不動の焔

桜坂詠恋

本編:第一章

プロローグ

 それに疑問を持たなかった。


 『絶対悪』は存在しない。全てを許し、愛し、救う。

 それは生まれ持って──、否、生まれる以前からの感情。己の本質だ。

 しかし、彼との出会いはそれを変えた。


 気づいてしまった。


 守るべきものが明確になった。守りたいと思った。

 と同時に、その感情は悪の存在を自身に知らしめ、緩慢な思考を改めさせた。


 何故気付かなかったのだろう。


 悪は許してはならない。排除せねばならない。

 至極当然の事だ。

 『絶対悪』が存在する以上、それに相対する、『絶対正義』が必要なのだ。

 大切なものを、本当に救わねばならないものたちを守れる、新しい世界を創る為に。


 急がねばならない。


 彼はもう、充分傷ついた。

 充分過ぎるほどに、傷ついたのだ──。

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