどうするの?」
『何とかあのピンクの首を切断できないか?』
『無理だべ、もしあん首がその能力を持っとるとしたら足だけでなく首も斬れねぇんじゃねぇのけ?』
『確かにな、では魔法を放つ時の口の中はどうだ? 身体の中まで無敵だとは思えないんだが』
「分かったわ、やってみる!!」
この間も濃緑の竜頭の
『チクショウめ!! 俺の魔法が効かないだと!?』
濃緑の竜頭に焦りの色が見える。
『なあ、そろそろ代れよ』
『うるさい!! このまま引き下がれるか!!』
青の竜頭の申し出を却下する濃緑の竜頭。
全くダメージを与えられないままの交代は彼の沽券に関わる。
しかしライアンはドグラゴンの目と鼻の先迄迫っていた。
『くそぉ!!』
ライアンの居る自分の足元に向け岩石を放つ。
「今よ!!」
岩石を間に挟む形でライアンは突きの構えで濃緑の竜頭目掛け飛び掛る。
半ば意固地になり
最後に放った岩石を勇気の剣が貫き粉砕、その切っ先はそのまま濃緑の竜頭の開いた口の中、喉の内側に深々と突き刺さったのだ。
後頭部には貫通した勇気の剣の切っ先が突き出ていた。
『ゴッ……ゴバァアアアアアアアッ!!』
何とも表現し辛い濁った悲鳴を上げ濃緑の竜頭が激しく頭を振り回す。
「きゃあああっ!!」
その反動で吹き飛ばされたライアンはそのまま激しく地面に背中から叩きつけられた。
『どうなっただ!?』
「あっ!!」
地面に叩きつけられた物理的なダメージはビキニアーマーの加護により無効なので痛みは感じない。
すかさず起き上がりドグラゴンを見たライアンは思わず声を上げた。
先ほど喉の奥を突き刺した濃緑の竜頭は胴との付け根の部分からだらりと垂れ下がり、目からは光が失われていた。
恐らくその竜頭だけ死んだのだ。
「やった!!」
思わずこの言葉がライアンの口をつく。
『やはり効いたか、しかし……』
『……やれやれ、相変わらず頭に血が昇るとダメですね緑のは』
「あっ、ピンクの頭が喋った……」
桃色の竜頭がこの戦いに入ってから初めて口を開いた。
しかし自分の頭が一つやられたにも拘らず全く焦る様子はなく落ち着いた様子だ。
『さあ起きなさい、このままみっともなく終わるのはあなたも嫌でしょう?
仄かな桃色の光がドグラゴンの身体を包み込む。
すると完全に光を失っていた瞳の濃緑の竜頭がピクリと跳ねる。
次の瞬間あろう事かむくりと濃緑の竜頭の首が何事も無かったかのように起き上がり瞳は再び輝きを取り戻したのだ。
『……いてててて、ひでぇ目に遭った』
『これに懲りたら少し大人しくしていなさいな』
『面目ねぇ桃色の……』
大きな過失をしてしまっただけにさすがの濃緑の竜頭も桃色の竜頭に頭が上がらない様だ。
『……馬鹿な、
「どうするのよ!? こんなの勝てる訳ない!!」
『落ち着け!! 今ので攻撃が通じるのは確認出来た!! まだ勝てないと決まった訳では無い!!』
「無理よ!! 今みたいな奇襲、警戒した相手にはもう利かないわよ!!」
ライアンは激しく狼狽する。
無理もない、先ほどの攻撃はある意味彼女にとって起死回生の一撃だったのだ、それを無かった事にされてはライアンの立つ瀬がない。
『小さき者にしてはよくやった、今まで我の首の一本でも倒した者は皆無であった、褒めてやる』
赤い竜頭が尊大な態度でライアンを見下ろす。
『なあ赤の!! このままじゃ俺の面目が丸潰れだ!! ここはあれで奴を葬りたい!!』
『わざわざこんな者にあれを使うまでもあるまい』
『頼む!!』
『仕方ない、あい分かった』
濃緑の竜頭の必死の懇願に折れ、赤い竜頭はその提案を飲むことに決めた。
『女勇者よ、お前は良くやった、ここで果てようとも誰もお前を咎めまい、これから我の最大の魔法でお前を葬ろう』
ドグラゴンの五つの竜頭が赤い竜頭が真上に位置しそこから等間隔で残りの四つの竜頭が正面から見た状態で円を描くように並ぶ。
そしてその首同志を直線が結び浮かび上がったのは五芒星であった。
各々の首が口を開き喉の奥に魔法力を蓄え激しく光を灯す。
『喰らうがよい、
五つの竜頭から放たれた眩くも激しい魔法力は正面で一本に収束、より太い熱線となりライアン目がけ襲い掛かる。
『駄目だ!! あれを喰らっては!!』
しかしその光線の余りの速さにライアンには既に避けるという暇はない。
仮に彼が万全であったとしてもこの魔法は防ぐことは出来ないであろう。
「もう……ダメ……」
ライアンは完全に心がくじけてしまった。
もう避ける気力が沸いてこなかったのだ。
既に
そして景色が見えなくなるくらい激しい光が辺りを包み込む。
『ガハハハッ!! 今度こそ終わっただろう!!』
『……ムゥ』
『どうしたの赤いの?』
『余計な邪魔が入ったようだ』
光が晴れるとそこには二人の人物が立っている。
奥にはライアン、そしてドグラゴンと彼女の間に立つ人物……それは四天王ルシアンであった。
正義の盾を正面に掲げ仁王立ちしている。
『お前!! ジャスティス!!』
『やあ、苦戦している様だね、僕が力を貸そうか?』
以前の遺恨も何事も無かったかのようにライアンたちに前に姿を現したルシアンと
彼らの目的は一体?。
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