女神辞めます。その言葉、後悔しないように異世界を生きよう!

清河ダイト

地球人類の終わり。そして始まる仕事地獄。

 10月30日。東京、銀座。

毎年、この日になると様々な衣装を着た人々がにぎわう場所。

その有名な交差点の中央に俺は拾ったネコと共にに立っていた。


 普段は人でごった返しているこの交差点も、今となってはそんな喧騒からは予想できない程静まり返っている、前の空を見上げれば赤くかすみ、まるで世紀末のような情景をしていた。


 俺──旭透あさひ とおるはゆっくりと後ろを振り返る。


 後ろの空には巨大な隕石があった。

いや、落ちてきているのだ。


「……これで地球は滅んじまうのかよ……」


 16年間の短い人生で俺は大したことはできなかったし、これからしたいことだってある。

だが相手が隕石という太刀打ちできない物であると、不思議と怒りや悲しみは湧かなかった。


 人間は絶対的な不可能を、特に物理的な物があると諦めてしまう。

なかにはそれでも抗おうとする物も居るが、ほとんどの場合は諦めてしまうのが普通である。

事実、この隕石が衝突すると分かったのは数年前からであるし、各国は互いに協力しあってこの危機を乗り越えようとした。

ミサイルはもちろん、核兵器も使用して隕石を破壊、もしくは軌道を変えようとしたものの全て失敗に終わった。


 全てが無駄であり、この運命から逃れることは不可能だということを神に告げられたようだった。

俺は今、何も出来ない自分や人類の無力感や、諦めの気持ちしか残っていない。


 そうこうしている間にも、隕石はどんどん地球へと距離を近づけてくる。


「……死後の世界って、どんなだろうな」


 交差点のど真ん中に寝転んで真上を見てみる。

だがあるのは赤い空と隕石だけで、果てしなく続く宇宙の蒼は微塵も見えなかった。


「……てか、こんなところで寝てたら捕まっちまうな!! ま、誰も居ねぇんだけどよ!」


 「おまえもそう思うだろ!」とネコに話しかけると、めんどくさそうに「にゃー」とだけ泣いて耳を触っている。


 もう一度、俺は隕石を直視する。

隕石の地球に向いている面は赤くなり、ゴーーという風を切るような音さえする。

それにこの隕石は巨大中の巨大で、直径が月の半分ほどもあるという。

そんな隕石が地球に衝突すれば人間はおろか全生物を巻き込み、最悪の場合地球が消滅するであろう。

そもそも、今の人類の科学力じゃ月に行くのがせいぜいで、巨大隕石の破壊なんか環境的に不可能なのだ。


 そんな隕石を、俺は特に何とも思わず見据える。

これから数分以内に死ぬだろうと思いながら。


 俺は隕石が衝突する直前まで、東京でとにかくしたい事を手当たり次第に行った。

有名な観光地巡り、上手い飯を食べ巡り、ザ・都会というのを肌に感じれた。

今こうして銀座の交差点に寝ているのもその一つ。

こんなことをしたら周りから変な目で見られたり、警察が駆けつけてくるのだろうが、今はそのような事は無く、ただ無人の交差点と道路、ビル群があるだけであった。


 しかし、それでも俺には心残りがある。

何かをしたい。どこかに行きたいとかじゃない。


「なんで家出なんかしちまったんだろうな……」

「にゃー」


 その問いに答えたのは拾ったネコ。

相変わらず不愛想な奴だが反応は返してくれる辺り、耳には入れているんだろう。


 ──ネコと過ごすのが俺の最後の一ページっつーのもわりかし悪くねえな。


 そんな事を考えながら、俺はそのときを待った。


──────────


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァァ……!!!!」


 同時刻、地球に迫る隕石を画面上から観察をする者がいる。

その者──いや女神は頭をかかえ、机をバンバン叩いている。


 彼女は天界の民であり、天界神官部第二十フィールド担当の女神、シュテルン。

彼女の仕事は担当している世界で死んだ人の魂を導く事である。

毎日死に行く魂は数知れず、それをティレーナ一人で対応することは出来ないので基本的に1000人体制で対応しているのである。


 しかし一度ひとたび大規模な戦争や災害が起きれば、大量の魂が彼女らの元に来る。

そうなれば四六時中、魂の案内をし続けることになり、大変な重労働となるのだ。


 だが塵も積もればなんとやら、昔一度に数十万の魂が来たことがあったが、1ヶ月間休まず続けたことによりその苦行を乗り越えることが出来た。


 けれど今回ばかりは一味も二味も……いや前回を甘いショートケーキだとしたら、今回は超超超激辛熱々大盛りラーメンのようだ。

何せこれから送られてくる魂は万の桁から億の桁へと進化してしまうのだから……。


「……いや、まだよ……まだ諦める時じゃないわ……! 地球は私の担当している世界じゃトップクラスに化学が発達している世界よ!!

だからたとえ隕石が来てもミサイルとかいうやつで破壊──」


 案の定難なく地球に隕石が衝突し、衝撃波や爆発によって数多の魂が死んでいくのが分かる。


「……あぁ……」


 恐る恐る画面の端、死者数メーターを確認すると1秒単位で数十万から数百万ずつ増え続けている。

こんなスピード、今まで見たことがない。


「……はは……アハハハッ……!!」


 こうなると逆に笑いが込み上げてくる。

というか笑うしかない。

笑って気を紛らわすというか、こんな状況に立たされた自分自身が笑える。


 ……いや、笑えるうちに笑っておこう。

 これから半年……いや数年単位の地獄が始まるのだから……。

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