第3話 小杖の神コズエ

「えっ!? お、女の子!? でも小さくて、宙に浮いていて……ど、どうなっているんだ!?」

「あ、そっか。突然、ごめんね。私たちはトーマの事をずっと見ていたんだけど、こうしてトーマの前に姿を現したのは初めてだよね。……こほん。改めて、はじめまして。私は小杖の神、コズエだよー! 宜しくねー!」


 八百万スキルを使用したら、黒髪の女子中学生を人形くらいのサイズにした女の子が現れて、小杖の神とか言い出した。

 いやいや、神って。

 でも、こんなに小さな女の子が存在して、浮かんでいる上に喋っているし、本物……なのか?


「えっと、コズエ……様? 確認したい事が幾つかあるんだけど」

「私とトーマの仲じゃない。コズエで良いよー! あと、敬語も不要だよっ! それより、聞きたい事って?」

「……そ、それなら、まず小杖の神って何なんだ? そんな神様聞いた事がないんだけど。この世界の神は、創造神だけだよな?」

「うん、この世界の神様はそうだねー。だけど私たちは日本の神様だから」

「日本の神様って、例えばアマテラスオオミカミとかヤマトタケルノミコト、イザナミ……とかじゃないの?」

「凄く偉くて有名な神様たちだねー。でも、八百万の神様って聞いた事はないかなー? 日本だと、いろんな物や現象なんかも神格化されていて、沢山神様が居るんだよー! で、その沢山の中の一つ、小杖の神様が私って事」


 そう言って、コズエが無い胸を張る。

 何故かドヤ顔なのは、そっとしておこう。

 しかし、コズエは日本の神様なのか。俺が元日本人で転生したから八百万の神様が力を貸してくれるのか?


「あ! 八百万スキルって、もしかして八百万の神様の力を借りられるスキルなのか!? さっき小杖で攻撃魔法を使ったら、とてつもない威力だったんだけど」

「そういう事だよー。『小杖装備時の魔法効果向上』は、私がトーマに与えたスキルなんだー。この世界では、神様が一つずつスキルをあげられるからねー」


 一つずつスキルをあげる……というか、普通は創造神から一つしか貰えないんだけどな。


「……という事は、俺は八百万個もスキルが貰えるのか!?」

「そういう事! まぁ八百万っていうのは数が限りなく多いって意味だから、実際はもっと沢山もらえると思うよー! トーマが認められれば」

「ん? 認められれば?」

「そう! トーマはこの世界へ来てから、毎日毎日小杖を使って魔法の練習をしてくれたよね? 私がトーマを認める条件は、小杖を使って十万回以上魔法を使う事だからね」


 十万回!? いやまぁ六歳から毎日欠かさず魔法の練習をしていて、一日に何十回と杖を振っていたけど……思った以上にスキルが貰える条件は厳しいんだな。


「他の神様に認められるにも、その道具とかを十万回使わないといけないのか?」

「それは神様次第だねー。神様によって性格が全然違うし。それに、他の神様がどういう条件でトーマの事を認めるかは、私も分からないから何とも言えないよー」


 なるほど。コズエがくれたスキルだけでも十二分に凄いし、スキルを増やす事よりも、先ずは当面の生活を安定させる事を優先した方が良さそうだな。

 とりあえず、先程の熊の魔物も倒して安全になったし……って、さっきの少女が居ない!

 無事に逃げてくれたのだろうか。

 一先ず、投げ捨てたカバンを回収し、再び街道を歩きだす。


「あ、そうだ。一つ言い忘れていたんだけど、私の姿や声はトーマ以外には見えないし、聞こえないから気を付けてね」

「そうなのか? じゃあ、今こうしてコズエと話しているのを見られたら、とてつもなく大きな独り言って事になるのか」

「あはは、そうだよー。というか、トーマの周囲には他の神様だって居るんだけどねー。姿を現していないだけで。だから、触れる事が出来るのも私だけだよー」

「え? 神様なのに触れるの? ……あ、本当だ」

「あ……その、なでなでは気持ち良いかも。トーマ、もっともっとー!」


 コズエが頭を撫でろと言って来るけど、その頭が小さすぎるから、人差し指で撫でて……こんなので良いのか?

 そんな事を思いつつも、一人で街道を歩いてるよりも、コズエが話し相手になってくれているからか、早く時間が経ったように感じたらしく、あっという間に村が見えてきた。

 あれが、母親の言っていた村か。

 先ずは事情を説明しないと……と考えていると、村の入り口に人影が見え、


「あっ! さっきの旅人さんっ! 無事で良かったですっ! 助けていただいて、本当に……本当にありがとうございましたっ!」


 先程助けた少女に、深々と頭を下げられた。

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