第14話 収納とギルドクエスト


(そういえば、昔のMMORPGは種族別に身体能力の差はあったが、武器やスキルは全部使えたな。もしかすると、この世界はそれに近いのか?)


「初心者講習は、これで終わりよ。ここからは、質問の時間にするわね」


 しばし過去を振り返りながら俺が頭を悩ませていると、こちらを楽しそうに眺めていたマリーが話を再開させて髪を手で払いながら一仕事終えたような素振りを見せた。俺はこの世界に訪れてから、ずっと気掛かりであったことを思い出す。


「収納魔法は、あるのか?」


「うふふ。勿論あるわよ~。ストレージって言うんだけどね」


「おおっ! やっぱりあるのか!」


(あれがあるなしだと、冒険の難易度がかなり変わるからな!)


「便利な魔法だから、大人なら最低限は使えるのよ」


「最低限?」


「ええ。スキルは人によって、得意不得意があるの。得意な分野はすぐに覚えられてレベルの上がり方も早いんだけど、苦手だと逆になるの。けれど、練習を続けていればそれなりに使えるようになって、冒険者として必要な道具の一式ぐらいは収納できるようになるのよ。但し、スキルは一定のラインからレベルが上がり難くなるの。最低限って言うのがこのラインのことね。それと、このことは成長が止まったっていうことではないの。だから、商人なんかはここから無理をしてでもレベルを上げてたりするの」


(ああ…。スキルには得手不得手があって、上がり難くなるラインがあるのか。他にもまだよく分からないことがあるが…、とりあえずは、色々あるということだけ覚えておこう)


 一瞬動きを止めたマリーだが、そのあと俺の心の中を見透かしたようなにやけ顔で話をした。声を上げた俺はゲームのことを思い出したが、続けた話に疑問を持ち尋ねた。すると、マリーはさらりと説明し、思わず眉間には皺を寄せた俺はこめかみに指を当てながらこの事は保留にした。


「丁度良いから、試しにそれをやってみる?」


「やる!」


 察したマリーが提案し、俺は無意識に声を上げていた。その申し出は、今の俺には神がかったものだからだ。これを見たマリーは、まるで面白いものでも見つけたかのようにクスクスと笑い始めた。



 ◇



「それじゃあ、まずはそこに立ってみて」


 テーブルの隣を掌で示したマリーの指示に従い、俺は移動する。続けて、マリーが俺の手を片方ずつ握り、俺はその手の柔らかさに思わずドキッとする。


「あら? まずは、力を抜いてね」


 不思議がるマリーに気取られないように、俺は一度深く深呼吸を行う。


「そうそう。リラックスしててね」


 こちらに声を掛けたマリーは、両手を胸の高さまで運ぶ。


「それじゃあ、あなたの魔力を動かしてみるわね」


「ん? 魔力を動かす? どういうことだ?」


「魔法は、自分の中の魔力を操って使うの。だから、この感覚が分からないと、上手く使えないのよ」


(なるほど。だが、そうなると、溜めがいるのか…)


 マリーの話で頭の中にクエスチョンマークが浮んだ俺は次の説明で理解したが、それに気付き頭を悩ませた。マリーは、引き続き目を閉じて何かに集中し始める。すると、俺の体の中に異変が起こり始める。


(おっ!? もぞもぞと、何かが動いてるような感じがするぞ?)


 俺は体がむず痒くなったが、その感覚は摩訶不思議ななものだった。


「これが、魔力なのか?」


「え、ええ。流れてるものを、感じたかしら?」


「ああ。何か重たいものが流れているような、そんな感じがする」


「それなら、いいわ。ふう~」


 俺が尋ねると力んでいるマリーは噛み締めながらこちらに尋ね、返事を戻すと両手を離しながら話をして額の汗を拭った。


「じゃあ、今の流れを意識しながら、穴を開けるイメージでストレージって言ってみて」


(穴を開ける?)


 マリーの話の意味が分からなかった俺だが、とりあえずそれらをイメージする。そして、


(魔力は、今も動いてるこれか。穴は…)


 白紙に黒丸が描かれたものを思い浮かべ、


(あっ。これは、穴が開いてないな…)


 うっかりした。続けて、


(いきなり言われると、意外と思い浮かばないな。とりあえず、マンホールの穴でいいか)


 それと魔力を意識しながら言葉を口にする。


【ストレージ】


 思わず目が丸くなった。これは、あまりにも不自然と言うべきであろう。突如、空中にその輪郭と表面が揺らめく黒紫色の穴のようなものが現れた。


 首を傾げた俺は、その穴をまじまじと見る。次に、それに指を差しながらマリーの顔色を窺う。うんうんと頷いている。早速、俺はそこに指を差し入れる。


『ボキッ!』


「痛っ!!!」



 ・・・・・・



 咄嗟に指を引き抜いた俺は、それを逆の手で押さえた。理由は簡単、突き指したからだ。


「クスクスクス」


 隣から小さな笑い声が聞こえる。勿論マリーだ。俺は睨み付ける。


「そんなに、勢いよく指を入れてはダメよ。まだ中は、小さいんだから」


「そういうことは、先に言ってくれ…」


 腹と口元を押えて笑いを堪えているマリーは説明し、俺はやりきれない気持ちで返事を戻した。どうやら、最初は極小の収納のようだ。


「ご、ごめんなさい。じっとしててね」


 涙目で話をしたマリーは、俺の負傷した指に手をかざす。


【ヒール】


 そう唱えると指を柔らかな光が包み込み、痛みがスッと引いた。指は、普段通りに動かせるようになる。


「おおっ!? これがヒールか!?」


 俺は再び目は丸くさせ、大いに喜んだ。しかし、こんなくだらないことでヒールデビューを果すことになってしまった。


 このあとも、俺は引き続きマリーに様々な事を尋ねる。一般常識では不審に思われるかと心配したが、俺を子供扱いしているマリーは何の疑問も持たずに話を聞かせてくれた。そして、初心者講習の終わりを迎える。





「色々ありがとう」


「いいわよ、そんなの。分からないことがあったら、いつでも気軽に聞いてね」


「そうさせてもらうよ」


 俺は礼を述べ、マリーの微笑みながら話をしに感謝を乗せた笑顔で返事を戻した。そして席を立とうとするが、


「それじゃあ、早速ギルドから、クエストを出すわね」


「ふへ?」


 マリーの話の内容に意表を突かれて変な声が漏れた。


「ふふっ。驚いたかしら?」


「あ、ああ」


「新人の冒険者にはこの講習のあとに、色々慣れてもらうためにこうしてるの」


(なるほど。クエストの、チュートリアルみたいなものか?)


 微笑むマリーの話に俺は返事を戻し、座り直しながらそう考えた。


「内容を伝えるわね。クエストは二つあって、一つ目はレベルを10まで上げること。そこまで上げれば、ゴブリンとも戦えるようになるからよ。二つ目は、アマのダンジョンを攻略すること」


「アマのダンジョン?」


「ええ。初心者用のダンジョンって言われてて私達が管理してるんだけど、新人の子には、まずは私達の目の届くそこをクリアすることをお勧めしてるの。街の近くはスライムぐらいしか居なくて比較的安全ではあるんだけど、それでも危険性は高いからよ」


(なるほど。結構、気にしてくれるんだな)


 マリーの話に俺は首を傾げて尋ねたが、続けた説明でこの街のギルドに対して若干の安心感を抱いた。


「それでね、報酬なんだけど、レベルが5と10になった時と、ダンジョンの階層を一つクリアするごとに出るわ」


「おっ! 報酬が出るのか! 気前がいいな! それは、何が貰えるんだ!?」


「大した物じゃないけど、秘密よ。楽しみにしてて」


(楽しみというぐらいなら、最強の武器! は、ないと思うが、異世界名物の初めは使い道が分からないが実はとんでもないスキルとか、ごみのようなアイテムが実はレアな物でそれを売って大金持ちになるとか、そんなものが貰えたりするのか!? どっちにしろ、何かと物入りになるんだし、これはやらない手はないな!)


 マリーの話に俺はテンション高く応えて尋ねたが、笑顔でじらすような返事を戻しされたために一層妄想が膨らんだ。


「内容を、詳しく説明するわね」


 マリーは、このあと話を続けた。そして、それが終わり、俺はギルドの出入り口の外に出ようとするが、


(そういえば、さっきのあれは、結構難しいのか? 簡単だと、何かと便利になりそうだが…)


「マリー。さっきの俺の魔力を動かすってやつは、簡単にできるのか?」


「ううん。あれは、かなり魔法に慣れてないと無理よ」


 それを思い出してこちらを見送るマリーに尋ねた。すると、マリーは首を静かに左右に振り冷静に返事を戻したがそのあと、


「こう見えても私、実は凄いのよ」


 前屈みで人差し指を立てながら話をし、最後にウィンクした。俺はお決まりのポーズかと考えながらも、思わず心を奪われそうになった。男とは、単純なものである。



 ◇◇



 ギルドをあとにした俺は、残りの時間は街のことを知ろうと散策することにしたが、


(腹が減ったな…)


 空腹を覚えたため空を見上げた。すると、太陽が真上に位置している。それならばと、俺はムーン・ツリーにある屋台で何かを食べようと、そちらに足を向ける。


 街の様子は昼の書き入れ時なため、賑わいを見せている。俺がこれを楽しみながら大通りを歩いていると、


「お兄ちゃん」


 突然、背後から声が聞こえた。



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