現状の把握
7話 石の記憶
目を開いた旭人は自分が
旭人は
数秒後には、今自分がいるこの場所が埼玉県
昨日の夕方。
清華駅であの空間に入り込んでしまい、
あれから女性が取り出した札が光り、旭人は目をつぶった。風が小さな音をたてて耳をかすめていくのを感じてまぶたを開く。
目を開けた旭人はどこかの建物の屋上に移動していた。目を閉じていたのはほんの少しの間だったが、旭人の知っている場所や、あの場所に入り
旭人たちがこの場所に来るのがわかっていたのか、
旭人はママとパパの側にいたかった。けれども、伊織の大丈夫の言葉と、
そんな旭人に、伊織と一緒に助けてくれた女性が、ご両親が安定するまで
旭人と目を合わせるように
旭人はこの部屋に来たことも、ベッドに横になった
部屋の時計は四時を指している。
ムクリと上半身を起こして、
「早起き、しちゃったなぁ……」
いつもこんな風に早起きしていたらママはほめてくれただろうか。パパも笑って頭をなでてくれただろうか。そんなことを思いながら、旭人は膝を立てて頭を
昨日の夕方の出来事を思い返して
「ママ、パパ……」
ひとりぼっちの部屋。
ママに小言を言われながらも起こしてもらえる朝も。
そんな日常はしばらく来ない。それどころか、もしかしたら昨日が最後の朝だったのかもしれない。
そう思うと旭人は泣いてしまいたかった。
けれども泣いてしまったら、そんな旭人の
それだけでも苦しい思いをしているのに、旭人は今日見た夢の
社会の教科書。
写真の一部を切り取ったかのような、平安京の
真紅の
それが最後の光景。とても
旭人はずっとこの夢を見続けていた、と
それでも
旭人にとって、昨日までは当たり前だった日常が来ない悲しさと苦しさ。
あの場所で何も動くことができなかった自分自身への
夢の中で見た男性の切ない気持ちと。
それら全部が
ポケットを
旭人は何かにすがりたかった。
こんなぐちゃぐちゃで、大声を上げて
それでもこんなに、痛くて、悲しくて、虚しくて、
端末を開く。
メッセージが届いている。
相手は伊織だった。
個別のメッセージ画面を表示する。
『いつでも
いつもの、
それを
メッセージが送られたのは昨日の二十時少し前。こんな早朝に彼女が起きているはずがない。
『いおりちゃん』
そうわかっていても、旭人は勢いのままに打ち込んだ。
助けてほしい、つらい、悲しい、苦しい、そんな気持ちを打ち込もうとした。けれども指が
呼びかけに反応して
メッセージ画面に彼女が確認した印がついた。ひゅっと息を飲み込んで、旭人は画面を食い入るように見つめ続ける。
震えていた指先はぴたりと止まっていた。
コンコン。
びくりと、
そろりそろりと部屋の入り口へ
「旭人、入るよ」
伊織の声だ、と旭人が
薄暗い部屋で彼女の表情はよくわからない。
「伊織、ちゃん」
こんな朝早くに彼女が起きていた。
自分のメッセージで起こしてしまった。
しかも彼女はメッセージを見てすぐに
そんな申し訳なさと、なんて話しかけたらいいかわからない旭人は言葉を
つかつかと歩み寄る伊織に、旭人は慌てて額を膝に押し付けた。
ベッドのすぐそばで伊織が立ち止まる。
「……」
カーディガンをきゅっと握りしめて、旭人は伊織にかける言葉を胸の中で
そうしているうちに、足元のベッドが少し
「……体調は?」
ややあって伊織が静かに口を開いた。
「ごめん、ずるい聞き方した。昨日の検査結果でほぼ
「おばさんとおじさんは、七時間くらい前に連絡があって、安定期に入ったから
こんな朝早い
「今日の午前中にはおばさんたちに会えるようになるから、ちょっと不安だと思うけどもう少しここで待ってて」
そう言った伊織は部屋の扉の方を見ている。
小学校の授業でふと
場所は違う。だが、いつもと同じ表情の横顔に心が少し軽くなった。
「伊織、ちゃん……」
「なに?」
「ごめんね。起こしちゃった、よね?」
「昨日早めに寝たから少し前に起きちゃったの。だから気にしないで」
「あの場所にあなたたちをいさせてしまって、ごめんなさい」
「伊織ちゃんは悪くないよ」
伊織が悪いことをしたなんて思えない。
旭人はその気持ちに変わりはなかった。
それでも、出てきた声は自分でもはっきりとわかってしまうような、小さいものだった。
「本当にごめんな」
「そうじゃ、ないんだ」
伊織は旭人の震えた声に、旭人がまだ自分を
伊織は旭人が違うことを言わんとしていることに気づいて頭を上げた。
「検査結果は異常なかったけど、どこか痛いところあるの?」
気持ち悪い? と
たった一人になってしまったあの場所で彼女が助けに来てくれた。
旭人のメッセージに反応して来てくれた。ママとパパは大丈夫という言葉をかけてもらえた。
旭人が一番怖いと思っていた、二人がいなくなることはない。
ママとパパの無事がわかった。
それだけで、十分なはずだった。
けれども夢の中の出来事が
「ちょっと、さびしくなる、変な夢をみて」
「……変って?」
「すごく現実的な、夢だったから。目が冷めたとき、頭と胸がぐちゃぐちゃになって」
「……」
「ママとパパが大丈夫って教えてもらってそれだけでもう大丈夫だって、安心できるはずなのに、だけど」
すごく悲しい気持ちなんだ、と旭人は胸元のシャツをぎゅっと掴んだ。
「それって……」
伊織がごくりとつばをのみこんで口を開いた。
「旭人、あなた、
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