5話 変化するもの
顔を上げて
ママから
ふと、二人の頭上に黒い球体が
旭人の手のひらぐらいの真っ黒な丸いもの。ちょうど野球ボールくらいのものだろうか、それがぽつんと浮いていた。
キーン、と
不快感の強い音に旭人は
その音はすぐにおさまり、旭人が視線を戻せば、黒の球体の姿は変化していた。
一本の
気づけばぽかんと、半開きになっていた口をきゅっと閉じる。
ごくりとつばを
黒の球体を見続けてどれほどの時間がたったのだろうか。両手で
水が
一刻も早く旭人はこの場から
けれどもパパとママを見捨てて、逃げ出すことはもっとしたくなかった。知らず知らずのうちに
球体から
二つの棘を生やした、人の形をしたものに変わっていく。
球体だった部分には、青白い光る丸が二つ。ギザギザとした白いものが、横に
その
旭人は息をのむ。
鬼のすぐそばにはパパとママがいる。鬼がほんの少しでも動けばパパとママがどうなるかわからない。
どうしよう、どうしよう……!
その思いで旭人の頭は
ギザギザとした白いものがぱかりと開いて、黒のもやが広がっていく。
ママとパパの姿が黒のもやに包まれていくのを見て、階段にかけた旭人の足が、ガタガタと
ママとパパに危険がせまっているのに、ぼくはただ見ていることしかできないのか、と旭人はぎりっと歯を
「や、だ……」
この場所で動くことができるのは旭人だけ。今まで実際に見たこともない、鬼は
「やめて……!」
けれども、それ以上に。
旭人はママとパパを失うのが、怖かった。
三段目の階段から先は黒のもやで前が見えなかった。ママとパパを助けるにはこのもやの中を通って行かなければならない。旭人は
だが、
「……っ!」
黒のもやに
視界がだんだん黒く染まっていく。
体が黒のもやに包まれる。
動くことができない旭人は、ぼくじゃだめだったんだ、と
ママとパパの代わりにぼくがたおれていたらこんなことにはならなかっただろう。
もしも、ぼくがもっとわがままを言わずにいい子にしていたら。
ママのタオルをよけていなかったら、こんなところには来なかったかもしれない。
そんな後向きな気持ちが、ゆっくりと心の中にあふれ出していく。
ふと、伊織の顔が頭に
小学低学年から
ぼくじゃなくて伊織ちゃんがいてくれたら、ママとパパはきっと無事だった。
確信めいたしずんだ気持ちが、旭人の心を満たしていく。
ごめんなさい、ママ、パパ。
伊織ちゃん。
目を
黒の
全身があたたかな陽気で包まれる。
さっきまでこの場所は黒のもやで
身が
代わりにあたたかく
その光源は旭人の前に浮かんでいる丸いもの。思わず手を
旭人の手のひらでかすかに光る、白の光。朝焼けのような、あたたかみのある光だった。その光は
なぜあれほど自分が落ちこんで、
けれども、この石が助けてくれたんだ、と旭人はママから
そして踊り場のママとパパの無事を
「……!」
旭人は目を見開いた。
ママとパパが
黒のもやを
鬼が黒いもやが消えたことに
「や、だ……!」
また黒いもやだ、と旭人はとっさに思った。
鬼のギザギザとした白いものが、ばかりと開く。旭人は自分を助けてくれた石を握りしめ、ぎゅっと目をつぶった。
「ママとパパに近づかないで……!!」
旭人の悲鳴は鬼に届いたはずだった。けれども鬼は旭人の願いを聞き受けるまでもなく、黒のもやを吐き出していく。
再びママとパパに黒のもやがかかろうとしたその時、
「
どこからか高く、
「っ……!」
目をぎゅっと閉じてしゃがみこんだ旭人は突風がおさまったと感じて恐る恐る目を開ける。
目の前にショートブーツと足が見えて、旭人は
「……」
鬼から旭人を守るように立つその
先程まで踊り場にいた鬼は突風で飛ばされたのか、駅改札へ続く階段上で倒れているのが旭人の視界に入った。それと一緒に
旭人は瞬きする。
その先には丸い
旭人はつばをごくりと飲み込んだ。
旭人の目の前に
「
聞き
小ぶりの弓。
青白く光る矢を
黒いもやにつつまれた時、旭人が思い浮かべた伊織の姿がそこにあった。
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