第50話 カブト割 後編


 俺達は、目に付くモンスター達を一掃した。今は水分補給しながらドロップ品を回収している。


「海は、もうすぐなのか?」


「はい。あと少しです」


『ドサッ』


 俺は尋ねてリリーは返事を戻したがその時、頭上からヤシの実が落下して重たい音を発した。


「なんだ?」


「お兄ちゃん、上!」


「うわっ!」


『ガン!』


 ヤシの実を見た俺は呟き、頭上を見上げたモモは上を指差しながら声を上げた。俺とリリーも上を見上げる。木の上から何かが俺目掛けて飛び降りた。声を上げた俺は、咄嗟に右手の水筒を投げ捨てて盾を両手で頭上に構える。何かは音を立てながら盾の上に着地した。


「くっ! 上からなんて…」


(ん? この爪は!)


「ウォータークラブです!」


「奴か。お、重い…、どけ!」


 押し倒されないように踏ん張りながら声を漏らした俺は、思考しながら盾越しに大きな青いハサミを見て気付いた。こちらを見ているリリーは叫び声を上げ、俺は苦言を強く呈しながら勢い良く奴を地面に叩き付けるように盾を振り払った。奴はバランスを崩しながらもハサミと足で地面を捕らえ、それを削りつつ着地する。


「チッ。意外と身軽だな…」


 奴がひっくり返らなかったため、俺は忌々しく呟いた。口から泡を吹きながらハサミを構える奴を見ながら、俺達は臨戦態勢に入る。


(今なら奴が一匹か。この状況…、昨日のあれを試してみるか)


「モモ。少しの間、あいつを頼む。リリーは、周囲を警戒してくれるか?」


「いいよ! でも、早くしないと私が倒しちゃうからね!」


「えっ? あっ…。どうするんですか?」


「試したいことがあるんだ」


「わ、わかりました」


 思考した俺は、昨日の気付きを試すためにそう伝えた。俺の思考を読み取ったかのような笑顔を見せたモモは、返事を戻しながらその場を駆け出して難なく奴を翻弄し始める。リリーは戸惑いながら尋ね、俺は奴に意識を集中させながら返事を戻した。頷きながら返事を戻したリリーは、周囲を警戒し始める。


(動きで負けることはない。問題はあの硬さだ…)


【鑑定】


ーーーーーーー


ウォータークラブ LV10 水属性 


ーーーーーーー


(これじゃない。俺が見たいのは、甲羅の脆いところだ)


 思考した俺は、奴にスキルを使用した。結果を確認して思考した俺は、頭を左右に振りながら今の感覚を捨て去る。


(弱点を見抜くんだから、甲羅を観察するか。甲羅のくぼんだところ。それでいて、力が周りに逃げない場所…)


 再び思考した俺は、奴の甲羅をを食い入るように観察し始める。その視界の中に、遠くのモンスターの影がちらつく。


(早くしないと。流石にモモでも、囲まれたら不味いぞ…)


 思考した俺は、焦る感情を抑えながら再び奴の甲羅を食い入るように観察する。奴はモモを挟もうとハサミを繰り出す。モモは間一髪でハサミの中から飛び出して躱す。


(くそっ! 唯でさえ脆い部分を見抜くなんて不可能なのに。戦闘中に本当にそれを見つけられるのか? そんなの、無理だろうが!)


 モモの戦闘で心を乱した俺は、剣を握る汗ばむ手に力を込めながら自分の不甲斐なさと現実では不可能な行為に苛立ちを募らせつつ暴言を吐くように思考した。


「ルーティーさん…。ルーティさん」


「なんだ。今は時間が無いんだ」


「ルーティーさん、少し落ち着いてください!」


「!?」


「モモさんは、まだまだ余裕があるようですよ」


 リリーは俺を呼んでいた。微かにそれを耳にしていた俺は、リリーを一瞥してぶっきらぼうに話した。俺の腕を掴んだリリーは声を上げ、驚いた俺はリリーを見る。リリーは困り顔でそう話した。俺はモモに視線を移す。モモの表情は笑顔だ。


(そうだったな…。モモなら、大丈夫だ!)


 モモの強さを思い出した俺は、自分に言い聞かせるように思考した。そのあと、一度大きく深呼吸して感情を落ち着かせる。


(落ち着け。この世界にはスキルがあるんだ。それに、まだよく分からないスキルマスターというスキル。マスターと付くんだから、少しはなんとかしてみせろ!)


 気持ちを新たにして思考した俺は、カブト割と未だに明確な使用方法が見つからないスキルマスターを冷静にかつ力強く意識しながら鋭く奴の甲羅を見る。


(なんだ?)


 突然、視界が右に傾いた俺は、気だるさを覚えながら思わずそう思考していた。俺は慌てて剣を地面に突き刺して体を支えるがその時、視界の中に光りの点が映る。



 突然、俺は気だるさを覚えて思考した。思わず膝が地面に突き掛ける。剣を地面に刺してそれに耐えた俺は、体の異変を確認しようと俯き掛けるがその時、落とし始めた視界の中に光りの点が映る。


(あの光りは!!!)


「モモ!」


 視線を光りに合わせた俺は、それを未来と思考して高らかに声を上げた。モモは直ちに奴から距離を取る。


(足が!? そんなの、後回しだ!)


 気だるさのためか咄嗟の一歩が踏み出せない俺は、それを拒絶するように思考した。強引に光りに目掛けて駆け出した俺は、そのまま大きく剣を振りかぶる。


「そこか!」


 声を上げた俺は、横向きでモモを見ている奴の甲羅にある光り対して渾身の力で剣を振り下ろす。


『ガジュ! バン!』


 剣は奴の背中の甲羅を割り砕き、そのまま飛び散る体液の中で砂まで大きく切り裂いて音を轟かせた。


(なんだ、この威力は!?)


 打ち震えた俺は、思わずそのままの体勢で思考していた。ひしゃげた奴は砂塵が舞う中で手足を一度引きつるように伸ばすが、そのあと霧となり消滅した。


「やったー!」


「うわっと!」


 駆けて来るモモが、そのままの勢いで俺に飛び付きながら声を上げた。抱きしめられた俺は、回転しながらその勢いを受け流しつつ思わず声を上げていた。


「大袈裟だな~」


「だって、嬉しいんだもん!」


(実は、俺もかなり嬉しいんだが…)


 回転を止めた俺は、冷静に微笑ましく呟いた。俺の胸に顔をうずめるモモは、まるで自分のことのように喜びながら小さく声を上げた。思考した俺も、昨日あれほど苦労した奴を一撃で倒すことができたため、内心では歓喜の声を上げている。俺は抱き付いているモモの両脇に手を当て、持ち上げて地面に下ろす。モモはキョトンとした表情を見せるが、俺はにんまりした表情を見せながら片手を上げる。


『パチン!』


 にんまりしたモモが、俺の手にハイタッチを決めて気持ちの良い音を鳴らした。


「凄いです! どうしたんですか突然?」


 俺達の下に駆け寄ったリリーは尋ねたが、俺はにんまりした表情を見せながら片手を上に上げる。


「あっ…」


 俺の思惑に気付いたように声を漏らしたリリーは俯きながら恥じらいを見せるが、そのあと顔を上げてはにかむ表情を見せる。


『パチン!』


 リリーもハイタッチを決め気持ちの良い音を鳴らした。


「なんか、いきなり光る点が見えたんだ。そのあとは勝手に体が動いて…」


(そう言えば、これはスキルを覚えたのか? それに、さっきの気だるさは…)


 話し始めた俺は、先程の感覚を思い出して途中から思考し始めた。俺を見ていたモモとリリーは、互いに顔を見合わせる。


「あ、悪い。なんでもないよ。それより、一度休憩しないか? さっき、途中だったし」


「いいよ。そうしよー!」


「はい。わかりました」


 思考が纏まらなかった俺は、とりあえずでそう提案した。モモは元気に片手を上げながら、リリーは優しく微笑みつつ返事を戻した。


 このあと、ドロップ品を回収した俺達は、比較的安全な場所に移動して小休止を挟む。俺がステータス画面を確認すると、カブト割のスキルが追加されていた。それを確認した2人は、再び喜んでくれた。



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