第29話 ビッグフロッグ戦、開始!


「「「ゲコゲコゲコゲコ」」」


 畑の終わりに近付くに連れ、夏のような音が聞こえ始めた。恐らくビッグフロッグ達と思われるが、それはウシガエルの声より野太い。


「不気味な声だな。それにしても、どこに居るんだ?」


「あの向こうじゃない?」


 おぞましさを覚えた俺が周囲を見渡しながら尋ねると、モモが前方を指差しながら返事を戻した。そこには腰ほどの石垣が連なるが、その向こう側に奴らが居るようだ。俺がそちらに意識を傾けると、


「トウッ!」


「ハァァァッ!」


 男女の気合の乗った声が聞こえてきた。既に、向こう側では他の冒険者達が戦闘を始めているようだ。俺達は歩調を速めて石垣を越える。


「こうなってたのか」


「このせいで、見えなかったんだね」


 納得した俺が呟くと、前方を見渡しているモモがそう話した。目の前には草原が広がるが、手前は緩やかな下り斜面になっている。右側には十名ほどの冒険者達が、小川を挟んで戦闘を行っている。その小川は草原を斜めに横断し、左奥に向い流れている。それ沿いに、レッド、ブルー、ピンク、イエロー、ブラック、グリーン、パープル色のビッグフロッグ達が、喉を膨らませながら合唱している。その数は、数え切れないほどだ。


「うわ~。なんか、気持ち悪~い」


「毒が、ありそうだな」


「大丈夫じゃ。ビッグフロッグ達は、毒を持たんよ。但し、上位になると、持つ奴がおるがの」


 モモが両手で自分を抱くようにして、腕を摩りながら感想を述べた。サブイボが出たようだ。俺も感想を述べると、ボボンが説明した。


(上位がいるのか。たぶんそいつらが、ギルドで聞いたモンスターだろうな)


「そうか。それなら、安心して戦えるな」


「う、うん…」


 推測した俺がモモを見ながら同意を求めるように話すと、モモは浮かない表情で返事を戻した。


「モモ。カエルは、苦手なのか?」


「そうじゃないけど…。そうじゃないけど…」


 俺が尋ねると、未だに振るえているモモは何とも言えない表情で中途半端な返事を戻した。


(う~ん。色がダメなのかな…? まあいいや。あとで聞こう)


「それじゃあ、何処で始める? こう、選り取り見取りだと、逆に困るよな」


「ふぉっふぉっふぉ。ルーティは上手いこと言うのう」


「今のは、ワザとじゃないぞ」


 やるべきこと優先した俺はモモのことを保留にして皆に尋ね、ボボンがおやじギャグ的なことを話したがそれはさらりと受け流した。


「うむ。それなら、他の冒険者達が右に集まっておるから、正面から川沿いに奥に向かいながら倒していけばいいじゃろ」


「そうだな。そうするか?」


「う、うん…。わかったよ~…」


 微笑み頷いたボボンの話に返事を戻した俺は、モモを見ながら尋ねた。モモは渋々な様子で返事を戻した。


 俺達は、この場で準備を始める。モモが自分の頬を両手で軽く叩き、モチベーションを上げている。準備を済ませ、俺達は斜面を下り正面の小川付近に向う。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「倒したモンスターのことは、気にせんでええからの。儂がしっかり、回収していく」


「頼んだ」


「ボボンさん、行ってくるね」


 奴らの射程に入る前に、俺はボボンに声を掛けた。ボボンが任せろと言わんばかりに話し、安心した俺は笑顔で返事を戻した。モモは先程までとは異なり、ボボンに明るく手を振りながら話をした。俺とモモはボボンに見送られながら、奴らの下に更に歩みを進める。





 腰の剣を抜いた俺は、それで目の前の逸れているグリーンの奴を示す。


「モモ、あれからやるぞ!」


「うん!」


 俺とモモは、気合を乗せて言葉を交わした。そのあと直ちにこの場から駆け出し、俺が奴の正面に、モモは素早く背後に回る。奴は普段見掛けるカエルとは異なり、目付きが非常に獰猛だ。これが、モンスター化しているということなのであろう。


「ゲコ」


 頭のみで前後を確認した奴は、狙いを定めと言わんばかりに俺を睨みながら一鳴きした。直後、前屈みになり、その場から飛び跳ねて両手両足を伸ばしながらこちらにダイブする。瞬間、俺は盾を前方に構えたが、


「んっ? んんっ!!!」


 同時に声が漏れ出た。何故なら、奴の体がテカテカなためだ。俺は慌てて上半身を逸らしながら、ダイブを躱す。奴は、俺の顔近くを通り過ぎて行く。同時に奴のテカテカが細く伸びて千切れ、空中に舞い散る。それは日差しを浴びてキラキラと輝きながら、奴を追うように焦る俺の鼻先擦れ擦れを通り過ぎて行く。


(あ、危なかった。危うく、顔に掛かるところだった…。それにしても、なんだあれは? ガマの油と言うやつか?)


 心拍数が跳ね上がりながら鼻先が無性にむず痒くなった俺は我慢してそこを擦らずに思考を纏めたが、耳裏にはひんやりとしたものが流れる。上体を起こし、次の奴の攻撃に備えるために素早く上半身を捻りながら背後に着地した奴を見る。すると、背を向けている奴はゆっくりと頭のみをこちらに向けて俺と同様な姿勢を取る。俺達は背中で語り合ったが、奴は目付きをいやらしくさせてその目までべろりと舌なめずりする。


(あの野郎…。余裕だな…)


 俺が闘志を燃やしながら背後に向き直る間も、奴の体からは謎の体液がどろりと地面に流れている。


(動きはスライムより早いが、避けれないほどではない。しかし…、あれは、戦闘に入ると出るのか?)


 俺が分析していると、地面をベトベトにした奴もまたペタペタと手足を動かしながら体をこちらに向き直す。


(あれには、触りたくないな…)


「ゲコ」


 俺が戸惑っていると、一鳴きした奴が先程と同様にこちらにダイブする。俺は再び体を逸らしながら、それを躱す。しかし、今度はそのまま体を捻り背後を向き、素早く奴の着地点まで駆け寄り剣を振るう。


『ズバ!』


 俺は奴が向き直る前に、右の後ろ脚を切り裂いた。片足の自由を奪われた奴はそれでも俺に襲い掛かろうと、顔をこちらに捻りながら反転を試みる。


『スパ!』


 しかし、それはモモに喉を差し出す行為だ。モモがその隙を見逃すはずもなく、上げた顎の下を素早く大きく切り裂いた。


「よっと」


 モモはそのまま力なく倒れてくる奴を、軽くステップを踏み横に避けた。


「ふう。これが、ビッグフロッグか」


 カエルが好きな俺はその姿を見つめ、弱々しく呟いた。


「楽勝だね!」


 心が痛んでいる俺に構わず、モモがニコニコしながら近付いて来て元気に声を上げた。


(これが、ここでのルールだ。早く、慣れないとな)


「どうだ? これなら一人でも、やれそうか?」


「うん! 別々で倒すことにする?」


「ああ。数が多いから、そうしよう。但し、深追いはするなよ」


「わかった! じゃあ、私は向こうで倒してくるね!」


 気持ちを切り替えた俺は尋ね、モモが聞き返してきた。応えると、今度は明るく話をした。この間に、ボボンが倒した奴をストレージに収納していた。



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