06 ポーションの価値

「このポーションを買い取ってくれ!」

「魔石百個で買い取ろう。買値と売値は同じではない。消耗品は買い戻しはできない。合意するか?」

「いいぞ! 売った!」


 ポーションは貴重だ。

 たちどころに傷を治してしまう魔法の水薬。

 相応に値段も高い。


 モンスターがあふれ、危険の多いこの世界では需要は高い。


「よし。成立だ。これが魔石だ。受け取れ」

「おう! あと、武器を見せてくれ。何がある?」


 剣士風の男は並べられた武器を物色する。

 その中の一つを指さす。


「この剣はいくらだ?」

「魔石三百だ」

「うーん。高い……でも欲しいっ!」


 男は手元の袋をのぞき込んで渋い顔をしている。


「他にも何か買い取るか?」

「売れるものあったかな? ……じゃあ、このポーションを買ってくれ!」


 剣士風の男は、ポーションの小瓶を差し出す。

 仲間のひとりが、男に注意する。


「おい、一つは残しておけよ!? 最後のポーションじゃないだろうな?」

「なに、大丈夫だ。狩ってればまたすぐ手に入る! ほら、買い取ってくれ商人!」


 差し出されたポーションを手に取り、商人は値段を告げる。


「これは魔石八十だな」

「なに!? さっきは百だったろう! 足元見ているのか!」

「違う。これは少し品質が悪い。手に入れてから長く手元に置いていたんだろう。八十で合意するか?」

「わかったよ! それで売る! で、剣をくれ!」


 商人はポーションを収納にしまい、剣を差し出す。


「状態に問題がないことは確認済だ。返品はできない。不要になれば買い取るが、売値と同じではない。合意するか?」

「おう! 買うぜ!」


 魔石三百を受け取り、売買契約は成立した。

 新しい剣を手に入れた剣士は、意気揚々と商人の元を立ち去った。



「あんたさ……あれ、毎回言うのね」

「あれとはなんだ?」

「売値と買値が違うってさ」


 ある意味では、当たり前のことだ。

 店にモノを売るとき、売値よりも安く買い取られる。


 しかし、商人は店を構えていない。

 身体一つ、店も看板も掲げない行商人だ。


 相手から見れば、個人間の取引とも受け取れる。

 明確に言葉にしておかなければ、無用の問題トラブルを生み出す。


「ああ。大事なことだ。同じ品物だから価値が同じだと勘違いする客は多い」

「まあそうだけど……常識じゃない?」

「いや? お前も前にパンの仕入れ値が安いと言っていただろう」

「う……。言ったわね。たしかに、言っておくのは大事かもね!」



 ややあって、先ほどの剣士が駆け寄ってくる。

 その服は血まみれだ。


「よかった! まだいた! 仲間がケガしたんだ! さっきのポーションを買い戻したい!」


 男は必死の形相で魔石の入った袋を突き出している。

 商人は顔色を変えずに告げる。


「消耗品の買い戻しはやっていない。武器とは違って、混ざってしまえば同じだからな」

「ああ、くそっ! そうだったな。じゃあ、売ってくれ!」

「ポーションなら魔石二百だ」

「そんなに持ち合わせがない! 魔石は今、百五十くらいしかないんだ!」


 商人は袋の魔石をちらりと見る。


「なら、低品質のポーションを百五十で売ろう。どうだ?」

「くそ、足元見やがって! 買う! 買うよ!」

「売買成立だ。商品を受け取れ」

「ああ。じゃあ、急ぐんでこれで!」


 男は支払いを済ませると、来た道を戻っていく。



 剣士が立ち去ると、少女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「ねえ商人。いつも売値は買取額の倍じゃなかった? 八十で買い取ったんだから百六十が適正価格なんじゃないの?」

「……低品質の商品はなかなか売れないからな。これで問題ない」

「ふーん。そーなんだー?」

「……なんだ。ニヤニヤして。損はしていない。死なれたら客が減るからな」

「はいはい。そーね」

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