第29話 大繁盛の料理店
翌日。昨日の夕方にアメリアが持ってきてくれたエプロンを朝からずっと身に着け、ウルが気合たっぷりといった様子だったのだが……想定外の事が起こってしまった。
「ウルちゃん。次は三人な。トーマさんに言っておいてくれ。あー、水は自分でやるから気にしなくて良いからよ」
「ウルちゃん。こっちのテーブルは片付けておいたからね」
「ウルちゃん。これ、こっちの二人分の代金だから。落とさないようにね」
昨日のフィリアさんたちが、かなり声を掛けてくれたようで、お客さんが留まる事なくやって来る。
しかも、忙しいのが分かって居るからか、小さな村の良さなのか、お客さんが自ら食器を片付けたり、グループで代金を集めてウルに渡してくれたり……物凄く助けられていた。
それでも、忙し過ぎてウルがアタフタしているけど……うん。ウルが困らないように、所々で助けてくれている。
これは、ウルの可愛らしさが成せる業だろうな。
日本に居た時の俺……というか、店では有り得ない光景だ。
「ぱ、パパー! つぎ、さんにんー!」
「わかったー! ウル、少し休憩するか?」
「ううん。だいじょうぶー! おやすみするなら、パパといっしょー!」
うーん。外の様子がはっきり見える訳では無いが、ウルを休ませてあげたいな。
ぶっちゃけ、ナギリの力を使えば……というか、お客さんから見えない所では既に使いまくっていて、肉を焼きながらしながら皿洗いをしたり、下ごしらえをしたりしている。
正直言って、ナギリからもらった敏捷性向上のスキルがなければ、もっと長蛇の列になっていて、クレームになっていたかもしれない。
そんな事を考えていると、突然誰かが家の中へ入って来た。
この忙しいのに、何だろうかと思って居ると、
「トーマさん! お手伝いしますよー!」
「アメリア! すまない、物凄く助かるよ。悪いが、料理を運ぶのと、食器を下げるのをお願いしても良いだろうか」
「はい! 任せてください! ……あ、ネヴィアさーん! こんにちはー! ご家族で来てくださったんですねー。……えぇ、噂は本当ですよ! トーマさんの料理はすっごく美味しいんです!」
ウルとお揃いの、フリルが沢山付いた白いエプロンに身を包んだアメリアが、お客さんと談笑しながらお皿などを運んでくれる。
ウルはお客さんから凄く人気だけど、力が無いから、後片付けが大変そうだったけど、これならウルの負担が少し減るな。
それから、俺が調理と皿洗いをして、アメリアが料理を運んだり、片付けたり。ウルがお客さんを案内したり、代金をもらったり……気付いた時にはかなり時間が経っていたが、無事に全てのお客さんに料理をお出しする事が出来た。
「パパー! おつかれさまー!」
そう言って、真っ先にウルが抱きついてくる。
「トーマさん、お疲れ様です」
「ウルもアメリアも、ありがとう。本当に助かったよ。……まさか、こんなに大勢来てくれるなんてな」
「トーマさんの料理が美味しいからですよー。あ、あの……良ければ、明日もお手伝いしましょうか?」
「良いのか? その、凄く助かる。えっと、賃金を支払わないと……」
「そ、そんなの良いですよ。そ、その……将来の予習ですし……」
またもやアメリアが小声になった……と思ったら、
「……すー」
ウルが俺に抱きついたまま眠っていた。
なるほど。アメリアは、ウルが眠った事に気付いたから小声だったのか。
ウルを抱きかかえると、そのままベッドへ運び、静かに毛布を掛ける。
「そうだ。アメリア……少しだけウルを見ていてくれないだろうか」
「構いませんけど、どこかへ行かれるんですか?」
「あぁ。ちょっと食材を調達してこようと思って」
昨日のフィリアさんの言葉で、かなり多めに下ごしらえをしておいたのだが、それでも足りず、かなり肉を使ってしまった。
野菜はまた明日届けられるが、肉は森で狩らないとな。
アメリアに眠るウルを任せ、大急ぎで森の奥へ向かう事に。
「前回みたいに一角ウサギの群れが現れてくれたら嬉しいが、そうそう幸運は続かないだろうからな」
ナギリの敏捷性向上スキルを発動させ、サクサク森の奥へ進んで行くと、
「……あれ? この感じ……トーマ! 一旦ストップ! これ以上は進んじゃダメだっ!」
コズエから突然待ったが掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます