第52話 スタートライン
「お兄ちゃん。1人でやらなくてもいいんだよ」
「そうだな。だが、俺は盾使いだ。どんな相手でも対応できるようにしておきたいからな」
「やったね、お兄ちゃん!」
駆け寄るモモが、ハイタッチを決めようと片手を上げた。俺も片手を上げるが、当たる寸前に横に逸らして躱す。しかし、読んでいたと言わんばかりにモモはその場からジャンプをし、
『パン!』
見事に奇麗な音を響かせた。
「えへへ~」
先程の大爆笑への仕返しを狙ったが、お見通しようでしてやったりと楽しそうな笑顔をこちらに見せつけた。
(こんな顔をされたらな…。まあ、さっきの事は忘れるか)
一本取られたと考えていると、リリーがこちらに歩み寄る。
「凄い早業でしたね。とても、私よりレベルが低いなんて思えませんでした」
(ギク! やり過ぎたか!?)
「た、たまたまだよ。狙い通りに、タコの足が動いただけさ」
俺はアドバンテージなどの事情を話していないことを思い出し、明後日の方向を向いて頭を掻いたが、
「でも、どうしてウォーターオクトパスの魔法を、避けなかったんですか?」
「ああ。あれは、一回魔法を受けてみたかったんだよ。盾で受けるとどんな感じになるかと思ってな」
不思議に首を傾けたリリーの話題が変わり、ほっと一安心した。しかし、実はゲーム時のように魔法が盾を貫通するかの確認を取りたく受けたのだが、そのことはまだ話せないと思い伝えなかった。そして俺達はドロップ品の回収を行うが、
(ふぅ~。色々あったが、なんとか終わったな。だが、途中で剣を軽く感じたが、スキルでも覚えたか?)
【ステータス】
俺は違和感を確認するために、ステータス画面を開いた。すると、タコの足を連続で切り裂いたためか、新しくダブルスラッシュというスキルを覚えていた。
(これは、ラッキーだったな。これから楽になりそうだ)
スキルは多少不安定な体制でも発動できるので、今後のタコ戦は有利に戦えると判断した。そして回収し終えて楽しそうに会話をしている2人に声を掛ける。
「2人とも、小川の方に移動しないか?」
「どうしたの?」
「何か、ありましたか?」
「いや。服が気持ち悪くてな。向こうで少し洗いたいんだ」
モモとリリーは首を傾げたが、俺は鎧や服に未だ残るタコ墨をアピールしながら話をした。
「いいよ!」
「そうですね。気持ち悪いですからね。ついでに少し、休憩も挟みますか?」
「そうだな。少しだけ休もう」
ということで、俺達はここで小休止を挟むことになった。
このあと、狩りを再開するが、ウォーターオクトパスの足の処理速度が上り、これらも他のモンスターと同様に難なく倒せるようになる。そして、しばらくの間そんな感じで狩りを続けていると、昼飯の時間が近付いてくる。とはいえ、時計がないので俺の腹時計での話だが。
「そろそろ帰るか?」
「うん! お腹も空いてきたしね!」
「私も、少しお腹が空きました」
俺が声を掛けるとモモは戦闘中の奴にとどめを刺し、リリーははにかみながら片手でお腹を押さえた。俺達は体力的には余裕が残るが、ここで狩りを終えて成果を確認しながらダンジョンを出ることにした。
成果は、この狩場では完全な状態の武器や防具がドロップしたが、それらの鑑定を行うと普通のブロンズショートソードやレザーアーマーなどで大した物ではなかった。これらはストレージにかさばり、リリーもそれにあまり空きがないとのことで、今回は可能な限り回収するということにしていた。それと、モンスターの討伐数は2層の時と同程度だが魔石や水晶はその時よりも大きいので、なんとか稼ぎは前回を上回りそうだった。
無事にダンジョンを出た俺達は一度昼休みを挟み、そのあとで街に向う。そして辿り着く頃には夜になとなり、この日はこのまま解散して明日の昼過ぎに再びギルド前に集合することにした。
◇
翌日の午後。
俺達はギルド前で合流し、換金を済ませる。報酬は大金貨3枚で一人頭は1枚となり、なかなかの稼ぎだった。そしてギルドをあとにして、今からはパーティーの事をあれこれ決めようとなるが適当な話し合いの場所が見つからず、とりあえず俺とモモの泊まる部屋でということに決まる。そして、
「じゃあ、まずはリーダーか。どうする?」
「お兄ちゃんで!」
「私も、ルーティさんがいいと思います」
俺がベッドに座り第一声を告げると隣理に座るモモが手を上げて正面に座るリリーは頷き、あっさりとリーダーは俺でということになった。
(そりゃそうだよな。モモだとあれだし、こうなるよな。ただ、異世界の一般的なことが分からないのが、ちょっと困るな…)
不安は残るがこれは仕方がないと思い、話を先に進める。
「わかった。リーダーは俺がやるよ。それで、あとは何を決めるんだ?」
「普通は、お金のことを決めますね」
リリーは当然といった様子で返事を返した。
「金か~。稼ぎを等分で別けるとかじゃ、ダメなのか?」
「それだと、いざという時にお金を集めるのが大変になりますよ」
「そうだよ」
俺が面倒臭く口を開くと、リリーは少し顔をしかめてモモがそれに同調した。
(そうか…。そうだよな~。相手の財布の中身を把握しておくのは面倒だし、無理があるよな~。今後、纏まった金が必要だと分かってるなら、この方法は良くないよな~…)
乗り気ではないが、俺も2人に同調した。しかし、念のためにリリーに尋ねる。
「他のパーティーだと、どんな感じなんだ?」
「聞いた話ですが、生活費だけメンバーに渡して残りは誰かが纏めて管理してるそうですよ。私達ならまだ人数も少ないですし、お金の管理もルーティさんでいいと思いますけど」
(俺が管理をするのか~…。本音を言えばリリーに任せたいところが、流石にまだ早いよな~…。これも仕方がないか…)
「わかった。じゃあ、俺が纏めて管理するよ。だが、無くなっても知らないぞ」
俺は不満たらたらだが、あとで何か言われないように一応言質を取ろうとするが、
「お兄ちゃんは、そんなことしないよ」
「そうです。そんな人には見えませんよ」
「「ねー」」
2人は顔を見合わせながら、クスクスと笑った。
(まあ、俺は金に興味がないし無駄使いをするつもりもないが…、金に興味がないから貯まらないということもあるんだがな…)
過去の経験からそう考えたが、興味が沸ないのでこの話はここで終わらせて次に移る。
「あと、まだ他に、何かあるか?」
「仲間の人は、もっと増やすの?」
「一応、まだメンバーは増やす予定だよ」
「3人だと、ちょっと少ないですからね~」
「ただ、すぐには募集は掛けないがな。まだリリーが入ったばかりだし。ああ…、リリーはこれからも、俺達のパーティーでいいか?」
モモが俺達を見ながら尋ねたが、俺が先に応えるとリリーも同意と頷いた。そして話を付け加えようとしたが、うっかり、リリーはまだ仮パーティ中なことを思い出し尋ねた。すると、
「いいですよ。皆さん良さそうな人ですし。改めて、よろしくお願いします」
リリーは優しく微笑んでくれた。そして、
「お兄ちゃん、家が欲しい!」
「なんだいきなり!? 却下だ!」
「えーーー! 広いところに、住みたいよ~」
モモが突拍子もない事を言い出したが、即答すると不満だと俺の体を掴みながら揺らし始めた。
異世界に訪れたばかりでいきなりそれは無理だと、駄々をこねるモモをなんとかあしらうが、俺も家は無理だが広い部屋には移りたいと考えていた。この部屋では3人で座るのみでも、かなり窮屈だからだ。
(もう少し、何とかしたいよな…)
そんな無茶な要望も出たがこのあとも話し合いを続け、まずは資金集めのためにダンジョンに通うこと。これが俺達のスタートラインとなった。
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